その5まではこちらへ)

その6(No−122)



モニカ・セッテルンド、なんてこの1枚しか持っていないが、針を下ろすと多少肉付いたおばさんの顔がそこに現れる。やや枯れて淡泊な歌い方だが適度にふくよかで包み込まれるような暖か味も感じさせる。ジャケットの写真では細面の美人っぽくて、この声から見えてくるイメージとちょっと違うなぁ・・・と思ったが、ジャケットの裏を見ると、これだ、これだ、この顔が歌っているに違いない、と納得した。

口の回りの空間がリアルで、何か“気”が伝わってくるような感じだ。Tube全盛の1960年代の録音で全体としてはそれなりの音なのだが、モニカの声にもエバンスのピアノにも血が通っている。

これで聴くレコードからは様々な感興が呼び起こされる。自然に演奏空間が広がって時に響きのリアルさに背筋がぞくっとしたりする。緻密で艶っぽく色っぽく、音像が深く立体感が出てTrプリアンプとは多少違った印象を受けるのはNo−122で金田さんのおっしゃるとおりだが、演奏の“気”が良く現れる装置が良い装置だとすれば、No−122は多分良い装置なのだろう。



91年9月号のNo−122「オールFETスーパーストレート・プリアンプ」は、“忽然”と現れてこれ1回で過去20年近くの金田式DCアンプの歴史をある種否定、転換してしまった“断絶アンプ”

FETは初段にしか使えない、FET1石の定電流回路は音が悪い、たとえ電源電圧変動に極端に強いGOAアンプでも音のためにはレギュレーターが必要、など、それまでの金田式の教義はここであっさり覆された。

例えば、「FET定電流は音がか細く、弱々しく伸びやアタックの足りないエネルギーに乏しい音なのだ。・・・勿論FETによって音が違う。色々交換してみても、Tr式定電流にかなうものは何一つ見つからない。・・・FETはどうしてもTrでは代用できないアンプの初段に限って使うのが正しい使い方だろう。」と1年半前のNo−114でも言っておられるのだが(^^;

しかも、バイポーラトランジスター、過去20年近く金田式DCアンプのキーデバイスだったこのバイポーラTRを使用したアンプはこれによって息の根を止められたが如くに霧散消滅し、以後、主が真空管、従が(MOS−)FETの時代に完全転移してしまった。

う〜ん、プリアンプにメタルキャンTR(A606、C959)を用いたNo−121はいわば“超新星爆発”だったのだろうか・・・。は、ともかく、No−122とその直前のNo−121の間には深い断層が横たわっている。


とは言っても無論“断絶”は表向きの現象。根元部分が確固・連綿として変わらないのが彼の方の真骨頂だ。

ことの真相は“真空管DCプリアンプ”の出現によって半導体式が余儀なく一気に弁証法的な“止揚”をしたものだろう。すなわちTR式GOAの礎上に真空管を触媒としてNo−122が“忽然となった”・・・とでも言うべきか。

だから突然でも簡単に越えられる筈がない極みにある。この“断絶”は一種“超越”だから、半導体式DCプリアンプではこれが一番良いのだ。

彼の方が90年の“タイムマシン旅行”で60年代から仕入れて来た真空管の“劇薬性”はかくも絶大だったのか・・・
このNo−122だけでなく、No−121も“劇薬”に当たった結果だったのだが、残念なことにこれらをもってしても真空管には半導体には出せない何かがあるとの判定が下ったためか、以後TR式のみならずFET式も含めて半導体DCプリアンプの開発は止まってしまった。

ん・・・そうは言いたくはないなぁ。そうさ、あの時点で非常に高い完成度に達した半導体DCプリアンプは、その後の半導体素子の絶滅の状況下であの時点の完成度を超える展開が遂に困難になったのだ、と言うのが正しい。

ふ〜ん(-- 要するにもはや一つの“歴史的アンプ”と言いたいのかな?  と聞かれて“ハイ”と答えては“DCバカ”と呆れられそうだが、まあそういうことで(^^;



で、回路。


何とも美しく無駄がない。

言ってみれば2SJ72の差動アンプが二組なのだが、その動作を他の素子がごく当然の体で絶妙にサポートし、DC動作、ハイゲイン、理想NFB、GOA、VGA等の高度な機能をシンプルに凝縮して小宇宙(kosmos)をなしている。まさしくK式ワールドだ。

こういうものは慈しみたくなる(^^)。AC電源なんて野暮。けがれないクリーンな電池電源で命を吹き込んでやらなければいけない。

レコードが身を削り、103がその意気に感じて埋もれた音の記憶を紡ぎ出し、こめられた魂が時空を超えてこの刹那にありありと結んで惜し気もなく消えてゆくのだ。魂のこもった機械でなければこの瞬間の美を表現し得る筈もない。




さてこのプリアンプ、「NFBの安定度が高い」とある。「電圧測定時にテスター棒を直接つないでも(直列抵抗不要)トラブルが生じない」そうだ。

そう、ハイゲインなイコライザーアンプを含んだプリアンプというものは実は気難しいもの。金田式の場合はさらに必要最小限の位相補正しかしていないこともあって、オフセット調整のためにイコライザー出力に直接テスター棒をつないだだけで発振して出力DCが電源電圧付近に張り付いたりするのだが、これでも直列抵抗を挟んで同様に測って発振しなければ正常範囲である、というくらい微妙なバランスで成り立っている。

だからたとえ
記事のとおりに作ったつもりでも部品のバラツキとか、配線の引き回しが違うとか、勝手に部品配置を変えたとかでトラブルが生じることがある。トラブルとは要するに発振のことだ。この場合オフセット調整が不能になるから簡単に分かる。

勿論そこで発振しないように、NFB回路の1500pFにシリーズに抵抗(3.6KΩ)を入れたり2段目差動アンプに3pF、5pFの位相補正Cを入れたり、アンプ出力にシリーズに抵抗(10Ω〜100Ω)を入れたりしている訳だが、No−122では、これらTrプリアンプでは不可欠なNFB安定化方策(発振対策)が不要だというのだ。

へ〜本当かいな、と作った以前の我がNo−122は見事に発振した・・・(^^; ので、それ見たことか!とNFB回路にこれ以前のTrプリアンプ同様に3.6KΩを挿入して発振を止めた経緯がある。のだが、今は記事通り3.6KΩは入っていない。また、この状態で位相補正の3pF、5pFを外しても確かに発振しない。その状態でアンプ出力にテスター棒をつないでも何ら問題なくスムーズにオフセット調整が出来る。と、記事で金田さんがおっしゃるとおりのNFB安定状態になっている。

じゃあ、原因として考えられる違いは?、と考えると、今は2N5465(一部2N5462)が全てモトローラ製(本当にそうかどうかは知らないが外見上はモトローラのMマークの付いたもの)ということしか考えられない。実はリニューアル前は博物館にある別の2N5465が使われていたのである。と言って、ここにまた別の2N5465を入れ替えて再現実験などする気はないので、本当のところは何も分からない。

ま、それはそれとして、こんなに安定なプリアンプだし、音も良いし、超高速プッシュプルレギュレーターも不要だし、部品も少なくて作りやすいし、ということで“真空管はちょっと難しそう”あるいは“劇薬に手を出すと中毒になってしまいそうで・・・”という方にお勧めすべきプリアンプなのだが、残念なことに肝心の東芝2SJ72がとうに入手不能。とあっては、何をかいわんや、ですかねぇ(^^;



2002年1月30日

追記

何をかいわんや、では、本当に何をかいわんや・・・と思っていらっしゃる方もあるかも知れないので、ちょっと追記(^^;

