No−128?(完全対称型プリアンプ)製作記
1999年12月完成(一応)


その2
(2000年7月記)


その1はこちら

と言う訳で、こういう場合は試作してみることだ。と、先ずNo−128?のフラットアンプ部をサラッと組んで乾電池で動かしてみた。右がそれだ。

が、どうも終段のアイドリング電流の安定とドリフトがイマイチだ。特にドリフトは最大ゲイン位置では100mV以上にも達する勢いだ。この後に32db(40倍)もの電圧ゲインがあるパワーアンプがつながることを考えるととても許容できるものではない。念のためにA726GをA872Aに換えてみても変化はない。う〜ん、こんな簡単なアンプも上手く作れなくなってしまったのか、腕が落ちたな・・・


考えるに、手持ちの2N5465はIdssが10mA以上あり、これを4mAにするためには自己バイアス用ソース抵抗がかなり大きなものになってしまう。こうするとどうも温度に対する電流安定度も良くなってしまうようだ。また、2N5465とC960の接着面積もずいぶんと小さい。結果としてアイドリング電流の安定がイマイチなのではなかろうか。ただ、パワーアンプではないので、終段のアイドリングの安定にはそんなに神経質である必要はないのかもしれない。暴走するものでなければ良いような気はする。

だが、ドリフトが大きいのはなんとも致命的だ。これではパワーアンプ並み。Cで切るのは抵抗があるし、不完全なアンプを作るようで気が向かない。ちなみに2台のGOAプリアンプは±3mV程度以内でピクリともしない。クローズドゲインにそんなに差がある訳でもないのに何故なのか。

本当はパワーアンプの出力に1V位のDCが生じたからといってウーハーはもとよりツィーターだって壊れやしないので、これをパワーアンプ出力ドリフトの許容範囲としても構わないのだが、それでもゲイン40倍の完全対称型パワーアンプの使用を前提にするとプリアンプに許されるDCドリフトは±25mV。オープンゲインが不足なんじゃないかなぁ、と推測したりするものの、このままではなんともならない。
簡単なものほど難しいということは良くあることだが、TR式完全対称型プリアンプの製作は、この簡単に見えるフラットアンプで最初からつまずいてしまった。あらま・・・

TR式完全対称型プリアンプの記事は95年6月号以外にもある。97年9月号のスーパーサーキット講座だ。こちらは、初段の定電流回路は電流帰還型で終段にはエミッタ抵抗が挿入され、位相補正もステップ型に変わっている。また、レギュレータを使わない電源前提でカスコードアンプが付加されている。フラットアンプの回路定数に一部おかしい点もあり、実際製作されたものか(単なるミスプリか)怪しいのだが、こっちならどうだということで、次にこれを参考にイコライザー部とフラットアンプ部を組んでみた。

シンプルに懲りてしまったこともあり、フラットアンプ部まで独自に初段、2段ともカスコードアンプを加えて組んでみた。それが右で、素子はC1775AやA872Aに代えてC1400、A726Gを使い、フラットアンプの2段目差動アンプの共通エミッタ抵抗は終段がまともに動作するように調整した。また、電池で動かすので電源電圧は取りあえず±15Vだ。
が、イコライザーは発振。例の2段目に入れるCで止まるが、その必要値は随分と大きく尋常ではない。また、フラットアンプは相変わらずドリフトが大きい。どうも上手くない。こんなに嫌われるのも珍しいな・・・。

これはどうも容易ではなさそう。完全対称型はGOAより格段に難しいのか?。と言うわけで、試行錯誤の始まりなのだが、今となってはその全てを覚えていないし、今思うといくつかの要因が複合的に絡んでいたようで、何が本当の原因で何が解決策だったか、確かなところはもう分からない。のだが・・・

素子を換えたのが良くないのか、と、先ずは記事どおりC1775AとA872Aに戻してみる。が、変わらない。

イコライザー。NFB帰還回路の1500pFに3.6KΩをシリーズ接続する。高域の帰還量を制限してNFB安定度を高めるためのもの。金田さんはオールFETのプリアンプなどで、これはNFB安定度に優れているなどということでこれを省略することがあり、ここでもなくて良いとしているのだが、わたしの数少ない経験ではこれで上手くいったためしがない。逆にこれを入れることによる効果は絶大なのだ。
結果やはり大分安定になった、と思う。


