23.3secの奇跡

《目次》

  1. 操車場及び立坑櫓
  2. 川手側-550L
※目次クリックからリンクしています


操車場及び立坑櫓


まずはヤード1階正面へ進む。
向かって左側が『川手-550L』右側が『山手-350L』。
正面の高い鉄塔が立坑櫓である。 ヤード


ヤード1階に入構するとそこは広い操車設備だ。
炭車と分岐するレール、 そして正面には立坑櫓の最下層、坑口積込設備が広がる。 一階


右手には人車とその奥にはケージが見える。
坑口操車設備は循環方式のもので、
軌間は610oだ。 操車場

並ぶ炭車の上部は操作台だ。
茶色の炭車が立坑専用の旧トロッコで、
黄色の炭車が立坑/斜坑併用のために新開発された連結部を持つ新型トロッコだ。 操作台


操作台は-350L、-550Lの両レベルとも軌道信号装置を用いて
炭車を振り分ける司令塔だ。
同様のものが左右に配置されている。 操作台


山手側及び川手側、それぞれに操車を行う。
地上より若干高い位置から、
それぞれのケージに向かうようにポイントを切り替えるのだ。 操作台



操作室からは軌道〜坑口積込設備までが一望できる。
一坑、三坑、一斜坑方面からの炭車を、
安全迅速に導入できるように、遠方操作方式が採用されている。 マウスon


レールの間にあるチェーンコンベヤーのような機構が『クリーパ』である。
クリーパは鎖に取り付けたフックを鉱車にひっかけて、短距離移動させる装置だ。
本操車設備内には11Kwのものが7台存在した。 クリーパ


そして正面にそびえる立坑直下、坑口積込設備だ。
1〜4まであり、1〜2が山手-350L、3〜4が川手-550Lとなる。
ゲートが坑口積換設備のシャフトドアーとなる。 坑口積込設備


炭車積降時には圧気式のジャンクションレールに加圧して昇降、
レールが緩やかな坂となり、
着床誤差を無くして炭車をスムーズに運転させた。 坑口積込設備


安全面から運転準備完了時に連打信号が発せられる。
誘導無線による、巻上坑口を親局とし、
ケージ内及び坑底を子局とされていた。 信号装置    


炭車(トロッコ)は従来の工業規格から脱した新開発のものだ。
強度と立坑特有の使用状況を兼ね備えた立坑/斜坑兼用型だ。
緩衝器にはゴムパッドを使用し強堅な使用に耐えうる。 炭車   


炭車(トロッコ)は容積2.0立米、外形970×1,200×3,005。
自重1,180s、雄雌共用連結器は引張力95,000kg。
車輪径φ300o、軸径φ75o。 トロッコ


操車場奥のかつては 「チップラー」(=カーダンパー)炭車からの積載物を降ろすために炭車ごと横転させる装置 が存在した部分だ。
炭用チップラー7.5kw×2台とズリ用チップラー7.5kw×1台が存在した。
それぞれにプッシャ及びストッパが備わり石炭の排出作業に貢献した。 チップラー


更に操車場奥にある充填ズリポケットである。
前述のとおり、急傾斜坑の充填用水洗ズリを再び炭車に積込む装置だ。
この後、操車され再び坑底に下り、坑道の埋戻しに使用されるのである。 充填ズリポケット


立坑内にホッパーがあることは、疑問の一つであったが、
充填ズリ積込施設であることで理由が判明した。
ここには5.5Kwの 「フィーダー」振動などを利用した逆円錐形の粉粒体用供給機 が存在した。 フィーダー


操車場の川手側には 「高圧油入変圧器」鉄心と巻線が絶縁油の中に沈められた、受電電圧6.6Kvを105vまたは210vの低圧にする装置 や、 「断路器」(DS)高圧配線、機器の点検時に開放し、遮断器の投入によっても感電等を防止する装置
「計器用変圧変流器」(VCT)自家用受電設備の引込口近くに設置、高圧電流を比例した定電流に変換、電力量計に供給 などが設置してある。
またフィーダー用の制御盤などがあり、操車場の電力供給を担っていたようだ。 マウスon


