No−128?(完全対称型プリアンプ)製作記
1999年12月完成(一応)
(2000年7月記)

No−128?No−128?の正面
 
良く見ると、DCアンプシリーズNo−128は2つある。93年3月号のオールFET万能型スーパーストレートプリメインアンプと95年6月号の完全対称型プリアンプの2つに128の番号が振ってある。が、順番からすると後者は単なるミスプリで正しくはNo−138のようだ。

が、95年6月号の完全対称型プリアンプも本文がNo−128だし、ここで製作の記を述べようとするものも、そのNo−128?のような回路となっているので、ここではそれらの意味を含めてNo−128?ということで(^^;) などと、先ずはどうでも良いこと。


金田さんのDCアンプシリーズは長きにわたって半導体を用いるものだった。そして古くからの金田式DCアンプファンは、これに真空管が使用されるなどということはないだろうと思っていた。何故なら、コンプリメンタリ素子のない真空管ではDCアンプが作れないと本人がおっしゃっていたから。

が、これもよくあることなのだが、MJ界隈でも真空管が大幅に跋扈していたが故か、「神ならぬ身」、「ミイラ取りがミイラに」なってしまったということで、90年7月、No−117で真空管DCプリアンプが登場してしまったのだった。しかも、電源は乾電池で、出力は真空管のプレートと75V電源間から取り出すというトンデモナイものだ。
が、この辺が彼の方の真骨頂ではある。
そして金田さんの場合、登場したということは必然性があるということとほぼ同義だ。たまに例外もあるが、この場合は正にそのとおりで、以後、真空管は、その後登場したUHC−MOSと同程度に金田式DCアンプのキーディバイスとなり、特にプリアンプにおいては徐々に、しかし完全に真空管が主流となってしまったのだった。このため半導体を用いたプリアンプは95年6月号のNo−128?の完全対称型プリアンプを最後に、以後忘れられたかのように取り残されたのである。
そして今の時点でようやく書けるのだが、つい最近の2000年6月号のNo−159まで、実に5年間新たな製作記事が発表されることがなかった。

と言っても、半導体を用いたプリアンプについては、GOA時代にGOA自体と理想NF型イコライザー方式や分配型イコライザーなどで突き詰め尽くされた感があり、展開としては真空管でも用いるしかないのかなという感も否めない、というのはわたしの感想。

未だ真空管に手を出していない者の負け惜しみだが、ついでに言えば、異極性のものがない真空管と違って、半導体プリアンプに完全対称型を用いることについては、パワーアンプほどの必然性に乏しい。真空管では完全対称形式はある意味必然だが、半導体プリアンプでは完全対称型はGOAに取って代わるものというよりバリエーションという感じだ。

それが証拠にというか、何でもいいのだが、No−128?の記事を良く見てみると面白い。写真撮影の段階では、フラットアンプも終段にはエミッタ抵抗で電流帰還がかけられており、初段の定電流回路の2N5465は終段のC960と熱結合されていない。また、2段目が真空管式のようにカレントミラー動作になっているらしい(裏に抵抗がついているかもしれないので確実ではない)ことが伺えるのだ。2段目の動作はこの際置くとしても、当初このアンプのアイドリング補償は電流帰還で済まされていたものだったのに、その後、終段のゲインを上げるためか、あるいは低インピーダンスのヘッドフォン対応にするためか、はたまた両方の理由からか終段のエミッタ抵抗がはずされ、それが故に代わって初段2N5465による終段アイドリング補償としたように思われるのだ。

これは、ヘッドフォンも鳴るようにして存在意義を高めたというか、終段が完全対称型であるメリットをSEPPであることによる電流供給能力に転じさせたもので、素子数を可能な限り減らしている点とともに、GOAに変わる有意義な価値を完全対称型プリアンプに与えようとして金田さんも色々考えたな、などと僭越ながら推察してしまう、のは私だけかな(^^;;)。

併せて、完全対称型は段数が増えて3段になってしまう。2段で十分なゲインが得られるのにさらにゲインを有する終段を付加するのだから、2段目のゲインをわざわざ下げることになる。エミッタ抵抗で出力インピーダンスを高めると説明されればそうかなとも思うが、真空管式のようにカレントミラーにしてしまった方がかえってすっきりするようにも思える。この点では旧GOAの方が無駄がないような感じが・・・(^^;

と、私の講釈などどうでもよいのだが、もう真空管が主流になったということだけは疑いがないのだ。

となると、ついに見放され、ますますデッドストックになってしまいそうな幾つかの半導体素子たちにもなんとか働く場を与えてやらなければ、と、いささか情が湧いたりするのだった。

たとえば2SC984。これはもう20年くらいもジャンク箱の中で眠ったままだ。

金田さんが初期にMJに発表したプリアンプは、初段K30、2段目A640による抵抗負荷2段差動アンプにこの2SC984のエミッタフォロアーという構成だった。実は私が最初に作ったプリアンプもこれだった。
金田式DCアンプでC984がアンプ部に使われたのはこれが最初で最後だと思う。シングルエミッタフォロアは容量負荷のドライブ能力の問題からプッシュプルエミッタフォロアに早期に移行してしまったから。そのため私の最初のプリアンプもいつか解体され、以来C984は長い眠りについたのだった。

また、その後金田式プリアンプの主役となり、入手困難となってからも長らく君臨し続けた2SA726Gや2SC1400という往年の名器も幾つか生き残っている。


プリアンプはGOAによるものが2台あるので、あえて作る必要性は薄いのだが、取り残された半導体素子を生かして完全対称型でプリアンプを作ってみてはどうだろうか。完全対称型ならば、今となっては素性も良く分からないこの2SC984を生かして復活させることも可能だし、あえて完全対称形式にする意味も見いだせるというもの。どこかで2SC960よりこれの方が音が良いというのを見たような気がするし。

また、GOAの現用のプリアンプは2台ともレコード専用で、コントロール機能がなくやはり不便。この際EQ部とFA部を分割し、間に外部入力を切り替えで入れられる普通のプリアンプというか、金田さんの言う自作第1号に相応しい入門用アンプ型式にしてはどうだろうか。そうすればCDやらを気楽に切り替えて聴けるし、楽でイイ。(楽な方がイイ年になってしまったのだ。)そして、これが即ち93年3月号のNo−128のコンセプトである訳なので、その意味でもこれはNo−128?

という訳で、久しぶりに、「取り残された」半導体でプリアンプを製作してみようという機運が盛り上がったのだった。


が、過去の経験からすると、プリアンプはパワーアンプより数段難しいもの。記事どおりに作ったつもりでも1回でトラブルなく完動するものは出来たためしがない。と言っても要所はNFB周りと位相補正というのも経験則で分かっているつもり。とは言え今回は勝手な素子を使うわけだし、簡単に出来はしないだろうとは覚悟の上だったのだが、結果はやはりそうだった・・・
結局、取りかかってから安定して動作するものになるまで半年以上を費やしてしまったのだった。(^^;



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