孔曲がりによる端倪すべからざる結果



目的の尾根に向かい、残雪の廃道を進む。
グリーンシーズンにはクマ笹の激藪となり本道は使えない。
単独行のためGPS、雪崩ビーコン、コンパスなど複数の遭難対策を施して進む。 アプローチ


一気に高度を稼ぐ。
地下水を排水するための水抜きボーリング工事は、
鳥居沢断層など地層の傾斜と多くの断層により阻まれることとなる。 登攀


鳥居沢の左岸上流に鳥居沢坑、少し下流に鳥居沢斜坑が存在した。
どちらも大正7年開坑、昭和7年に廃坑している。
大きな雪の斜面をトラバースして進む。 バンク


ボーリングの予定精度は深さ370mで間堀墾直径4.6m以内の円内に収める予定であった。
現在ならジャイロと加速度計、または傾斜/方位センサーによるデジタル計測が行われるが、
当時は6インチパイプ内にさらに小径のパイプを複数設備したという。 廃道


1時間程度登ると、眼下に遺構が見える。
付近は平場で、今はエゾシカの足跡が縦横にある。
目的の東風井に到達だ。 遺構


奔別炭鉱 東風井全貌である。
前述の鳥居沢斜坑と接続する、
連卸坑口深度355m、距離1,230mの直上に位置する場所だ。 奔別


向かって右手には建屋がありこれは扇風機動力室のようだ。
仕上がり直径4m、全長370mの東排気立坑である。
ここに設備した300馬力ターボ式扇風機による通気を担ったのである。 扇風機室


内部はブロック積による小部屋で、
モーターや扇風機を設置した土台がある。
アンカーボルトは捻じれて曲がっている。 内部


施設内部には『消化砂』の銘板がある。
鉱山保安法の「鉱業権者が講ずべき措置事例」の中で、
「坑内火災による被害範囲の拡大を防止するための措置」として、
扇風機室には消火器、消火砂又は散水設備を設けるとある。 消化砂


主要扇風機は連続的に運転することが規定されており、
一坑内の全部または2個以上の大区域を制する扇風機を言う。
『予備扇風機』は故障した主要扇風機の代りとして運転できるものである。 扇風機室


建屋の裏手には主要通気坑道の坑口がある。
新鮮な空気を坑内に送り込むための風洞である。
直径は2mを超える。 風洞


最終的な通気は 本立坑、 弥生本卸/連卸を入気とし、
排気の大部分がこの東風井(300HP)、弥生地区は 唐松風井(740HP)、
下層風井(250HP)にて郊外に排出していた。 マウスon排気系統図


風洞内部はすぐに埋没している。
ベンダー曲げした鋼板を多数次いで鋼管形状にしたようだ。
東風井(S29)、運搬立坑(S35)完成後も深部開発は加速する。 風洞内部


さらに山上にはガス抜きのための放射筒が残る。
昭和29年9月にはターボ式扇風機から軸流式扇風機への切替が行われ、
電力消費量は65%に、風量は122%と能力向上となる。 放射筒


当時の採炭現場は上向通気が実施され、
ガス湧出の激しい坑道では局所扇風機を配置していたが、
さらなる排気効率の向上が模索された。 排気立坑


そこで深部傾斜開発の一環として昭和40年に完成したのが幾春別に存在するこの中央排気立坑だ。
-850m以下の通風を目的に、仕上がり内径7m、深さ1,222m、
月間掘削115m、1,500kwの扇風機は東洋一と称される。 中央排気立坑


中央排気立坑は、この東風井の扇風機容量225kwと比較にならない威容を誇り、
風量も毎分6,000m3から18,000m3へと3倍に効率化、
東風井はその役目を終えることとなる。 炭鉱遺構


東風井から更に山中深くに登る。
冒頭に解説した水抜きボーリングはこの奥で施工、
6インチパイプ(150A)、外形165.2oにて作業された。 廃道


レールを利用した柵と擁壁が残存している。
当時のボーリング時のケーシングパイプは、
6インチ→4インチ→83oと三重で構成していたようだ。 レール


奥の平場には建屋がある。
恐らくここが水抜きボーリングを施行したその現場だ。
内部も確認してみよう。 建屋

建屋の手前には塞がれた立坑跡があり櫓で囲われている。
奥の建屋は原動機や変速装置、圧送水などのボーリング装置や、
水抜きのための 『ウォーシントンポンプ』スチームやエアーを駆動源とする堅牢なつくりの高耐久ポンプ の設置個所のようだ。。 水抜きボーリング


立坑は3.1mの小さな直径だ。
垂直をたびたび確認し、
セメント固定法で孔曲がりを測定しながらの施工であった。 立坑


ボーリング施工の断面図は以下となる。
塞がれた立坑のような部分は深さ4.1mの窪みでしかない。
図のように127mまでが6インチ、380mまでが4インチと段階的に細くなる。 立坑


現代ならデジタル傾斜計を孔に挿入して計測するが当時は、
ゼラチン溶液を満たしたガラス管の中にコンパスを吊るした形式のもので計測したという。
それでも予定以上に孔曲がりが発生したようだ。 建屋


建屋内部に機器は無く、扇風機室とは大きく異なった様相だ。
電動機の台座やシロッコファンの基台もない。
実際、105mを掘削した段階で、中心から1.2mの誤差が発生した。 個室


セメントの注入などを調整しながらもボーリングは曲がったまま継続され、
特に200m付近では地層が軟弱となり、ボーリング循環水が吸収され
ボーリングロッドが回転せず孔壁が破壊するトラブルが発生した。 立坑


このジャーミング事故により、後期は1か月以上の遅れとなる。
更に360m地点でのパイプ詰まり、泥水の沈殿などが発生、
結局は別の立坑内部にプランジャーポンプを据え付けて地下水を排出するに至った。 内部


天井に残る移動式のケーブルトロリー(吊り具)である。
ここに電源供給のケーブルや泥水ポンプからのデリバリーホースを吊り下げ、
移動式のボーリング装置と接続したのだろう。 ケーブルトロリー


油入開閉器(PAS)のケースだけが残る。
これは電源の供給側と需要側の境目で、大元のスイッチ、つまり自動や手動で遮断できる。
ポンプや巻上機の電源供給に使用したのだろう。 PAS


これは機器のメンテナンス時などに誤って電源を入れないための吊り下げ銘板だ。
ボーリングで施工した470m近辺での孔曲がりは実際32.6mもの中心からのズレが発生した。
380m地点で24m、孔の角度は約20分のズレであった。 送電禁止


結局地下水源に接触したのは147m地点であり、
そこからは大きく孔曲がりが発生、370m付近での水抜きには至らず、
設備の効果は40%、最初の50m間も使用できなかったため現実には27%と相成った。 遺構


水抜きボーリングの利用価値は全行程の半分にも満たない部分での孔曲がりによって
その効果が半減してしまったものの、本工事において
シンキングポンプによる水抜きとの効果比較や開墾工事の反省点が洗い出せたとされている。 廃墟


孔曲がりの主原因は三転した著しく異なる地層による影響であり、
また確実性のある偏位測定器などの使用がなかったことも大きい。
しかしこれらも圧力を持った『被圧地下水』との攻防の痕跡であったのは間違いない。 遺構









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排気風井跡
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