背面から見た立坑櫓である。
H型鉄骨ホ鋲、溶接構造、高さ43.8m。
重量395t、シーブ径5.5m。 立坑櫓


櫓中間部。
安全装置として過巻時のキャッチフック、バッファビームがあったようだが現地確認はできなかった。
つまり事故によるケージの突き上げ時に、それを停めるフックと衝撃緩衝材が設置されていた。 立坑櫓


櫓に装着された小さな箱、これが要の『ノンタクトリミットスイッチ』無接点 継電器 (NLS)である。
永久磁石が装着されたケージがここを高速で接触することなしに通過するだけで、
信号を発信し、ケージ位置から割り出して速度調整を行うのだ。 NLS


立坑櫓に備え付けられる速度監視装置である。
奔別立坑では 速度検出のためにローラーをケーペープーリに接触させて計測を行っていたが、
赤平では無接点の装置となりここでも進化が見られる。 速度監視装置


ケーペプーリ直下付近だがこの奥は確認できなかった。
恐らく左端のタンクが制動機関の 「圧気源」ブレーキ用シリンダは圧縮した空気で作動だ。
この奥には巻上機に連動する『運転調整器』が存在し、
ケージ位置確認とそれに伴うプログラム運転を行っていた。 ブレーキ


この付近奥には図のブレーキシステムがあるはずだ。
常用エアシリンダー@で制動(上向き)後、緊急時や最終段階ではシリンダAと共にブレーキ重石が下部に移動することで、
ロッドがそれぞれ青矢印方向に動き、ケーペプーリを締め付けてブレーキ稼働となる。 マウスon


4階建て、立坑内を運転するケージである。サイズはL3,150×W1,090×H10,000mm。
人員なら18名×4階=72名(4.18t)または炭車の場合は1台×4階=4台(8〜12t)。
下部の補助用テールロープは幅140o×厚さ27.4o×2本のダブルフラットロープだ。 ケージ


川手側-550L



川手側-550L巻室全景である。
正面には巨大な円盤、ケーペプーリが見える。

山手側-350L巻室はシンメトリーの配置が見られ、
ケーペプーリーと駆動用電動機の配置が左右異なっているそうだ。 マウスon  昭和38年


入り口付近に設置されているのが、
ワードレオナード方式の 「1800Kw交流(AC)同期電動機(モーター)」SDED形(全閉管通風)1,800kw、600rpm、3,150v、励磁110v (手前)と、
これにシャフトで直結した 「1800Kw直流(DC)主発電機」SDEAR形(全閉管通風、他励分巻)1,800kw、600rpm、545v、3,300A (奥)だ。 発電機


まずは外部商用電源(200V 3相)を用いて交流(AC)電動機(モーター)を定格運転し、
それと連動したこの直流(DC)主発電機で直流発電を行う。
これらは、ケーペプーリを駆動する電動機の速度(電流)制御を行うためだ。 マウスon  銘板  


ワードレオナード方式の回路図である。
回転速度制御を行う直流他励モータに加えて、直流他励発電機とそれを駆動するモータで構成される。
この直流他励発電機に発電電圧を制御する直流他励モータに加えて、
発電機の発電電圧を調整すれば、回転速度制御が可能となる。 ワードレオナード


こちらが付近にある自動制御回路の基本となる同期機用 「励磁」コイルに電流を流して磁束を発生、接点を吸引on/offできる MGセット(Motor/Generator)だ。
2組の 「界磁」モーターなど回転機械の磁界を作るための磁石。強弱することで回転数を変更できる コイルを速応形磁気増幅器で励磁し、正転または逆転を行わせる。
運転調整器の速度指令値と発電機の速度差を埋めるために、出力増幅器を介して励磁機を制御する。 励磁


プーリ横の小屋内にあるのが 「駆動用1600Kw直流(DC)電動機」SDEAR形(全閉管通風、他励分巻)1,600kw、0±41.7rpm、535v、3,260A だ。
ワードレオナード方式でスピードと回転方向がコントロール可能となった直流(DC)電源を用いて、
回転数制御を行うのだ。 直流(DC)電動機


