狸の八畳敷き
留辺蘂町と佐呂間町の町境、瑞穂付近。
留辺蘂町の水田発祥の地で、みずみずしい稲の穂にちなみ、
豊作を祈って『みずほ』と命名したという。
ここからはワカケレベツ沢川の左岸に沿って上流を目指す。
鉱山跡現地までは地形図上道は無い。
多少の藪漕ぎを想定しての探索となる。
金鉱山跡にはありがちな『金山橋』を渡る。
付近には千歳鉱山も隣接していたが、これも昭和18年閉山、
含有量は1.3g/tと非常に低かった。
林道脇にはジープの廃車体が朽ちている。
後期のJ55のようだ。
鉱山跡に向けて更に林道を進む。
第一鉱床が想定される谷に向かって、藪を登る。
下部の沢沿いに行く手もあるが、
付近を俯瞰するために標高の高い部分を登る。
現在の標高は220m附近、目指すは260m近辺だ。
眼下には地形図に載らない沢があり、
これを見下ろしながら右岸の藪を進む。
やがて植生の薄い斜面に到達した。
苔むしたこのサイズの岩石はズリの可能性もある。
経験上、俄かの人工的な雰囲気に辺りを注意する。
そしてズリ山かと錯覚した岩石の塊は、
人工的に組まれた石垣跡だった。
鉱山跡の施設跡で間違いないだろう。
石垣の上は人工的な平場になっており、
かつては建物があったのかもしれない。
恐らく数か所の坑口があるはずなのでこの平場の上流域を探してみよう。
平場の西方には沢でも道でもない斜面がある。
平たく落ち葉が堆積する一角は、人工的な雰囲気がある。
あれを登ってみよう。
斜面は一定の幅が確保されており、
完全に人工の鉱石運搬道だ。
上から
「ジガー」淘汰器=人工の斜面で鉱石を転がせて選別
のように鉱石を落下させたのかもしれない。
その上部には巨大な坑口である。仮に第一坑口とする。
歌登鉱山
にも似た岩の裂け目のような坑口だ。
どうやら立坑よろしく下部に向かった坑道のようだ。
やはり坑道は足元へ下っている。
金の品位は
「パーミル(‰)」1000分の1%
で表し純度999.9‰を24Kとし、金貨は21.6K(90%=900‰)、義歯20〜22K(833〜917‰)
、
装身具18K(750‰)筆記具14K(583‰)などとなる。
坑道は一気に下部へ急角度に下っている。
上部にも枝分かれしているが、
写真地点あたりで埋没している。
下部から坑口を見上げるとそれは際どい形状をしている。
金は延性が極めて大きく、10万分の1mmの厚さの金箔に引き延ばしたり、
1gで2,000mの針金に引いたりすることが可能だ。
マウスon
坑口の岩盤は辛うじての形状を保っている。
植物の根が張り、意外とバランスを保っているようだが、
いずれ突然落下するかもしれない。
坑道から紅葉の坑口を見上げる。
銅や鉛の製錬の際には、融材と共に高温で還元する乾式精錬が用いられ、
副産物として金が取り出される。
第一坑口のすぐ上部には第二の小さな坑口がある。
非常に危険な箇所だが、
第一坑口とは独立した坑道のようだ。
第二坑口からは水平方向、そして上部に坑道が続く。
金の原子記号『Au』はラテン語の金を意味する『aurum』から成っており、
この語源はヘブライ語の光(=or)と赤(=aus)から来ていると言われる。
上部に掘削された坑道には支保工が多数入る。
日本では黄金(こがね)=金・白金=銀・赤金=銅・黒金=鉄・青金=鉛を意味し、
現在での金の価格は¥5,600/g程度となっている。
第二坑口は約40m程度で埋没しており、
最奥から見ると支保工に岩盤が堰き止められている。
岩盤は如何にも手掘りの様相だ。
第二坑口を内部から見上げる。
かつてはタヌキの皮に1匁の金を挟んで叩いて引き延ばしたことにより、
大きく引き伸ばすことを、狸の八畳敷きというようになったとの逸話もある。
一旦下山し西の別谷へ入る。
本坑は昭和10年には金銀鉱床として『重要鉱山』の指定を受け、
従業員29名で稼行したという。
再び坑口を探して、一つの沢に入る。
こちらの第二鉱床は昭和10年以降に、減産した第一鉱床に代わり、
坑内掘り及び露天掘りによって稼行したとの資料がある。
ここからは詳細な位置が不明なので、
それらしい谷あいや平場を追って歩く。
石垣や煉瓦、人工物に留意を払う。
少しの平場に鋼製の部材が落ちている。
搬器か運搬用の鋼材のようだ。
これは昭和初期の遺構に違いない。
その遺構の下部の対岸には緩やかな泥の沢がある。
どうやら埋没した坑口跡のようで、
汚泥は入れないほど深い。
崩れた第三坑口の向かい側、下流には石垣の第四坑口が存在する。
ここは斜めに歪んだ岩盤を砕いたような坑口だ。
沢から離れた位置にある。
坑道はすぐに埋没し上部からの明かりが漏れている。
断面は細く狭い。
入坑してもすぐに上部へ抜けるだけだ。
上部にも遺構は無く、単純に坑道が崩れて、
上部が決壊しただけのようだ。
かつての銅山王と呼ばれた人物も一時所有した本坑、一獲千金の夢だったかもしれない。
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