幻の2SJ72が入手不能では駄目か・・・、と簡単に諦めてしまう必要は必ずしもない訳で、実は現行品の東芝2SJ74を使うという手がある。

規格表でみるとJ72、J74のgmはそれぞれ40mS,22mSとまるでJ72がJ74の2倍もgmが大きいように思えるのだが、High−gmのFETの大きなgmはドレイン電流を比較的多く流した場合に得られるものであって、ドレイン電流が少ない場合のgmはそれほど大きいものではなく、その辺の電流域ではJ72のgmは実はJ74のgmとそんなには違わないのだ。
また、規格表で、J72のgmが40mSなのはId=5mAの数値なのに、J74のgmが22mSなのはId=2mAの数値であって、J74もId=5mAでのgmはそもそも35mSなのだ。

No−122では2SJ72の動作電流は約5mAに設定されているので、そのドレイン電流でのJ72のgmは40mSだ。だからJ74のgmが40mSになるように電流設定をすれば、2SJ74でJ72の機能的代替は十分可能ということになる。
なんのことはない。2SJ74はドレイン電流8mAでそのgmが40mSになるではないか。
だからJ72の代わりにJ74を用い、イコライザー、フラットアンプの2段目差動アンプの共通ソース抵抗240Ω、120Ωをそれぞれ150Ω、75Ωに変更してJ74の動作電流を約8mAに設定すれば、J74使用のNo−122は十分に成り立つのである。

ついでに言えば、この辺は「その4」で記した同じく2SJ72使用のNo−128でも同じだ。
ただし、動作電流が増える分J74のIdssは大きくなければならないのでVランクが必要になるだろう。

が、どちらにしてもその音まで同じか?どうかは試した訳ではないので保証の限りではない。ので悪しからず(^^;


2002年3月6日


その7(MC専用ストレートDCプリアンプ)


ある日、戸棚の中に佇むCL−10に目を止めた。

何となくそれを引っぱり出して来て蓋を開けるとこんなものが出てきた。→

しげしげと基板を眺めれば、これはGOAタイプのストレートMCプリアンプに相違ない。

う〜ん・・・、CL−10に収まっていることや、教義に反してAT−1を使用せず独自に基板を起こしていることからして、かなり以前に作ったものに違いない。

懐かしい・・・

久しく構うことなく過ぎてしまったが、これはかつての我が家のメインMCプリ。

いつの間にか使わないままになっていた。

今となっては、詳細な構成がどうだったか、にわかには明瞭に思い浮かばない・・・(^^;

ので、回路図を起こしてみれば、








結果、多少独自な部分もあるが、これは基本的に「時空を超えた音楽再現」上巻140ページのMC専用ストレートDCプリアンプだ。

が、回路図のとおり音量調整用のアッテネータが付いていない。

そうだ。その昔これをMCイコライザーとして、アッテネータは外付けで使っていたのだった。



久しぶりに音を出してみようではないか。と、もはや水銀入りネオハイトップは存在しないので鉛バッテリーを電源にして聴いてみる。

う〜ん・・・良い音だ。(爆)(^^;

・・・・・・

が、何故かぱちぱちといったノイズが多いような気がする。

システム全体を電池電源で聴いていた昔はこんな事は無かったように思うのだが、これは基板の劣化などの経年変化によるものか、はたまた今はシステムにAC電源機器が介在するためなのか。

いずれどうもこれは発振ぎりぎりの時の症状のようにも感じられる。

この際、リニューアルすべきか。



が、単に組み直すのでは面白くないのでので、その前にPSpice(評価版)でこのMC専用ストレートDCプリアンプのStudy。

って、実はちょっと気になる点があるのだ。

で、RIAAの低域上昇を担当するファーストイコライザー。

そのゲイン/周波数&位相特性を観る。




赤がオープンゲイン、水色がその位相。青がクローズドゲイン、ピンクがその位相。緑がループゲイン、黄色がその位相。

オープンゲインは低域で107dBで、1kHzでも90dBに達している。1kHzにおけるクローズドゲイン設定が43dBであるため、1kHzにおけるループゲインは46.5dB程度だ。このループゲイン≒NFB量となる訳だが、さすがに理想NF型イコライザー。その量が可聴帯域ではほぼ一定で、低域でもマイナス4dB弱程度だ。したがってその位相(黄色)も50Hz付近でプラス10°程度しか乖離していない。

ループゲインが0dBに沈むポイントは5MHz弱だが、そのポイントにおけるループゲインの位相回転は−110°程度と−120°の安全範囲以内だ。すなわち位相補正は適切という結果で、したがってクローズドゲイン(青)には何のピークも生じていない。




実動作時にはセカンドイコライザーの入力抵抗820kΩがパラに出力に繋がることになるので、その分RIAAイコライザー素子に対するドライブインピーダンスが下がってしまう。




このMC専用ストレートDCプリアンプはファーストイコライザーRIAA素子に15000pFと270kΩを用いており、そのインピーダンスが低いので、ドライブインピーダンス低下の影響はその分小さいのだが、それでもやはり低域のオープンゲイン(赤)は105.5dBと2.5dB程度小さくなった。その結果、ループゲインの中域に対する低域の低下も5dB強と広がりその位相の乖離も50Hz付近で18°程度と大きくなっている。

が、これでも実に理想的な理想NF型イコライザー状態にあると言えるだろう。

と、ここまででは思える。(^^;






次に各部の電流出力(dB)を観る。
位相補正は効かないようにその値を極小にしておく。




初段の電流出力は−46.5dB程度でMHz領域まで直線だ。ここではgm=1Sが0dBなので、−46.5dB≒4.7mS。

2段目の電流出力は−4dB程度だから≒630mS。
その周波数特性は100kHz程度まで一定でそれ以上の領域では低下するが、これは2SA872Aのft(トランジション周波数)によるものだ。

で、ここで多少気になるのがオレンジ色、すなわちカレントミラートランジスタQ10(2SC1775)の電流出力だ。

グラフのとおり2段目の他のTRの電流出力に対し高域でも1dB強小さく、低域では9dBも小さくなっている。

このQ10(2SC1775)の電流出力の低域での低下は1kHzから徐々に始まっており、これはRIAAイコライザー素子のインピーダンスが1kHzから高まっていくことに起因していると判断するのが妥当だ。

となると、これはカレントミラーTRQ10(2SC1775)の出力インピーダンスがRIAAイコライザー素子のインピーダンスより低いということを表す訳だが、これがちょっと気になるのだ。



何故なら、理想NF型イコライザーは、RIAAイコライザー素子を全周波数エリアでそのインピーダンスより高いインピーダンスでドライブすることにより実現するものであるからなのだが、このグラフの結果は、2段目差動アンプの動作について、カスコード出力となるプラス側は十分に高い出力インピーダンスなのに、カレントミラー折り返しのマイナス側の出力の出力インピーダンスが十分に高くなく、結果これらのPP動作の対称性が十分でない可能性を示唆しているのである。



確かめてみよう。

そのためには、出力上下を分割し、入力に正弦波を入れ、上下出力をそれぞれ観測すればよい。

まずは20Hz、負荷は1MΩとする。

このイコライザーの場合負荷は低域でも1MΩまで高くはならないのだが、K式通例のRIAAイコライザー素子(820kΩ&5100pF)の場合は次段入力抵抗820kΩとのパラで420kΩであり、A級PP動作ではそれぞれから見たインピーダンスはその倍で820kΩということであるから、分かりやすく1MΩ。




