ベルヌーイの遺言


まずは築別浄水場の機器構成図を見ていただこう。
左の築別川から取水し、右端の配水池までが浄水場のプロセスとなる。
機器構成図

築別川からエンジン式の原水ポンプで取水した川水は、
@アクセレーター(高速凝集沈殿装置)に投入される。
アクセレーターは攪拌と遠心力を用いた混和池の機能を有している。
つまり薬剤を用いて不純物を凝集(集めて固める)し浄水と汚泥に分離する。

その際、ph調整のための石灰を投入、汚泥は濃縮槽に掻き出される。

浄水はB急速ろ過池に流入し、薬剤で微粒子を固めつつ砂層に潜らせられる。
コンプレッサーによって空気(泡)が注入され水槽内部は攪拌される。

ろ過が完了した水はC浄水池に流れ、ここで塩素による消毒が行われる。
その後配水池に貯留されてから、市街へ流送される。


羽幌町は人口6,400名、
炭鉱が活発だった昭和40年(1965)には30,000人強。
閉山から5年後の昭和50年(1975)には13,600名に減少した。 羽幌



閉山の1年前、昭和44年(1969)9月完成のアパート群を縫って入山する。
4棟の鉄筋コンクリート製アパートは、
水洗トイレが完備された近代的なものだった。 築別炭鉱


スキージャンプ台を超え、林道の痕跡が薄くなっても
遺構が点在する。
更に築別川左岸を進む。 遺構


広大な平場を抜けると、大きな遺構に到達だ。
これは北清寮、独身寮の痕跡だ。
2階建て208名の入居が可能であった。 遺構


内部は荒廃激しく、年々朽ち果てている。
坑内から噴出するメタンガスを再利用 した暖房施設があったという。
しかし今となっては想像もつかない。 北清寮


北清寮の2階は壁も天井も脱落した状態だ。
かつては商店も入居しており、
あこがれの寮だったかもしれない。 2階



寮からは激藪の廃道をしばらく登る。
浄水施設には地下タンクや配水池の存在があり、
突然の落下に細心の注意を払って進む。 廃道


付近にはヒグマの足跡が点在する。
浄水場は沢の近く、
あまり登りすぎないように留意する。 ヒグマ


斜面の下に巨大廃祉だ。
築別炭鉱 浄水場に到達だ。
2階建て、奥にも遺構がある。 浄水場


建屋はL形で円形の施設と合体している。
天井にも苔や草木が生え、
廃止後約50年の重みがある。 築別浄水場


建屋の一階、入ってすぐはパイピングギャラリ、
つまり配管室だ。
防水技術が十分でなっかたためか、じめじめした雰囲気だ。 パイピングギャラリ


ここは2階のB急速ろ過池と@アクセレーター、
C浄水池などを接続する配管の森だ。
一部色分けされているが、太さは規格外のようだ。 マウスon 機器構成図


配管には原水、浄水、排水、逆洗、表洗または空気、
溢流(あふれた水)および、ろ過後排水用の各種がある。
狭い空間に7種の配管が這っている。 パイピングギャラリ


配管の太さは100A(φ114.3)でもなく80A(φ89.1)よりも太い。
当時は鋳鉄管を使用しており、
特殊異形管を製作、専用配管としていたようだ。 配管


ここは恐らく、B急速ろ過池の上流、ろ過流量制御装置が接続されていたようだ。
管内を液体が流れるときには必ず抵抗があり、圧力損失が発生する。
特にろ過池の砂層が目詰まりして流れにくくなるとその抵抗は急激に大きくなる。 マウスon 機器構成図


その圧力上昇の損失を水が吹き上がる高さで表したものを損失水頭(単位(m))で表す。
その損失水頭に連動してバルブの流量を変動させるのが ろ過流量制御装置だ。
流れが悪くなっても、ろ過流量を一定に調節するのが目的だ。 損失水頭



