Novel

亡国の獣 拾伍―冗漫―

 がさり、音を立てて現れた闊達に、賊たちはあからさまな動揺を見せた。
「何者だ?」
 赤い布面が代表で言った。
「いや、いや。あっしはしがない旅人でさァ。なにやら爆発する音が聞こえたモンで、そこに隠れてたンですよォ」
 草むらに残った一行は唖然としていた。誰が闊達のこんな姿を想像できたと言うんだ。
 赤い男は仲間に目配せした後、捕り物をしていたのだ、と闊達に告げる。
「ああ、そうですかぃ。それじゃあ、まだそこに仲間がおりますんで呼んでもいいですかい? ちぃっと先を急いでるモンでね」
 再び赤い男が仲間の方を向く。返事はなかった。沈黙は肯定。闊達は、いいンですねと独りごちて、一行の方へ戻ってきた。
「さて、行くぞ」
 闊達の言葉に、角少年を除く一行は立ち上がった。月桂はやる気を目に宿して、勇允と冲和は仕方ないなあと言うように。
 ここさえ抜けてしまえば、浦西まであと一息だ。浦西さえ越えてしまえば、王都大京は目と鼻の先なのに。
草むらから抜け出て、全員顔を隠すようにして進む。
「待て」
 赤い布面の声に、角少年がびくりと肩を震わせた。
 一行は振り向かない。足は地に縫い付けられたかのように動かない。
 足音が近づいてくる。
 後三歩。
 二歩。
「そやつを――」
月桂が振り向いて槍を振るったからだ。
 赤い布面は最後まで言うことが叶わずに跳び退る。
 弾かれたように角少年と冲和が走り出した。
 すべてが同時のことだ。
「月桂!」
 勇允の呼びかけに月桂は獣のようなうなり声で応えるだけで、槍を振るう手を止めようとしない。
「往くぞ」
 闊達の声に、月桂は不服そうに離脱した。勇允もそれを追うように駆ける。

「これは無いって」
 走って、行き着いた先で、冲和が嘆くように言った。実際嘆いていた。
 眼前にはそびえ立つ崖。月桂はめまいがするのか、眉間に指を当てている。振り向けばヤツらがいる。
前門の崖、後門の賊。
 完璧などん詰まりだ。
「どうするのさ!」
 迫り来る賊に冲和が悲鳴を上げた。
「正面突破」
 月桂が背後を振り向き、槍を構えた。
 そのまま流れるような動きで賊に肉薄する。
「おい、何やってんだよ!」
 振り向いた勇允が、ぎょっとしたように怒鳴る。そして闊達たちの方を向いて後から行く、と声をかけた。