寒地選炭工場の窮愁


歌志内市のシンボル「かもい岳」は標高467m、
山頂からは石狩川,遠く十勝岳が望め、春や秋のシーズンには雲海も発生する。
600万年前の火山を示す玄武岩が多い。 歌志内市


アプローチは例のごとく道がない。
古い地形図や鉱床図で推論した位置だ。
ハンディGPSに従い、藪をかき分け進む。 アプローチ


空知炭礦は12枚の炭層を有し、
坑道は完全鉄化と言われる鋼製の可縮坑枠を使用し、
坑木の使用数と維持工数は大幅に少なかった。 廃道


かなり登ると垂直に伸びた配管が見える。
どうやら排気立坑のようだ。
名称さえわからないが、当時の遺構に到達だ。 排気立坑


円形の土台は塞がれた立坑の坑口で、
配管はガス抜き用の放射筒である。 
定期的にガスを抜きその濃度を計測していたのだ。 排気風洞


本坑は坑内深度が比較的浅く、ガスの発生量は少なかった。
他炭鉱が40%を超える含有率も記録した中、
総排気中のガス含有率は0.8%以下であった。 排気立坑


ゲートバルブはそのハンドル部も取り外され機能はしない。
流体の流れを仕切る構造からきた名称で、 「雨戸」を開閉するようなイメージだ。
フランジではなくビクトリックジョイントで配管と接続してある。 (マウスon ゲートバルブ)


付近にはコンクリート製の遺構もある。
恐らく排気立坑に繋がる、
扇風機や電動機の土台かもしれない。 コンクリート


遺構が続く。
坑内のガス検定には精密ガス検定器を、
坑内係員全員に配置していたという。 主要扇風機



更に登ると大掛かりな装置を据え付けていたような遺構がある。
ここはどうやら選炭機の廃墟のようだ。
M16程度のアンカーボルトが多数埋設してある。 選炭機


選炭工場は空知坑と神威坑にそれぞれ設備され、
いずれもバウム式水洗機を採用していた。
相当大きな粒子に至るまで処理できたという。 選炭場


バウム水洗選炭は水槽内で原炭を洗浄するとともに、
その選別水槽室と壁一枚で繋がった隣に空気室があり、
ここから圧縮空気を投入する。 バウム式


圧縮空気は上部のバルブの急激な開閉によって、
水面を押さえつけて、隣室の水面を急上昇させる。
排気時には水面が急激に下がり、その繰り返しで 水槽を脈動させる。 バウムジグ


波打った水中で、比重の異なる良質炭とズリなどが層に分かれ、
分離した石炭粒子を選別できる。
これがバウム式選炭機の原理だ。 アンカー


このバウム式選炭機には、
各選炭槽ごとに自動ズリ抜装置が設置され、
ズリの排出を自動で行い品質の安定化を図っていた。 選炭機


大きな水槽もある。
浮遊選炭機も併用していたため、寒地選炭工場の見地から防寒設備を完備、
つまり蒸気ヒーターで選炭用水を加熱していたのだ。 水槽


水温が1℃以下になると浮選飛沫が減少し極端に選炭効率が下がる。
よって厳寒時においても水温が7℃以上になるように、
加温し選炭結果に影響が出ないよう対策された。 選炭工場


周辺には配管が朽ちている。
配管というより照明装置や電線などのポールか柱のようだ。
木製でなく鋼製なのが珍しい。 配管


ポールの先には4股に分かれた金属製の鋭利な部材が接続されている。
これは冒頭で解説した旧式の避雷針だ。
炭鉱跡地で避雷針を発見するのは初のことだ。 避雷針


鉱山保安法の中には『鉱業上使用する工作物等の技術基準を定める省令の技術指針』というものがあり、
その中の電気技術基準省令第49条、 石炭坑及び金属鉱山等における坑内の高圧配線には、
落雷又は異常電圧による事故を防止するため、
坑口付近に避雷器が設けられていることとの規定がある。 避雷突針


火薬類取扱所 には避雷器の設置が義務づけられているが、
石油貯蔵タンクや坑内に跨ぐ電車線路などにも、
避雷器の規定が取り決められている。 碍子


再び移動し廃道を進む。
神威選炭工場では7,650calの特粉と呼ばれる生産原料炭を供給しており、
バウム選炭機の他に浮選機6機も運用していた。 廃道


廃道の先には水槽の様な円形のタンクが2基ある。
これは昭和26年に設置された圧力給水槽で、
選炭機への安定給水のための装置である。 圧力給水槽


その他、ドル式濃縮器(シックナー)による微粉の回収を徹底し、
河川や沈殿池への微粉流出を防止した。
また旧ズリ山には重液選炭設備を設けて効率を上げた。 給水槽



それら設備の配備は優良上級コークスを得ることが目的であり、
市場の要請に応じて、付加価値の高い商品炭を供給した。
カーボン含有の高い九銘柄がメイン商品であった。 浄水場






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排気立坑跡
排気立坑跡

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