初段のカスコードをはずす。どうもカスコードがない方がNFB安定度は良いようだ。あるいは、カスコード自体が発振していたのかもしれない。
よって2段目カスコードもはずす。これはあまり差がないようだ。が、2段目差動アンプには電流帰還をかけて出力インピーダンスを高めている上に、さらにカスコードアンプを付加するのはどうもスマートではないなあ〜、という気がする。あってもなくても同じならば付けないほうがいいように思える。初段のカスコードを外すとなれば、電源変動除去の理由で付いている2段目も付ける必然性がそもそも消滅する。

フラットアンプ。カスコードで固めてもドリフトが大きいのではカスコードを付加する意味がない。し、イコライザーの方も外してしまったのだから、早速外してしまう。となるとやはりオープンゲインが足りないのではないかと思い、2段目差動アンプのエミッタ抵抗を殺してみたが何故か殆ど効果がない。見込み違いかとも思ったが、カスコードを外して電流帰還も外してしまったら終段の電流ドライブも出来ないよな、と気づいた。それでは初段のゲインアップで、と、初段をK30からgmの大きいK170に交換してみたが、これはその時点で既にカスコードを外した後だったことを忘れていて大失敗。ゲート漏れ電流が桁違いでそもそもまともに動かない。このFETはカスコードが必至だなと思ったが今更付けたくないのでこれまでである。

それでは、と、発想を変えて終段のC960を二つ熱結合してみる。そうだよ、差動アンプに使う時は必ず熱結合していたではないか。完全対称型は終段のゲインが一番大きいのだからゲインの大きい終段を熱結合すべきだ。と思ってやってみるとなかなか効果的。ドリフトが半分以下になる。採用。

と、書いてしまえば数行だが、実際はちょっと集中して試行錯誤して、嫌になっては投げっぱなしになっている期間が長いから、これで数ヶ月が経過している。勿論基盤は正に試作基盤状態でもうゴチャゴチャだ。でも何とか方向は見えた。

しばらく時が経過すると試行錯誤中の嫌気も忘れて、また、やる気になる。よし、ケースに組む前提で本番のつもりで製作だ。

上の経緯から当然カスコードは止めることとして、元に戻ってシンプル型だ。位相補正とフラットアンプのドリフトは作ってみてカットアンドトライすれば何とかなるような気がする(喉元過ぎると熱さ忘れる)。さらに、アンプの動作の安定度を向上させるためにもプッシュプルレギュレータにお出まし願うことにする。実験中乾電池の数を変えて電圧変動の影響を測ってみたのだが、出力DC電圧にはやはりそれなりの影響がある。カスコードを使わないこともあり、フラットアンプの出力DCの減少・安定のためにもレギュレータの助けを求めよう。そもそもNo−128?にはプッシュプルレギュレータが付いている。
No−128?の内部
ケースは完全対称型のパワーアンプに合わせたいので、タカチのOS49−26−33BX。
これでケース内基盤配置を検討してみると、EQ部、FA部にレギュレータ部を配置して殆ど一杯となるようだ。トランスや平滑コンデンサーを入れる余裕はない。ならば、パワーアンプのように電源部分離方式にしてはどうか。当初は電池を電源にして、電源部は後で作ることにしよう。経済的。と言うか初期投資額は減る。

さて回路だが、初段の定電流回路は2N5465は止めてTRの電流帰還型にすることにした。ここはアンプ全体の動作基点だから出来るだけ安定なものにしたい。当然のごとく2段目差動アンプにもカスコードは入れない。電流帰還をかけた上にカスコードというのはやはりノンスマート。となると位相補正だが、カスコードでない場合2段目のC−B間には何となくCを入れたくない。ので、初段のステップ型で何とか調整したい。また、EQ出力に47Ωを入れてはどうか。容量負荷安定度向上を期待するもの。フラットアンプの出力段は、エミッタ抵抗を入れ電流帰還をかけてアイドリング安定度を確保しよう。別にヘッドフォンなど使わないので、そのための回路にする必要はない。裸の出力インピーダンスを高める方向にしよう。

という思考経緯があって、回路はこんなものとなった。(回路図ではイコライザーアンプとフラットアンプ間にディップスイッチが挿入されているようですが、実際はロータリースイッチです。)この回路はこれを書いている時点のものだが、当初もそう変わってはいない。位相補正のCとRが200pFと68Ω、FAの初段の負荷抵抗は680Ωでその終段のエミッタ抵抗が47Ω、このため、初段定電流回路のエミッタ抵抗と2段目の共通エミッタ抵抗がそれに合わせた抵抗値になっていたくらいである。改めて見ると定数設定にNo−128?とスーパーサーキット講座の要素が混在しているなぁ。また、電源は「オーディオDCアンプシステム」搭載のレギュレーターにしてしまったので、当初は±17.5Vだった。