結果。

やはり。残念ながら予想どおりだ。

プラス側出力(緑)は6.1Vなのに対し、マイナス側(赤)は2.1Vと1/3弱でしかない。

1/3弱≒−9dB。だから、これが上での電流出力(dB)が低域で−9dBという結果の理由である訳だ。

カレントミラー折り返しの2SC1775側の出力インピーダンスの高さが足りないのだ。

−9dBをどう評価すべきかについては議論がありそうだが、どうもこうして実際の出力波形を見てしまうと、対称動作を追求するK式DCアンプのPP動作としてはどうかと思えてしまう。(^^;

もっとも、それぞれの波形はプラスマイナスで対称な紛れもない正弦波であるから、これでPP動作の結果波形のプラス側マイナス側が非対称になってDC歪みが発生するというものではなく、動作自体に問題があるものではない。ので、念のため。





続いて1kHz。負荷は100kΩ。






負荷が1/10となって、相対的にカレントミラー側の出力インピーダンスが高くなった結果、大分マイナス側(赤)の波形も大きくなった。

が、まだプラス側(緑)には追いつかない。




次に20kHz入力、負荷は10kΩ。




負荷が10kΩと小さくなって、ようやくプラスマイナスの出力が見た目にも対称と言えるレベルまで揃った。

まだ完全に一致はしておらず、これでもマイナス側(赤)がやや小さいのだが、この程度なら許容してもよいように思える。




で、結論としては、この回路構成ではやはりカレントミラー側の出力インピーダンスが足りないのである。

そしてその出力インピーダンスが足りない理由は、このワイドラー型カレントミラーの精度向上のためのバランス抵抗R11&R12が小さく、結果2SC1775に掛かる電流帰還量が不足しているためだ。



この場合、必要な出力インピーダンスの高さを確保するためには、このようにR11&R12には1kΩ程度は必要なようだ。

まず20Hz入力。負荷1MΩ。






完全とは言えないが、マイナス側(赤)はプラス側(緑)の8割には達しており、かなり改善されたことが分かる。





次に、1kHz。負荷100kΩ。





これなら十分な対称動作だ。





もう結果は見えているが、最後に20kHz。負荷10kΩの場合。





予想通り。これならプラスマイナスの動作対称性もカレントミラーによるPP動作の対称性も完璧レベル。




で、ここで愚考する。

理想NF型イコライザーの理想の実現のためには、アンプの無帰還時の出力インピーダンスを可聴帯域全体でRIAANFB素子のインピーダンス以上に高める必要がある。“音楽を愛する電子回路”上巻によれば通例のRIAA帰還素子のインピーダンスの絶対値は20Hzで650kΩ、1kHzで67kΩ、20kHzで6.9kΩ。だから、現実的にはこの低域におけるインピーダンスの上昇に対応することが課題だ。

2段目差動アンプがカスコード化されている理由の一つは、それを実現するために違いない。

なのに、2段目差動アンプ右側出力とPP動作をすべきカレントミラー側の出力インピーダンスは何故か省みられることがなかったかのよう・・・。

K式の歴史をひもとくと、実はこのカレントミラーのバランス抵抗は初期(理想NF型イコライザーが出現したNo−85)には1.5kΩだった。それが徐々に小さくなって(小さくなった理由としては電池電源を使用することから電源電圧有効利用率を高めたいという理由もあったものと思われる。)最終的に82Ωと91Ωという不変の値となったのはNo−105の3ch10Wステレオパワーアンプにおいてだ。

以後、パワーアンプもプリアンプも全てこの値になったのである。

No−105に何故これを82Ωと91Ωにしたかについての説明がある。

それは、入力に三角波を加え、ここでのシミュレーションと同様に出力上下を分割してそれぞれの出力波形を観測し、カレントミラーの電流バランスを観ることで、「区別が付かないほど合同な波形が得られ、理想的なプッシュプル合成が出来る」ものとして採用されたのである。

が、問題は、その観測がパワーアンプの回路で行われ、当然その時のアンプの負荷はGOAパワーアンプで採用されていた例の5.6kΩだということである。

負荷が5.6kΩ(A級PPなので上下分割して観測する場合は11.2kΩにすべきなのだが(^^;)であれば、上で負荷10kΩでもかなりバランスがとれていたことから、これでもバランスがとれることが明らかだ。

実際シミュレートしてみると、







この通りだ。






が、これは負荷が5.6kΩ以上に高くなることのないパワーアンプだから採用できる結果だ。ということがこれまでのシミュレーション結果から明らかだ。

要するに82Ω&91Ωの組み合わせによる電流バランスの測定結果は、負荷が5.6kΩのパワーアンプと違いそれが2桁高い数100kΩオーダーとなるMCプリアンプにまでは直ちに採用できないはず。

なのにNo−105以降、パワーアンプのみならずプリアンプにもこの82Ω&91Ωの組み合わせがあまねく採用された。(実は次のウィルソン型採用まで1年間なのだが、ちょうど「時空を超えた音楽再現」が発行されたのがこの時期で、それに掲載されたアンプが全てこの組み合わせなのであまねく採用された感を強めるのだ。)

のは何故か? は、勿論No−114に記されているとおり、「電流帰還作用が音を抑圧し、感動を弱める」ためということだったのだが、・・・どうもそれはレギュレーターにおけるバランス抵抗排除の効果から一般論として敷衍された感なきにしもあらず。ですなぁ(^^;

まぁ、明らかな事実として、ここにおいてK式MCプリアンプは、理想NF型イコライザーの実現を標榜しながら、一方でそれを阻害しかねない回路構成を採用するという矛盾を抱えてしまった。ということだ。


この点については先生もご承知の上のことだったのだろうと推察申し上げるのだが、(^^;

そのために登場したのが、1年後のNo−113で採用されたウィルソン型カレントミラーだったのだ。と思われる。

これはQ10の電流変化分がQ12で検出され、その結果がQ11によって増幅されてQ10の入力にNFBとしてフィードバックされる強力なアクティブ型電流帰還回路だ。抵抗でQ10自体のgmを出力インピーダンスに回す従来回路以上の電流帰還が掛かることが予想される。したがってQ10の出力インピーダンスは大幅に高まるだろう。

早速このウィルソン型カレントミラーの効果を確かめてみよう。

まずは20Hz、負荷1MΩ。

これでもう明らかになるはずだ。






このとおり。

マイナス側(赤)もプラス側(緑)の95%程度の振幅に達している。ほぼ十分な対称性だ。カレントミラーTRであるQ10の出力インピーダンスが、プラス側のカスコードTRQ9の出力インピーダンス並に高まったのだ。





1kHz、負荷100kΩ。




もう完璧レベルだ。




もはや見るまでもないが、20kHz、負荷10kΩの場合。





予想通り完璧。

という訳でウィルソン型カレントミラーの導入で矛盾は解消されたのだ。音も言わずもがな・・・かな(^^;






と、妖しいシミュレーションをしているうちに、リニューアルはなった。

なんと! AC電源になってしまった・・・(^^;






回路はこう。

いまさら別途音量調整機器の必要なMCイコライザーのままにしておく気にはなれないので、No−116から採用されたVGAによる音量調整機能を採用した。

これに伴って分配型イコライザーは廃し、ファーストアンプにRIAAイコライズ機能を全て果たさせる構成とする。

MCプリのこの構成は、No−116以降現在まで続く不変の構成になっているが、それは電流出力アンプで理想NF型RIAAイコライズを行い、音量調整機能を果たして、低インピーダンスのパッシブチャンネルデバイダーをドライブすることも前提とする、という相反する要求に応える最も合理的な構成だから。(その意味でNo−116はK式第2世代のGOAの完成型)