制水弁も今とは形状が異なるが、
丸ハンドル付きのバルブの中に、
一部電動バタフライ弁も見られる。 制水弁


これは駆動源として水圧を利用した、
水圧開閉式のシリンダバルブかもしれない。
当時の最新技術で、各地の浄水場で採用された経緯がある。 シリンダーバルブ


階段を上り二階に向かう。
ろ過池などは水深を稼ぐために、
2階に配置されることが多い。 階段


木枠の窓はかなり劣化している。
築別水道の給水人口は昭和43年度に4,925名であったのが 、
昭和44年度には4,180名と745名減となっている。 窓


2階の最も上流にあるのがこの@アクセレーター、
高速凝集沈殿装置だ。
直径は6m程度、深さは4m程度だ。 マウスon 機器構成図


これが@アクセレーターの断面となる。
ブルーのラインが水の流れだ。
部屋は上下と外周の3部屋に分割されてそれぞれが連絡している。
まず右の中央から原水が流入、下部へ流れて中央下の第一次攪拌室に入る。
第一次攪拌室と上部の第二攪拌室には連結したプロペラ(インペラ)がある。
第一次攪拌室では「凝集剤」 塩化アルミニウムなどでー電荷の不純物を中和して集めて固める薬 と原水が混合され「フロック」 水中の細かな不純物類が集まって固まり沈殿したものが成長する。
かゆ状化した原水の一部は渦巻ポンプの要領で上部の第二攪拌室に送られる。
第二次撹拌室では緩速の撹拌が行われ、化学反応と凝集作用が加速する。
重い汚泥は第一次攪拌室下部から排出(赤丸)、
第二攪拌室で凝集(塊化)が進んだ原水は周囲のスラリプールに流れ込む。
スラリープールでは浄水が上昇し、フロックは成長、遠心力でプール外周の底部に向かう。
スラリープール下端の汚泥はコンセントレータ(赤丸)から排泥される。
上澄み浄水はスラリープール上部から溢流(あふれる)してB急速ろ過池に向かう。 アクセレータ


高速凝集沈殿装置上部中央にはインペラを駆動するモーターがある。
その下部の筒が第二次撹拌室、そして第一次攪拌室につながる。
周囲の深い外周がスラリープールである。 高速凝集沈殿装置


モーターに接続されるチェン式無断変速機。
ギヤの代わりに2枚のスプロケットにチェンを架け替えて、
動力を伝達する装置だ。 マウスon チェン式無断変速機


スラリーとは固体粒子が液体の中に懸濁している流動体、つまり粥状の泥漿(でいしょう)のことだ
第二次撹拌室からスラリープールへの浄水の溢流(あふれる)は、
ドラフトチューブを介して行われる。 ドラフトチューブ


ドラフトチューブ(吸出し管)は出口から排出面までを結びつける接続管のことで、
末広構造によって、断面を徐々に大きくすることで水のエネルギーを効率よく吸収、
管入り口では大気圧の放水面よりも負圧となるので
落差を有効に使った吸い込みが行われることとなる。 ドラフトチューブ


スラリープールの下部にあるコンセントレーターとは遠心脱水機(遠心分離機)のことで、
遠心力を用いて固体と液体といった比重差のある物質を分離、
自然沈降と比較して短い時間で沈降させることが可能である。 コンセントレーター


コンセントレーターで生成した汚泥は、
アルキメデススクリューを流用した、
スクリューコンベヤをもって排出される。 コンセントレーター


高速凝集沈殿装置には凝集剤と共に石灰が投入される。
飲料水の水質基準ではpH値は 5.8〜8.6と決められ、
また凝集剤の効率よい反応促進のために、
消石灰を添加して浄化を早めると同時にpHの調整を行う。 マウスon 機器構成図


高速凝集沈殿装置外周最上部にあるオリフィスとは、流量調整用の管路で、壁に開けた面積を減少した排出口。
その前後で流速が変わり、圧力が下がる 「(ベルヌーイの定理)」 流体において、流れの速い部分は圧力が低く、流れの遅い部分は圧力が高い ので、
その圧力差から流量が計測できる。 高速凝集沈殿



2階@アクセレーター下流にはB急速ろ過池が残存している。
制御盤も残り、
ここで水流の遮断や開閉、洗浄工程の操作を行っていたのだ。 マウスon 機器構成図



これが二槽ある急速ろ過池だ。
凝集剤と言われる硫酸アルミニウムなどを用い、
これを自然水に加えることで 「フロック」 水中の細かな不純物類が集まって固まり沈殿したもの が形成される。 フロック


フロックが形成した処理水は砂層に流し、自然流下によって浮遊物を濾す。
砂層の厚みは60〜70p程度を標準とする。
しかしろ過砂は長時間ろ過を続けると目詰まりを起こす。 急速ろ過池