今回はようやく上手くいきそう。各基盤が出来るごとに動作確認すると発振もなさそう。ただ、フラットアンプのドリフトは最大ゲイン位置だとまだ±25mV近くになる。それでも当初0に調整すると動作安定時に50mVになるのだから満足できるものではない。が、先ずは全部こしらえてケースに組み込み一気に配線した。フラットアンプのDCドリフト量が問題になるのはボリューム最大位置付近で、その位置で聴くことなど現実的でなく、実用位置であると思われる最小ボリューム付近ではドリフトなど全く問題ないのだから、最後はこれで妥協もしょうがないのかも知れない、ということだ。

外部入力は3回路用意した。真夜中から昼間まで最適な音量で、かつ、CDでもチューナーでも対応できるようアッテネーターの減衰レベルを3種類用意したのだ。また、フラットアンプの出力端子も3種類用意した。2つはそのまま並列でこれは録音等にもそのまま対応するためだが、もう一つは、もしどうしてもドリフトが減少出来ない場合にしょうがないからCで切った出力も用意するかと考えたもの。

このケースではNo−128?の後ろ姿信号ケーブルにモガミ2497などということは不可能だから、SONYのRKファミリーを使った。この程度の入出力端子とコントロール機能でも、配線作業の面倒さはパワーアンプの比ではない、というのが偽らざる実感。

また、ケースの穴あけもピンジャックの数が多い分難儀した。また、ピンジャックの上下の取り付け位置がぎりぎりの寸法で、穴あけ位置がずれると取り付け困難の事態に陥る可能性が高い。が、なんとか完成だ。

電源を入れて各部の電圧等を確認してみると、特に問題はないように思えた。上手くいったかな(^^;)
じゃあ、と言う訳で、音を出してみることとした。まず電池式のGOAパワーアンプを片手で持ってきて聴いてみる。あまりの鮮烈さと音飛びの良さから、経験上何となく発振気味だな〜とは思ったが、久しぶりの経験だったのでリスク認識が甘くなってしまっていた。ここで一度止めて再度確認・調整すれば良かったのだ。

が、心がはしゃいでしまっているからそういう抑制が利いてこない。それでは完全対称型パワーアンプでも聴いてみるかと思ったのが運の尽きだった。

はるかに重い完全対称型パワーアンプを担いできて配線をし、パワーアンプの電源を入れ、そのミューティングスイッチをOFFにすると、何故かハム音がする。
おかしいな。どこか配線を間違ったかな〜、と思っている刹那、左チャンネルのスピーカーからバシッと音がした。アッ、しまった〜。と、あわててパワーアンプの電源を切ったが、勿論既に遅かった。なんと、パワーアンプ(No−144)の左チャンネルのUHC−MOSが幾つかの周辺素子を道連れに昇天してしまったのだった。やっちまった〜。

あ〜あ。これでしばし製作は休止。涙もの。
不幸中の幸いは+側と−側が同時に切れたが故か、中点電位が保持されてスピーカーが無事だったことだ。が、しばしショックに沈む。

それよりパワーアンプだ。と、気を取り直して調べはじめる。

UHC−MOS、やはり完全導通状態。K214、一つは完全導通状態で一つは半殺しになっている。内部で一部破壊状態なのだろう。0.1Ω、電源電圧を全て引き受けて飛んでいる。D756、B−E間に許容を超える電圧がかかったのだろう、完全導通状態。とダメージ素子を確認した。プリアンプの高域発振信号がまともに入って終段のバイアスが異常上昇し、結果終段のアイドリング電流が異常に増大してUHC−MOSが損失オーバーに耐えかねて飛んでしまったのだろう。

これでよくスピーカーが無事だったものだ。と、幸運に一応は感謝しつつ、2SK1297はエイフルからCOPT−119の4個セットを購入し、K214はNo−147(風)製作の際テクニカルサンヨーからNo−144のアンプ部として一括購入した際の余りがちょうどあったのでこれを使い、他も手持ち等で対応してNo−144の復活作業をする。が、こういう時の気持ちはやはりやりきれないものがある。

とりあえず復活作業は上手く完了し、No−144は目出度く蘇った。
右チャンネルの2SK1297と左チャンネルに新たに導入したCOPT−119にVgsの差など特性差があったら、この際だから右チャンネルもCOPT−119にしてしまうかとも考えていたのだが、なんとId200mAの動作状態でのVgsはほぼ同じだ。という訳で今は日本コロンビア純正UHC−MOSとテクニカルサンヨー選抜の日立2SK1297が仲良く並んで働いている。

さて、問題はプリアンプの発振だ。


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