RIAAイコライザー素子は例のない定数となっているが、270kΩと15,000pFをキャリーオーバーするためにこうなった。が、これでRIAAイコライザー素子のインピーダンスが通例の組み合わせの1/3となって、結果オープンゲインも1/3≒−10dBとなって、過剰気味なオープンゲインのGOAMCイコライザーにはかえってNFB安定度確保上都合が良い。し、理想NF型イコライザー実現のために必要となるオープンゲイン時のアンプ出力インピーダンスも1/3で良くなるので、この点でも都合が良い。

問題は、ウィルソン(フィードバック)型カレントミラーを採用しないで、MCイコライザーの方はバランス抵抗1kΩの、フラットアンプの方は同じく220Ωのワイドラー型カレントミラーを敢えて採用した点か(^^;

ま、これは電流帰還が本当に悪いのかちょっと試してみるため。って、電流帰還が悪いなら現代完全対称型MCプリは成り立たないと思うのだが・・・(^^;(このMCプリEQのカレントミラーのベース側の1kΩを5.1kΩとし1S1588を撤去すると完全対称型の終段マイナス側に変身。)




こちらはその電源部。水銀入りネオハイトップなき今、敢えて電池式のままにしておく気力もなくなったので、使い勝手から言えば抜群のAC電源に堕落することにしたのだ。

って、出力がエミッタ接地であってフォロアを使っていないのはこの構成のGOAも最新の完全対称型も同じであって、であれば、完全対称型がAC電源で良いならばこの構成のGOAだってAC電源で良いはずではないか。という気持ちもある。(^^;

ついでにノンレギュレーターにしてしまおうか、とも思ったが、折角の10.5Vレギュレーターが使われていたので、これの抵抗を一部交換して17.5Vレギュレーターとしてキャリーオーバーすることにした。

±17.5Vにしたのは、アンプ側でカレントミラーのバランス抵抗に大きいものを使うことによって電源電圧利用効率が下がることに対応するというのが最大の理由だが、頂き物m(__)mの電源トランスとの組み合わせもちょうど良かった。




ついでなので、余計なことをひとつ。

この形式のレギュレータの定電流回路の電流設定抵抗、ここではプラスマイナスとも470Ωを採用しているが、実はこれは個体ごとに要調整だ。勿論ばらつき対応という面もあるのだが、本質的には消費電流に合わせてレギュレータープル側2SB716と2SD756のアイドリング電流を適正値(5〜7mA)に合わせるための作業である。実はこの電流はレギュレーターの負荷であるアンプ側の消費電流によって大きく変わるのである。実際測定してみると無負荷ではこれに数10mA流れる。負荷側の消費電流が増えるほどにこのアイドリング電流は減少していく。よって、負荷となるアンプの消費電流に合わせてこの部分を個体ごとに調整する必要があるのだ。

って、別に面倒ではなく、事前にアンプ側の消費電流を計算し、これと同様な消費電流になる抵抗をレギュレータ出力に仮付けして調整すれば良い。

アンプもレギュレーターもK先生の製作例どおりの組み合わせで作る場合は特に問題ないが、レギュレーターだけ他に流用する場合は留意が必要な部分だ。




仕上がり具合はどうか。

まずはイコライザー。

フラットアンプが繋がった実働状態のイメージで負荷に820kΩをパラに繋いでおく。





オープンゲイン(赤)は低域で109dB。1kHzでも88dBと十分だ。クローズドゲイン(青)設定は1kHzで41.5dBであり、したがってループゲイン(緑)は1kHzで47dBだが、理想NF型イコライザーとしての理想度が例外的に良く、負荷に820kΩがパラになっているにもかかわらず、ループゲインは1Hzから20kHzで2dB以内の乖離と収まっている。その位相(黄)も可聴帯域で+7°、−15°以内の乖離だ。

位相補正の設定もRIAAイコライザー素子4700pFにシリーズの高域帰還制限抵抗1.2kΩが効果的に効いて、ループゲイン(緑)が0dBに沈むポイント(12MHz付近)におけるその位相回転(黄)は−115°程度に収まって、結果クローズドゲイン(青)には何のピークも生じていない。

実機も全く安定で、何の調整を要することもなく一発で完成した。





問題のワイドラー型カレントミラーに1kΩのバランス抵抗だが、出力上下のPPバランスはどうだろうか。

まず、20Hzだが、このMCプリはRIAAイコライザー素子のインピーダンスが通例の1/3なので、負荷はこれまでの半分の500kΩで見れば良いだろう。




上のウィルソン型カレントミラーでの負荷1MΩの場合の95%には及ばないが、これでもマイナス側(赤)はプラス側(緑)の約90%にはなる。これなら十分ではなかろうか。





1kHz、負荷50kΩ。

もう十分に対称なPP動作だ。






最後に20kHz、負荷5kΩ。

完璧なPP動作だ。

ついでに言えば、この場合プラス側マイナス側の振幅の位相にずれが全くと言って良いほどない。これは多少プラス側に遅れが見られる完全対称型に比して優れる点だ。







次にフラットアンプの方だが、まずこれはリフレッシュ前のセカンドイコライザーのイメージ。

各部の電流出力(dB)の状態を観ると、





特に問題とすべきレベルではないのだろうとは思うのだが、やはりQ5のカレントミラーTR2SC1775の電流出力(オレンジ)が20kHz以下で低下して1kHz以下ではマイナス1dBの乖離がある。

これは負荷51kΩに対しても2SC1775の出力インピーダンスが十分ではないことを表している。




シミュレーションによれば、これを完全にするにはバランス抵抗には220Ωは必要だ、との予言だ。





このように負荷50kΩでもカレントミラー2SC1775の電流出力(オレンジ)は低域まで一直線となった。

ただ、微妙にオレンジはプラス側のQ4のカスコード出力(水色)より小さい。





入力1kHz、上下を分割して負荷100kΩで出力波形を観てみると、





やはり、マイナス側(赤)の振幅がプラス側(緑)より微妙に小さい。が、この程度なら十分だろう。





実際、このフラットアンプでは音量調整のためのスケルトンNFB抵抗の組み合わせ最大値は23.8kΩであるから、アンプの負荷はそれ以上にはならない。

そこで、同様に40kΩを負荷にしてシミュレーションした結果がこれなのだが、十二分なPP動作だ。






で、仕上がりはどうか。

負荷はパラメトリックに3.9kΩ、6.1kΩ、10kΩ、15.6kΩ、23.8kΩ。VGA抵抗値の設定どおりだ。






グループが四つある。一番上がループゲインの位相。これだけ縦軸は2の方で単位は°。他は1の方で単位はdB。

上から二番目がオープンゲインのグループ。上から負荷が23.8kΩ、15.6kΩ、10kΩ、6.1kΩ、3.9kΩの場合だ。

上から三番目はループゲインのグループ。1kHz以下では負荷にかかわらず一定値だ。これこそ正にオープンゲインとクローズドゲインを同時に同量変化させ、クローズドゲイン設定(ボリューム調整)にかかわらずNFB量は一定というVGAの意味であり、ここではその理想が理想的に実現している。ループゲイン≒NFB量であるから、このフラットアンプのNFB量は低域で約54dBで一定。