その際、ろ過砂の洗浄が必要となり、
表面を水圧を利用してノズルを回転させながら洗浄するのが『表洗』。
逆に下流から上流へ逆流洗浄させることで ろ材に溜まった汚れを取り除くことを『逆洗』と呼ぶ。 逆洗


これは並列する ろ過池自動操作台だ。
ワイヤーを介して1階の各シリンダバルブの開閉を行い、
ろ過池への給水や排出、表洗/逆洗各ポンプの起動などを司った。 ろ過池自動操作台


この複式メーターはろ過流量、ろ過速度の2重目盛と、
ろ過砂層の目詰まりによる圧力上昇 (「損失水頭」 圧力上昇の損失を水が吹き上がる高さで表したもの)を検出し、
連動してバルブの流量を変動させている。 複式メーター


奥の別室には配電盤が残る。
電流計が並び、現状の運転機器が点灯する構造だ。
スイッチはすべてがon/offの手動型でシーケンスのような形式ではない。 操作盤


変圧器や高圧カットアウトの断路器が残る。
変圧器は交流電圧の変換を行い、
高圧カットアウトは負荷の開閉や過負荷保護を担う。 変圧器


キュービクルも残存している。
電高圧受電盤は電力会社から供給された電気を、
現地の負荷設備の仕様に合った電圧・周波数に変換する設備だ。 高圧受電盤


ポンプ稼働やバルブの開閉、電力制御のための継電器盤が並ぶ。
継電器、つまりリレーは電力系統における機器や回路の保護のために
遮断器を開閉させることに使用されることが多い。 継電器盤




配電関係の一室の並びには木製のドアが残る。
鳥の巣があったが主は不在のようだ。
この部屋は厳重に管理されていたようだ。 鳥の巣


この部屋は実験室のような雰囲気で、
円形のバルブ、ステンレスの箱、
そして卓上の装置と木製の水槽がある。 マウスon 機器構成図


これは定濃度薬品注入装置である。
アクセレーターや急速ろ過池で凝集剤の使用は解説したが、
当時の凝集剤は「硫酸バンド」 水中に浮遊するマイナスの電荷の懸濁成分を中和、固めて沈殿させる であった。 定濃度薬品注入装置


水中に浮遊する懸濁成分内に注入すると、加水分解してプラスの電荷を持ち、
浮遊物同士の反発をなくしてを効率よく中和して集め沈殿させる、
そのための硫酸バンド溶液を設定された濃度で均一に製造する自動湿式薬品注入装置だ。 自動湿式薬品注入装置


これはテラコンフィーダーと呼ばれる粉粒体供給装置だ。
回転する偏心シャフトの振動をもって、粉の化学薬品などを
連続的に定量を排出する装置だ。 テラコンフィーダー


隣の水槽には白い固形物が浮遊している。
恐らく硫酸バンド溶液で、その時の水質に合致した濃度の水溶液を連続的に作り、
果たしてそれが適正かを人力で検証しながら作業していたようだ。 水槽


2階の窓から見下ろすとタンクが2基望める。
あれは恐らく滅菌用の塩素タンク。
滅菌に使用する塩素は毒性の高い塩素ガスではなく次亜塩素酸ナトリウムである。 マウスon 機器構成図


次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)は淡黄色の透明な液体で、
水に注入し中性域に近づくと次亜塩素酸の存在割合が増し、
強い殺菌効果を発揮、ウイルスや病原性細菌を死滅させる。 塩素タンク


ここは外部にあるA濃縮槽だ。
@アクセレーターやC急速ろ過池からの排泥に残る濃縮水分を除去する。
うわ水はろ過池に戻し、汚泥はコンクリートの原料などに使用する。 マウスon 機器構成図


建屋の手前にある換気装置の下が浄水池だ。
浄水施設の最終段階の施設で浄水を蓄え送水量調整を行う。
浄水池の有効容量は計画浄水量の1時間分とされている。 浄水池


羽幌炭鉱の中でも最も人口が多かった築別坑。
上水道計画は昭和28年(1953)から始まったというが、
炭鉱水道事業が市街水道と独立して運営されていたことが驚きだ。 浄水場









戻る

築別浄水場
築別浄水場

トップページへ