巨大坑道で泳ぐ
ニセコ連峰は標高1309mのニセコアンヌプリを頂点とする、
マッカリヌプリ(羊蹄山)、昆布岳に囲まれた高原だ。
ニトヌプリを望む大谷地から、
アプローチする。
高山植物群落の大谷地は
木道が整備されているが、
それを過ぎるとなだらかな登山道となる。
大谷地から40分でポンイワオを望む大沼に到着する。
海抜842m、水深15mのカルデラ湖だ。
想像以上の大きさだ。
再び数十分歩き、ピークを超えると、
茂みの向こうに白い山肌が見える。
硫黄鉱山跡だ。
白い岩の転がる丘を登る。
硫黄鉱床は強酸性で植生が戻らない。
木材が散乱する。
閉山から70年以上経過するが、
遺構が残っている。
9月中旬とは言え、
紅葉がスタートしている。
更に下る。
ワイス方面の硫黄川下流を望む。
露出した岩肌で、
かつては戸数50戸の鉱山集落があった。
硫黄川の河床まで下った。
耐火煉瓦が散乱し、
ここには焼取釜があった。
レンガで組まれた建物跡だ。
明治21年には鍛冶7名、火夫2名、大工2名、精錬夫30名、鉱夫40名、
運搬夫10名と鉱員7名の計189名で稼働していた。
これらは耐火煉瓦であり焼取釜の痕跡だ。
岩尾鉱山と酷似している。
散らばるレンガの遺構の間に、朽ちた木橋が残る。
大正12年には女性鉱員11名を含む103名での運営。
昭和8年頃には鉱員60名程度に減少した。
耐火レンガにはマーキングがある。
「OWARHAIK//VA」。
鉱山施設跡の柱が残存する。
明治40年頃の製品は棒状であったが、
輸送の上から細かく砕いて、カマス袋に入れ馬橇で運搬したようだ。
レンガが整然と並ぶ箇所があった。
これは焼取釜の痕跡だ。
焼取釜は炊飯と同様の原理で、その蒸気を冷却し硫黄を採取する。
当初、昆布へ製品を荷降ろしし、
尻別川を船で下り、岩内港から船積みしていた。
河原へも下ってみる。
硫黄川は岩肌を縫って流れる。
大正の初めには元山と岩内間に索道を建設、
大正8年には倶知安間に延長12qの索道が完成しバケット輸送が本格化した。
硫黄川を遡る。
河原には遺構は無く、
さすがに70年の時を感じる。
製錬後の硫黄の滓も散らばる。
かつては「黄ダイヤ」とも呼ばれたが、
今はもう臭気も無い。
ここからは硫黄川を遡り、
その源流に近づいてみよう。
登山靴も完全に水没し準備万端だ。
石垣で囲まれた水路が出現した。
しかし、当時の鉱床図ではここが坑道の一部だったらしい。
石垣水路に平行して硫黄川の最上流がある。
ここから再び水没して遡上する。
川の水は冷たいが、
ネオプレンのおかげで冷たさは感じない。
地形図上ではこの奥に隧道がある。
この先には露天掘りの鉱床があり、
レベルの変わった川床を通すために、
隧道を掘削したようだ。
奥を目指す。
隧道は約200m。
辛うじて奥に明かりが見える。
やがて天井が低くなり、
中腰で当分歩くこととなる。
しかも土壌が脆く、ザックで触れるだけで大きく崩れる。
危険な中腰エリアを進むと、
今度は遥かに高いホールに出る。
これは崩れて大きくなったようで非常に危険だ。
ホールの上流は最悪の状況。
水面からの高さが40cm程度しかなく、
水深が20cm程度だ。この状態が当分続きそうだ。
果たして抜けれるのか・・・。
意を決して水没する。
河床に寝そべり、全身水没し、
匍匐前進だ。
河床に寝転んでもザックが天井をこする。
ぼろぼろ崩れながら、
膝と肘に食い込む岩石に苦痛を堪える。
この状態は数十m続く。
廃墟の水没した隧道を這う。
一点の明かりを目指して。
150mを越えてようやく中腰で進める場所もある。
全身から水滴を垂らしながら、
目指す出口。
もう行けると、この付近で確信した。
はたして向こうの風景は・・・。
気がはやる。
ようやく出口に到達した。
洞内滞在は20分を超える。
明かりが暖かい。
恐怖の洞内に比較して、
坑口は平和であった。
なんとか到達できた。
坑道の外部は広く、
荒涼とした露天掘り跡が広がる。
鉱山跡の原風景だ。
通り抜けた坑口を振り返る。
圧巻の大きさだ。
坑道の延長の対岸には、
木材の散らばる一角がある。
これは崩れた坑道だ。
支保工が埋没している。
坑口跡の西には湧き出す川の始まりがあった。
何も無い土手の地下から大量の湧き水だ。
噴出したのちポットホールよろしく丸い穴を形成している。
これが硫黄川の基点、最上流となる。
最上流から硫黄川を追うと、
それは先ほどの穴に向かう。
すごい風景だ。
硫黄を含んだ白い鉱水を流す川もある。
これもやがて、あの洞内を目指す。
何重もの層を形成する。
今はこれでも水の少ない時期なのかもしれない。
何度見ても巨大な坑道だ。
中間地点の狭さが想像できない。
こちらにも煉瓦と枕木のような遺構が残る。
旧鉱区図にはこの南にも、
鉱床があったようだ。
廃隧道を泳ぎ、
なんとか硫黄川の源流に到達した。
帰路も再び泳ぐように、
河床を這い、
隧道を抜けた。
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