一番下がクローズドゲイン。これも上から23.8kΩ、15.6kΩ、10kΩ、6.1kΩ、3.9kΩの場合だ。これを観ると位相補正は適切なようでどの場合にもピークは生じていないことが分かる。
のだが、実はこれでぎりぎり最小限であって、3.9kΩを省いて完全対称型のようにユニティゲインにすることや、位相補正を5pFと3pFの組み合わせにすることはやめた方が良いよ、とシミュレーションが示してくれる。ので、実機もこの回路となったのである。

おかげをもって実機は何のトラブルもなく完成し、リニューアル前にあったぱちぱちノイズもなくなり、ブーンというハムもなく、MCプリにはめずらしく作りっぱなしで完成ということになった。(^^)

なお、負荷23.8kΩの際のループゲインの位相が5MHz付近で飛び跳ねるような体を示しているのは実は不吉の予兆だ。これは2段目左側の位相補正Cの5pFを10pFにすると解消する。ので何らかの異常が表出した場合はこのCを10pFに変更するかもしれない。






さて、問題はその音の出来だが、私の駄耳ではこのカレントミラーの1kΩ(フラットアンプは220Ω)のバランス抵抗による電流帰還作用が音を抑圧し、感動を弱めるという感じは全くしないのであった。(^^;

むしろ逆で、全体の躍動感や低域のエネルギー感は抜群だし、レコードとは思えない充実して密度の高いこの音は正に金田式DCアンプの音そのものだ。


この全体の躍動感や低域のエネルギー感は、やはり理想NF型イコライザー効果で低域まで均一なNFBによるのではなかろうか、と、第一世代のNo−69との聴き比べで感じる。No−69も単体で聴く分には悪くないが、これと聴き比べるとやや大人しく、優しい響きだと感じられる。

では、完全対称型と比べてはどうか。まずは最近改良したばかりのNo−128?を聴いてみると、これもやはり理想NF型イコライザーだ。その鳴りっぷりはこのスーパーストレートGOAと同様で、全体の躍動感と低域のエネルギー感は抜群かつ爽快だ。そして、まるで音楽の盛り上がりに限界がないように気持ちよく伸びやかだ。違うとすればやはりこの辺の制動感の差だろうか。レギュレーターを搭載し、NFBも全体的に10dB程度多いと思われるこのGOAプリはこの辺の制動感が過剰かもしれない。が、それは大した違いではない。GOAの方だってこの辺は立派なものなのだ。

次にNo−168だが、これはちょっと音色が違う感じがする。これまでのものは全て2段目が2SA726Gなのだが、これは2段目が2SJ103。もしかすると2SJ103のこの音の方が無色なのかも知れないが、2SA726Gの音色に馴れてしまっているためか、ちょっと淡泊に感じてしまう。が、駄耳なのでしばらく聴いているとこれも気にならなくなってしまう。(爆)(^^; とは言え、私の耳にはNo−168より我がNo−128?の方が合っている感じがする。

ここまで書いてしまうと、ハイブリッドのNo−170にも触れなければならないか。(^^; 
これはこれまでの半導体式に情報量や明瞭度で一切引けを取るところはない。サブミニ真空管でソケットレスであることが効いているのだろうか。また、我がNo−170は2段目差動アンプにオリジナルの2SJ103ではなくモトローラ2N5465を起用したためか2SJ103のようなモサッとした感じ、と言うかあっさりした感じはなく抜群の切れ味だし、真空管の音色にも魅力的なものを感じる。また、全体の躍動感も音の伸びやかさも半導体完全対称型と同様なレベルで実に素晴らしい。ただ、真空管の音色にも関連するのだが真空管の振動によるものかどうかある種の響きが加わり華やかな感もある。これは聴きようによっては良し悪しか。私の駄耳では時にこの辺素直な半導体式で聴きたくなることもある。

総じて今回リニューアルしたMC専用ストレートDCプリアンプは、我がNo−128?に近い音で、これらに十分伍して渡り合えるものになった。と思う。






以上、我が試聴結果については、私が駄耳であること、及び、私のMCプリアンプはいずれも何らかの改造が施してあるためオリジナルとは違っていることなどから、一切真に受けてはいけません。(^^;

また、毎度の事ながら、以上のシミュレーション結果及びその解釈には一切保証がないので悪しからず。また、シミュレーションに登場した素子モデルについては、何もお答えできないので重ねて悪しからず。




2005年11月27日





その8(MC専用ストレートDCプリアンプのその後)


めずらしく何の調整を要することもなく一発で完成したと思っていた我が改良型MC専用ストレートDCプリアンプ。やはり世の中そんなに甘いものではない。何故かある日突然調子が悪くなって、パワーアンプの保護回路を働かせるとともに、動作異常に陥ってしまったのだった。

えっ!?っと思って蓋を開け早速診断してみると・・・やはりオフセットが異常になっている。オフセット電圧が大きいし、その振る舞いがおかしくなっている。フラットアンプのアッテネータの位置によってこれが上下したりするし、手を素子のそばにかざしただけでもこれが上下する。し、切り替え時にショックでも受けたようにオフセット電圧が跳ね上がって戻ったりする。テスターだけで観測できる現象なのだが、こういうのは完全に発振だ。しかも両チャンネルとも。えぇぇぇぇ・・・!?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ふ〜む。この前までまともに動いていたものが、何を変えたわけでもないのに突然発振状態になってしまうというのは初めての経験だ。何も変えていないのだから原因が思いつかない。考えられるのは、使い回しの古い部品ばかりで出来ているので、経年変化で半導体のどれかが劣化したのではないか。というぐらいなのだが、・・・ならば、両チャンネルとも同時におかしくなるというのも変だ。し、よくよく観察すると、両チャンネルのイコライザーとフラットアンプ、要すれば計4台のアンプが全て発振しているではないか。

イコライザーが発振してしまえばその出力を受けるフラットアンプも外見上発振状態になるのは当たり前なので、取り敢えずイコライザー側の位相補正Cを大きくしてみたのだが、なんとこれを100pFにしても直らないのだった。

・・・・・・う〜ん、・・・・・・


と、まぁ、そこから苦難の調整がはじまったのだが、その間の試行錯誤、難行苦行は省略するとして、最終的に発振を止めることには成功し、結果、回路はこのようになったのである。(^^)


こうしてみるとあまり変わっていないようなのだが、変わったのはイコライザー側では2段目差動アンプ共通エミッタ抵抗が120Ωから180Ωになったこと、フラットアンプ側では同じく2段目差動アンプの共通エミッタ抵抗が68Ωから82Ωになったこと、2段目差動アンプ右側の位相補正Cが10pFから5pFになったこと、そして、NFB回路でもあるアッテネータの接続点が47Ωの出力側になったことの4点だ。なお、2段目差動アンプ左側の位相補正Cが無くなっているが、これはここにCを付ける意味はないと思われることから取り去ってしまったもので、今回の発振にともなう対策ではない。また、Lチャンネルフラットアンプオフセット調整用の抵抗値もちょっと変わったのだがこれも今回の発振とは関係なく再調整しただけのもの。





で、結論的には、原因の主要な要素はVGA実現のためのアッテネーターの配線であったようだ。

今回はケースをキャリーオーバーする関係上、写真で分かるように基板とロータリースイッチとの位置関係が悪く、この間の配線が非常に長くなってしまっている。今考えればもっと工夫のしようはあったと反省しているのだが、ともかく我が今回の作例の諸悪の根元はここにあったと思われるのである。結局、今回はこのVGA用配線が長い場合でも安定に動作する手法を試行錯誤したということになる訳だ。(^^;

