困者の運用
かつての三笠市には15の炭鉱があったという。
平成元年には唯一残存していた北炭幌内炭鉱の閉山により、
市内の炭鉱がすべて消滅した。
第二風井坑口から更に山中。
アプローチは辛うじての廃道だ。
尾根を目指して標高を上げる。
道程にはレールの遺構がある。
標高93m付近、
目的地の標高は173m付近となる。
やがて二連の
火薬庫
がある。
新幌内炭鉱は昭和48年(1973)に閉山、
約50年以上を経た遺構だ。
紅葉とのコントラストが素晴らしい火薬庫だ。
東部中央排気卸は火薬庫からも更に山中となる。
火薬庫から先は御覧のルートとなり、
道は全くなくなる。
事前に地形図を読み込んだ推論のルートを進む。
メタンガスの多い新幌内炭鉱は爆発やガス突出の危険を常にはらんでいた。
事前の試掘でガス量が多量で採炭不可と判断されていた深部においても
採炭続行可能と相成ったのはこのボアホール法ガス抜きの効果である。
延々山中を進むとやがて平場がある。
奥には人工物も見える。
東部中央排気卸に到達だ。
建屋はどうやらメタンガスの抽出施設のようだ。
ガスの減少により防爆型の圧縮空気を用いた採炭機械だけでなく、
その電動化が進行し、機械化及び能率化が進行することとなった。
具体的には密閉誘導パイプとして8インチ(250A/外径216mm)の鉄管を用いて
坑外のターボ式ブロワー(15馬力)にて坑内のガスを吸出した。
ガス誘導のために坑内ではルーツブロワー(20kw)を使用していた。
マウスon ルーツブロワー
坑内のルーツブロワーには逆流防止の逆止弁があり、
この弁が振れることにより、ブロワーが小時間で熱を持った。
連続運転するために、この逆止弁は取外し、
その後は安定して運転することが出来たようだ。
マウスon ルーツブロワー
ガス誘導を行う際に問題となるのが、配管内の水抜きである。
ボアホールから出てくるガスは坑道気温よりも高く、
しかも飽和水蒸気を含んでおり、温度低下と共にその水分が露出する。
マウスon ルーツブロワー
抽出したガスは春光台のボイラー施設に11m3/min、
カーボンブラックの製造に30m3/min、
そして岩粉工場に2m3/minとそれぞれ配分された。
カーボンブラックは原料の油を不完全燃焼させて得られる煤状の化学品で、
現代でもゴムの補強材として利用されている。
特に自動車用のタイヤでは重量の1/4がカーボンブラックとなる。
新幌内炭鉱では昭和41年現在、北炭カーボン株式会社が二工場を運営していた。
従業員は113名、カーボンブラック生産能力は1,000t/月となっていた。
山元のカーボンブラック製造施設である。
外径1.5m、長さ4.3mの耐火レンガに内張を施した製造炉に燃焼バーナーを取付け、
坑内メタンガスと空気を1:9.5の完全燃焼割合で送入する。
炉軸に並行にクレオソート油を噴射して不完全燃焼させる。
水のスプレーで急冷して粒子の成長を抑えつつ、
長さ12mの熱処理管を通過するうちにカーボンブラックが生成する。
排出したメタンガスはカーボンブラック製造以外にも冒頭の岩粉焼の燃料やボイラーに流用され、
山元の消費炭減少に効果を発揮した。
また坑内メタンガスを使用したカーボンブラックは、
そのクレオソート油の混焼による高品質が維持されていたという。
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