小屋の中の直流(DC)電動機内部。電源接続端子、電磁石、固定子、回転子と1600Kwともなるとすべてが大型だ。
周囲の電磁石内にブラシと整流子からなる回転子を入れて、
その連続する反発力で自立回転を行うのが直流(DC)電動機だ。 マウスon 銘板


駆動用電動機と直結される直径5.5mのケーペプーリ。
「GHH社」グーテホフヌングスヒュッテ社 〔ドイツ〕 の型による三菱造船(株)広島造船所による溶接構造で、
ここに巻いたワイヤーロープで最大12tのケージを12m/secで運転したのだ。 マウスon 銘板


ケーペプーリ手前のアームやロッドがブレーキシステムだ。
地下にあるエア式シリンダーの加圧によって、
ケーペプーリを両側から締め付けるのだ。 ブレーキブロック <


施設中央部に位置する運転デスクである。
操作ハンドルによる手動運転も可能であるが、
基本は1ボタンによる自動運転だ。
山手側-350L運転デスクには550L/350L切替スイッチが存在しているそうだ。 マウスon


深度計は1,100mまで刻んである。
当初は-350Lまでの運転であったが、昭和50年頃に-550Lまで延長工事を施し、
山手側、川手側とも-550Lまで運行可能なように改造されたのである。
これは歌志内鉱区での火災事故を背景に赤平鉱区での採炭強化を背景とする。 ブレーキブロック


自動化プログラム用の制御盤各種である。
『デッキチェンジ盤』『AVR盤』『負荷検出器』『自動制御盤』。
一部 「継電器」(けいでんき)=リレー、回路の電流を断続、向きの変更をして、他の回路のスイッチ開閉を自動的に行う装置 が使用され、無接点化まではされていないが信頼性と安全性に寄与している。 マウスon


制御盤内には継電器に代わる「分岐開閉器」電流の分岐点に設けられた過電流時の遮断器 や、「電子式タイマー」コンデンサと抵抗の組み合わせによる所定の時間遅れ後の出力接点の開閉を行う装置 が装備され制御の進化が見られる。
ケージ位置の検出情報から電動機の回転数やブレーキブロックの空圧電磁弁を制御し、
増幅した加速度や速度差、減速過程を連続監視する機構だ。 制御器


この『AVR盤』は、 奔別立坑には存在しなかった進化の痕跡だ。
これは 「オートボルテージレギュレータ」電圧自動調整器 の略で、負荷によって変動する電圧を一定に保つ装置だ。
恐らく運搬する物の重量差や加減速及び定速時の負荷の違いを検出し電圧を一定に保つことで、
電圧降下による電流増から電線や機器を保護する目的だと思われる。 主軸


こちらも進化の過程、 「ノンタクトリミットスイッチ」無接点継電器(NLS)の制御盤である。
立坑櫓に装着された検出器とケージに装着された永久磁石が無接点で接近通過することで、
その位置の検出を行い、常用制動や電動機の回転数制御の入力演算条件とするのである。 マウスon


日本初の自動デッキチェンジのための制御盤、これも一つの進化の形だ。
炭車の入替作業の自動化は立坑制御の積年の夢だったらしく、
停止用NLSの恩恵と共に、計画時の6秒よりも時短化が可能となった. 自動デッキチェンジ盤


これは誘導無線電話装置、つまり運転準備信号などを受発信する装置だ。
必要か所からの運転準備信号が集約、
連打信号が出揃って初めて巻上機の運転が可能となる安全装置である。 誘導無線電話装置


デッキチェンジを伴うオールケージの赤平坑は、
スキップに対して格段の工数がかかることとなる。
その弱点をカバーする自動化は当時の技術の粋を集めたものだと言える。 YASUKAWA


鉱区の特質からズリ充填のために求められた、オールケージ、斜坑との併用、
それに伴う新型炭車、自動デッキチェンジの開発、 及びNLSやAVRを併用したシリコン整流器による数値制御。
これらによって可能となったのは、深度550mという短区間での23.3秒間という最大限の最高速度区間の確立。
これが赤平第一立坑が『東洋一』と称された所以である。 立坑櫓



《目次》
  1. 操車場及び立坑櫓
  2. 川手側-550L





prayfor3104赤平第一立坑トップへ prayfor3104立坑櫓、その構造と制御



トップページへ