その手法で最も効果的だったのが、フラットアンプ出力の47Ωの出力側からロータリースイッチへの配線を引き回すということだったのである。

実は、上の回路図の段階に至る直前の段階では、イコライザー側の位相補正を20pF、フラットアンプ側のそれを39pFの組み合わせとすることによって発振が止まっていて、調整疲れもあって、もうそれで行こうかとも思っていたのだが、もしやと思ってフラットアンプ出力からアッテネータに向かう大栄電線の接続点を回路図のとおり47Ωの出力点側に移したところ、驚いたことにグッと安定度を増したのである。その効果は実に劇的で非常に驚いたのだが、結果、回路図のとおりの位相補正でも安定動作するようになったのであった。





というように、今回もまた多少の勉強をしてしまった。ので、忘れないように要点を記しておこう。(^^;


@プリアンプではイコライザー部が発振すればフラットアンプ部も発振状態を呈するのは当たり前なのだが、逆にフラットアンプ部が発振した場合にもイコライザー部がつられて発振してしまうようだ。これは電源を通じての干渉だろうか。

A発振はDCオフセットの異常として簡単に観測可能だ。フラットアンプなど単体での調整時には小さなオフセットだったものが、アンプ全体を組んでケーブルも繋いでケースに組んだあと大きくなってしまうという場合は、発振によるものと考えてほぼ間違いない。色々な要素が加わって位相余裕が無くなってしまったのだ。位相補正を増やすなどの対策が必要だ。

B今回、微少にでも発振している状態ではフラットアンプのアッテネータの切り替えによってイコライザー出力のオフセットDC電圧が変動するという現象が発生するということが分かった。これは、発振がイコライザー側にある場合も逆にフラットアンプ側にある場合も同じのようだ。発振の規模とここのDCオフセットの変動具合は比例するようであるので、ここは調整のメルクマールとして最適ポイントだ。

Cブーンというハムや朝鮮語のラジオ放送が聞こえたりする現象は、この発振状態と密接に関連している場合がある。要するにアンプが正常状態にあるように見えて実は未だ微妙に発振状態にある場合に、ブーンというハムや朝鮮語のラジオ放送が聞こえたりする現象が発生するようだ。特にハムやラジオ音声が一定音量ではなく、ケーブルを動かしたり、プレーヤーのアームを動かしたりということに伴って変動する場合はまずこれに間違いない。

D位相補正Cの増加以外の発振対策として、

 イ 2段目差動アンプの共通エミッタ抵抗を増やして2段目差動アンプの動作電流を小さくすることも効果的だ。これはMHIさんがHPに書かれていたので試してみたのだが、我がMC専用ストレートDCプリでも特にイコライザーの方で効果的だった。そこで今回イコライザー側のそれが120Ωから180Ωに増えているのである。これは動作電流が減ることによってhFEが減りオープンゲインが小さくなるためか、高域で低下するNFB素子のインピーダンスへのドライブ能力が減少することによりかえって上手く高域発振に至りにくくなることなどが原因として考えられる。が、高域で低下するNFB素子のインピーダンスへのドライブ能力が減りすぎるのも問題なので(実際GOA時代の先生の作例でもイコライザー側の動作電流値設定は多め。)、調査中は330Ωまで増やして効果を実体験したが、最終的には両者の折り合いも考えて180Ωとしたのである。

 ロ 2段目差動アンプのカスコードアンプの設定ツェナーダイオードによって与える2段目差動アンプコレクタ−エミッタ間の電圧を小さくすることが効果的だ。とは全く驚いた。これは特にフラットアンプの方で効果的だった。フラットアンプ側は改良前ここは1S1588の3個で与えていたものを、電源電圧を大きくしたこともあって改良後はHZ4B2で与えていたのだが、もしやと思ってこれをHZ3C2に交換してみたのである。そうしたところ、な〜んと、安定度が一挙に高まってフラットアンプの位相補正Cは5pFでもほぼ安定な状況になったのである。最終的には次のハの対策によってHZ4B2でより高い電圧を与えても安定になったのでHZ4B2に戻してあるが、電池式GOA時代に電源利用効率を最大限にするためということで用いられていたこの手法は、もしかすると動作安定性確保のためでもあったのではないかと思えるほど効果的なものだった。2段目差動アンプのトランジスタをコレクタ−エミッタ飽和電圧ぎりぎりで動作させることによってトランジスタの特性は当然変わる筈だ。それによって高域のゲインや位相状態が変わるのだろう。それがこの現象の理由に違いない。

 ハ アンプ出力にシリーズに繋ぐ小抵抗。これは教科書にも良く書いてあるとおりで、後ろに繋がるケーブル等の容量等の影響で位相余裕が減ることを防止してくれる。今回もしやと思ってVGAのためのアッテネータ配線を47Ωの出力側に移してみたのだが、それでこれほど安定になるとは思わなかった。今回はアッテネータの切り替えやVGAケーブルの配置等によって発振状態(オフセット)が変動し、原因自体はここにあることは明らかだったので、最終的にはケースを変えて配置から根本的にやり直さなければ駄目かとも思ったのだが、有り難いことにこの対策を見つけたことで大団円となったのだ。(^^)

 ニ イコライザー入力にシリーズに繋ぐ小抵抗。これは先生の作例でも真空管アンプで良く用いられている。WEの高gmの初段管を起用する場合に必要とされているものだ。今回、最終段階で入力に2511を繋いだ訳だが、どうもそうするとやはり安定度がちょっと悪くなるのである。というのは、現象的に多少のハムが出て、フラットアンプに多少のオフセット電圧が加算されるのである。アンプの動作的には問題はないのだが、位相余裕が減ったことには間違いがなさそうだ。これは真空管式のように100Ωのスケルトンでもシリーズに入れれば解消するだろう。とは思ったが、今は配置場所がないので取り敢えずは入れていない。

 ホ アースの引き回し。が重要かと思って、一般の自作真空管アンプにおけるアース母線方式のような配線も試してみた。のだが、これは要素としては主ではなく従にすぎないのではないか、というのが結論。まずはアンプ自体の位相補正が適切でなければ駄目で、位相補正が適切になれば、この程度の長さの配線ならいわゆるK式の配線手法で何も問題ないようだ。このストレートDCプリアンプのアース配線も各レギュレーターに分かれて、それぞれから左右チャンネルの基板に配線するという元の状態に戻っている。要するに、アンプの安定度が微妙な状態である場合にはアースの引き回しが、より安定方向になるか不安定方向になるかのキャスティングボートを握ることがある。ということなのだろう。







さて、回復した我がリニューアル版MC専用ストレートDCプリアンプの音なのだが・・・、

実に快調。鋭い切れ味で何もかもあからさまにする明晰さ、高分解能。奥行きも深く立体感も実に素晴らしい。この音は正にトランジスターGOAプリアンプだ。



2006年4月23日






その9(MC専用DCプリアンプ転じてNo−121スーパーストレートプリアンプ(もどき)となる)



ある日、我がMC専用DCプリアンプを、TRを起用したGOAプリアンプの最終形である、2SA606(607)と2SC959(960)を多用した、例の“メタルキャンTrによるプリアンプ”に変更してみようか。という気になった。

早速、改造だ。

な〜に。2段目差動アンプとカレントミラー部分を変更するだけである。

が、VGA(バリアブル ゲイン アンプ)方式は廃し、音量調整は文字通りコスモスのボリュームによるボリューム方式にしてしまう。

そのため、新たにFETによる定電流負荷付きソースフォロアバッファーを設けて、イコライザーの出力はこれで受けてボリュームに引き渡す。

また、この際ついでなので、CD等の入力も出来るようにする。

で、当初このような回路に改造したのだった。

う〜ん。No−121からの改悪だろうなぁ。(^^; 








