Novel

亡国の獣 拾肆―浦西前―

「おや」  空を見上げた闊達が不意につぶやいた。
 灰色の空、一団のずっと先のほうで、空にあいた丸い穴から、雲が滝のように垂れ込めている。
「あの下が浦西だな」
「あれが?」
 冲和が頓狂な声を上げた。
「晴れの町、っていうのが浦西の売りだったはずだよ?」
 ねえ兄貴、同意を求める冲和の声に、勇允も頷く。
「少なくとも五年前は、あんなひどい天気になったことはなかったよ」
「お主らは浦西県出身なのか?」
 驚いたような、何かにおびえるような角少年の問いに、冲和が答える。
「あれ、言ってなかったっけ。僕と兄貴は浦西出身だよ。まあ、五年前の大火災で浦萼に逃げたんだけどね」
 言い方は淡々としているが、内容は壮絶だ。
 五年前の浦西大火災と言えば、幼王が愚王たることを世に知らしめた一大事件である。
冲和の言葉に角少年は、目を見開き、次いでうつむいて、そうか、とだけ言った。
「感傷に浸るのは後にしよう」
 闊達の一言で、急に緊張の糸が張り詰める。その側で、月桂が野犬よろしく歯をむき出しにして周囲を威嚇している。年少二人は輪の中央へ押しやられ、勇允が背中の両刃剣に手をかけた。
 刹那――、
 どぉんと派手な爆竹の音が鳴り響く。火薬のにおいと煙が辺りに充満する。
 この感じは、もしかして、もしかすると――、
「賊!」
 冲和が鋭い叫びを上げた。
 煙に紛れて、一行は草むらの中に身を隠す。
 視界が晴れる頃には、赤、蒼、黄、緑の色とりどりの布面をかぶった賊たちがうろついていた。
「いたか」
「否」
「どこにいった」
 声を聞く限り、女も混じっているようだ。
 草むらの外で、人の行き来する音がする。一行は息を殺してその場にうずくまった。誰も声を発さない。見つかったら最悪死ぬ、皆が本能でそれを感じ取っていた。賊の目的はやはり角少年だろうか。勇允は横目で彼をのぞき見た。角少年は非常時だというのに平然としている。肝が据わっているというよりも、こんな状態に慣れているといった態度だ。
ゆらり、音を立てることもなく、何の気配も発さずに、闊達が立ち上がった。初めて会ったときのようだ。ぼんやりと、勇允は思う。そのまま無言で賊の方へと歩いて行く。とたんに月桂が暴れ出した。
 それ抑えて、勇允は声無く問うた。闊達はそれに一瞬振り向いて応じた。