基本部分はNo−121そのものだと思うので、これで「No−121スーパーストレートプリアンプ(メタルキャンTrによるプリアンプ)“もどき”」のつもりなのだが、ここまでやると“もどき”でもNo−121と称するのは妥当でないかもしれない。

し、これでとりあえず拵えてみて、そのイコライザー部についてはここ、フラットアンプ部についてはここで観じた結果、さらにこうなってしまった。










そして最後に、諸悪の根源だったことが明らかになった電源部の根治治療。

と言うのは、超高速プッシュプルレギュレータ。これがAC電源入力では発振するのである。いや、必ず発振するというのでない。やっかいなことにアンプの片チャンネルだけに給電して動作させる場合は安定に動作するのだが、両チャンネルに給電すると発振するのだ。それも微妙な程度だからたちが悪い。

まぁ微妙でも電源が発振していればアンプが不安定になるのは当たり前だし、アンプが発振していると誤判断もしてしまう。し、アンプの発振と誤判断してあれこれ試行錯誤してアンプ側で対策を講じても当然ながら徒労に終わる。もう2年半も過ぎてしまったが、前回書いた作業は正にこの徒労だったのだ。本当の原因を見誤ったのだからしょうがない。。。

では、この超高速プッシュプルレギュレータがアンプ製作の最終段階で何故発振に至るのか? 

は、K先生が、25年も前にNo−75“MC専用DCプリアンプ(カスコード・シリーズレギュレーター ±独立整流回路 タンタルコンデンサー追放)”に書いておられる。

すなわち、トランスのセンタータップを共通アースとする±共通整流方式(2次巻線の0Vラインが共通)だからなのである。

これだと、プラスマイナスのレギュレータを独立に動作させると何ら問題なく安定動作するのに、プラスマイナス電源を同時に動作させると発振すると書いておられる。だから、これまでレギュレータの入力側のコンデンサにタンタルコンデンサーを使わざるを得なかったと。

これを±独立整流方式(プラスとマイナスの2次巻線と整流回路が独立)にすると、超高速プッシュプルレギュレータはあれほど発振しやすかったのが、ポリカーボコンデンサー入力でも嘘のように全く安定になる。ポリカーボ入力の音は澄みきっており、表情が生きてくると。

私が試行錯誤した中では、共通整流方式ではタンタルコンデンサー入力にしても発振は完全には終結しなかったが、独立整流方式にしたところ、両チャンネルへ給電にしても、これまでどうやっても微少な発振が止められなかったのが嘘のように、ポリカーボ入力でも全くあっけなく安定になった。

25年前はまだ抵抗負荷2段差動アンプ方式の第一世代、レギュレータも誤差アンプが抵抗負荷2段差動アンプのシリーズレギュレータであったのだが、AC電源入力の場合、トランス巻き線からプラスマイナスを独立にしないとこの怪現象に遭遇するということは第二世代のGOAのアンプ及びレギュレータでも同じだった訳だ。

なので、トランスをTK−P1に交換し、±独立整流方式に変更したのである

いやはや、あれ以来K式においてAC電源では必ずプラスマイナスの独立整流方式が採用されることになったことは頭の中にあったのだが、自ら体験しないと本当の知識にはならないものだわい。(^^; かくして、最初からこうしておけば何も問題もなく、苦労もしなかっただろうに。。。(爆)







で、その音なのだが、非常に良いように思う。

澄みきって伸びやかで、柔らかくかつ良く弾む。切れも良く色彩感も鮮やか。総じてごく自然だ。No−168MCプリアンプと比較しても、勿論微妙なところだが、こちらの方が良いのではなかろうか。と思える。









2008年11月23日






その10(No−121(もどき)メタルキャンTRによるMCプリアンプ 宿替え)



・No−121(もどき)メタルキャンTRによるMCプリアンプへの変身に伴い、見た目も変身することして宿を替えた。

・新たな宿は新調ではなく、廃用となったNo−168CDラインアンプのケース(OS49−26−33BX)のリユースである。フォノ用アース端子とCD入力用ピンジャックを新たに装着するが、信号切り替えスイッチは従前のミューティングスイッチをそのまま流用する。電源部(トランス及び整流回路)は別ケースに分離。

・ところで、“スーパー・ストレート”とは“イコライザーアンプとフラットアンプ間にボリュームを挿入しないVGA(バリアブル・ゲインコントロール・アンプ)方式”という意味である。ので、これに全く反する我がNo−121(もどき)メタルキャンMCプリアンプについては、今後、“スーパーストレート”は冠しないことにする。

・この際、再度、PSpice(評価版)と方形波応答で観じる。

・先ずは、イコライザー部。

・PSpice(評価版)の制限でTRは10個に限られる。ので、初段カスコードアンプは省略。初段は実機では2SK97だが、モデルがないので2SK117で代用し、gmを2SK97相当にするため実機にはないソース抵抗を入れる。2SC959は2SC1775で代用し、Q5には2SC959のCob相当の18pFをそのB−C間に繋いでおく。のは、これがあるとないでは有意の差が生じるから。ない方が良さ気なのだが、C959を使う以上これはしょうがない。
・オープンゲイン(緑)は最低域で99dB。初段のgmがソース抵抗込みで6.5くらい、2段目は、まずその動作電流が3mA強なのでgm=40×3=120mS、hfeはまぁ120として、入力インピーダンスhieがhfe/gm=120/120=1kΩ、よって初段出力電流の2段目ベースへの分流率は1.8/(1.8+1)=64.29%、なので2段目は0.6429×120=77.14。したがって全体でのGm=6.5×77.14=501.41mSとなるから、低域での負荷205kΩ(帰還回路の270kΩと次段入力抵抗820kΩのパラ値)に乗じれば最低域での利得=501.41×205=102789倍=100dB。と、簡便なゲイン計算値と良く一致する。

・ループゲイン(赤)(≒NFB量)は、理想NF型イコライザーの特徴を非常に良く呈していて10Hzから70kHzまで32dB±2dBの一定値。200Hz以下でも余り減少しないのは帰還回路のインピーダンスが通例の1/3であることが利いている。その結果、
ループゲインの位相(黄)も、DCから10kHzまで±10°以内、30kHzでも±20°以内と非常に理想的だ。ちなみに次段の入力抵抗820kΩがない場合、ループゲインは10Hzでも34dBと全く理想的になるとPSpice(評価版)は占う。NFB回路のインピーダンスが通例の1/3なのは、この部分いにしえのスーパーストレートMCプリのキャリーオーバーだから。いにしえにこのようにNFB回路のインピーダンスが通例の1/3になっていたのは、GOAの有り余るゲイン(時空を超えた旧単行本に2SA726使用のイコライザー部のGm=820mSとある。)のため、通例の帰還回路定数ではオープンゲインが大きくなりすぎてNFB安定性確保が困難な場合がある(要するに発振しやすい)が故だろう。

・で、この場合のNFB安定度に直結する高域での位相回転は、利得交点周波数である4MHz付近でマイナス125°であり、位相余裕に問題はないが、安全範囲の120°をやや超えていることもあってか、クローズドゲイン(青)の4MHz超領域に微妙な盛り上がりがある。また4MHzから15MHzの領域でクローズドゲインの方がオープンゲインを超えこの部分でやや正帰還になっていることが示されており、多少の懸念はある。が、まあ、この辺は実機の方形波応答で観じる。
・その前に、PSpice(評価版)でこの状態での方形波応答を占う。
1kHz 10kHz 100kHz
・ちょっと見にくいが、100kHz方形波応答波形の立ち上がり、立ち下がりの肩部分に僅かな乱れがある。1波だけのオーバーシュートだ。非常に見にくいが実は10kHz方形波応答波形にもこのオーバーシュートが現れている。クローズドゲイン(青)の4MHz超領域の盛り上がりによるものだろう。が、まぁこの程度なら問題なし。として良いだろう。

・実機の方形波応答。
No−121 MCEQ 20pF 1kHz
20mV/div 5V/div
No−121 MCEQ 20pF 10kHz
 0.1V/div 5V/div
No−121 MCEQ 20pF 100kHz
0.5V/div 5V/div
・実機の方では、オーバーシュートの痕跡はないように観じられる。

・シミュレーションと異なるのは、安もの発振器の発振波形がなまくらなせいかもしれない。

・が、右中央の実機の1MHz方形波応答にも乱れがないし、右端のとおり、シミュレーションでは位相補正をなしの場合について、リンギングが生じるだけで発振しないと占うなど、シミュレーションはあくまでシミュレーションである。ということでもある。

・したがって、実際の位相補正はこれで適切。と判断する。
No−121 MCEQ 20pF 1MHz
 0.5V/div 5V/div
100kHz 位相補正なし
・次にフラットアンプ部。

・前回、フラットアンプ部の位相補正容量について十分に観じていなかったので、再度良く観じる。

・PSpice(評価版)のパラメトリック解析で位相補正のC1を10pF,20pF,30pF,40pFと変化させた場合の状況を一気に占う。
・オープンゲインは60dB。ループゲイン(≒NFB量)は43.6dB、クローズドゲインは16.4dB。

・オープンゲインは、初段のgmがId=2.5mAでまぁ3、2段目は、まずその動作電流が4mA強なのでgm=40×4=160mS、hfeはまぁ120として、入力インピーダンスhieがhfe/gm=120/160=750Ω、よって初段出力電流の2段目ベースへの分流率は560/(560+750)=42.75%、なので2段目は0.4275×120=51.3。したがって全体でのGm=3×51.3=153.9mSとなるから、負荷6.6kΩ(帰還回路の5.6k+1k)に乗じれば利得=153.9×6.6=1015.74倍=60dB。と、簡便なゲイン計算値と良く一致する。

・で、位相補正の最適値はクローズドゲインの1MHz超の領域での状況で一目瞭然で、10pFでは大きくピークが出ており不足、20pFでも盛り上がりがありやや不足、30pFで素直な減衰カーブとなり最適、40pFではもはや十分以上。というご神託である。
・位相補正の違いによる100kHz方形波応答の様相についてPSpice(評価版)で占い、これと実機における方形波応答の様相と対比する。ともに入力は2Vpp。
10pF 20pF 30pF
No−121 MCFA−2 100kHz 位相補正 10pF
1V/div 5V/div
No−121 MCFA−2 100kHz 位相補正 20pF
1V/div 5V/div
No−121 MCFA−2 100kHz 位相補正 30pF
1V/div 5V/div
・シミュレーションが示す応答波形と実機の応答波形には違いがある。リンギング周波数はシミュレーションの方が少し高い。シミュレーションでは立ち上がり部分より立ち下がり部分でのリンギングが大きく出ているが実機は逆である。シミュレーションでは方形波応答でも位相補正は30pFが最適だが、実機では30pFではオーバーシュートが残っており、やはり40pFは必要だ。シミュレーションはあくまでシミュレーションであるから、立ち上がりにオーバーシュートがなお僅かに残るのだが、位相補正は従来通り39pFで行く。

・ところで、シミュレーションでも実機でも、カレントミラーのQ5、すなわち2SC959が、より位相回転を速め、結果としてより大きな位相補正でもオーバーシュートを生じさせてしまう要因になっている。この意味では、ここは本来Cobの小さいTRを起用した方が吉。ではある。

・次にスルーレート。シミュレーションは右端。位相補正が10pFの場合が緑、20pFの場合が赤、30pFの場合が青、40pFの場合が黄色。10pFの場合と20pFの場合にはリンギングが生じているが、スルーレート的に観ると、位相補正容量が増えるほどに立ち上がり、立ち下がりが緩やかになり、スピードが低下して、要するにスルーレートは劣化する。まぁ、当然だ。で、位相補正40pFの場合(黄)でその立ち上がでスルーレートを読み取ると、0.5uSで25V程度立ち上がっているから、そのスルーレートは50V/uS。

・実機のスルーレートだが、我が安物オシロのプローブの×10モードの精度が悪いことが判明したので、今回は×1モードのままで観測する。その結果が右端下。応答波形の縦軸が5V/divとなったので、振幅が大きく写っている方が応答波形。その立ち上がりでスルーレートを読み取ると、0.4uSで15Vの立ち上がりだ。従ってそのスルーレートは37.5V/uS。某LH0032の1/10だが、Cobの大きなメタルキャンTRを起用する以上やむを得ない。

・なお、シミュレーションでも実機の方形波応答でも、スルーレートは立ち上がりより立ち下がりの方が優れている。のは、カレントミラーによる折り返しプッシュプル方式の対称性の限界だろう。当然だが、これは2段目左側に右側同様にCを繋いでも改善しない。が、何事にも限界はある。ので、この場合、気にしない。
40pF cval=10pF、20pF、30pF、40pF
No−121 MCFA−2 100kHz 位相補正 39pF
1V/div 5V/div

No−121 MCFA−2 100kHz 位相補正 39pF
1V/div 5V/div

・さて再度その音なのだが、実に素晴らしい。まるで限界がないように突き抜ける伸びやかさ。音楽が余すところなく自然に吹き上がり、吹き抜けていく。勿論微妙なところだが、この爽快感は我がNo−128?を超えている。実に気持ちがいい。(^^)



2008年12月16日





その11(No−121(もどき)メタルキャンTRによるMCプリアンプ その後をちょっと)



NECの名石2SA607(606)、2SC960(959)を多用した最後のTR版GOAプリ。

フラットアンプは初段の動作電流を増やして初段ドレイン抵抗を小さくするなどしているので、これはNo−121の“もどき”なのだが、No−123やその後にオールFETでやや続いたGOAの顛末を観じるに、もしTR版GOAがさらに続いていたとしたら、メタルキャンMCプリもこの点はこの“もどき”のようになっていたのではないだろうかなぁ。。。

そんなことはないか。(^^;

さて、その後、フラットアンプ外部入力のスケルトン50kΩは撤去しスルーにしてある。のは、スケルトンといえども高抵抗のせいかこの場合白熱電球のような感じに音をやや丸めるから。

で、このNo−121(もどき)の音なのだが、もとより私に絶対的音質評価基準があるわけもなく、我がLH0032MCプリやNo−168(もどき)MCプリ等との聴き比べでの話なのだが、流石にその音は優れたものだ。比較するとこのメタルキャンGOAプリは一番大人の音だ。と感じる。言い方を変えると中庸とも言えるのだが、たとえば比較的に高域の伸びなどはそこそこという感じなのだが、鳴りっぷりはとても伸びやかで、さわやか。比較的にエナジー感や情熱感といったものも一番ではないが情緒は十分感じさせるなど、大人しそうで実は衒いなく表現しているといった感じである。多分、これが最もソースに忠実なのだろう。と思える。

だから、このメタルキャンGOAMCプリがあれば、LH0032MCプリやNo−168(もどき)はなくても良い、と言うかなくても大丈夫。

と言っても、今となってはこちらの方が素子入手的に作り難いか。。。
















2009年4月26日





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