シーケンス、そしてインバータの無い時代


4階 ガイドシーブデッキ


4階はガイドシーブとワードレオナード方式制御の核となる、
交流発動機(モーター)と直流発電機、その制御室がある。
つまりここが本立坑の頭脳と言える部分だ。 ガイドシーブ室


電気には 「直流」DC=direct current 電池、12Vなど「交流」AC=alternating current 家庭用 100Vなど があり、直流は”+””−”が固定、交流は電圧と 「極性」+とー「変化」一秒間に50〜60回変化=ヘルツ(Hz) する。
直流電動機(モーター)は小型高出力、回転数の調整が容易。 「ブラシ」回転しながら接触して通電、連続磁界変化で連続回転する。 の消耗があり、外力により回転数変化が発生する。
交流電動機(モーター)は ブラシ が不要で単純構造、故障が少ないが、回転数の調整ができない。
つまり、エレベータでも電車でも速度は一定でなく、電動機(モーター)の回転数を制御する必要がある。
そのため、現代では 「インバータ」交流を直流に変換して、再度交流に変換し周波数と電圧を自在変化させる装置。 を用いて堅牢な交流電動機(モーター)を制御できるが、当時はその技術がなかった。

そこで当時開発されたのが『ワードレオナード』方式だ。
これは交流電動機(モーター)で直流発電機を定格駆動、その発電機を 「界磁制御」磁石で磁界をコントロールし抵抗制御を行う。 し、
その変化した直流電源を用いて直流電動機(モーター)を稼働しスピードコントロールする方式だ。
複雑なようだが、広義のインバータ制御と言えるかもしれない。 ワードレオナード


直径3.5mのガイドシーブは無動力の滑車で現在も手動で回る状況だ。
これでケーペプーリから下がるワイヤーロープを押付けて
テンションを掛け滑りを防止するのだ。 ガイドシーブ


巻上機の加減速時にロープスリップが発生しやすく、その際、ロープを傷つけやすい。
これを防止するため、軽量化のための穴が有り、ディスクタイプで慣性を少なくし、
ロープとの摩擦係数が高い合成ゴム製ロープ 「ライニング」摩耗などを防ぐために用途に適した材料を張り付けること。 が装着されている。 ガイドシーブ




付近の壁にはグリスが点々と散乱している。
高速で回転するワイヤー、シーブから飛散したものだろう。
稼働中の騒音も大きかったかもしれない。 グリス


富士電機株式会社のロゴの入る制御盤。
制御基板が集合している。
「シーケンス」あらかじめ定められた順序によって制御の各段階を進めていくこと。 にほぼ近い機構のようだ。


巻上機補器電源の制御盤が並ぶ。
つまりワードレオナード方式の起点となる、
交流電動機の制御を行っていたのだ。 制御盤


昭和38年7月製造の交流200vの限時継電器。これは所定の入力信号が与えられてから、
出力接点が開閉するまであらかじめ時間間隔が設定された部品。これは10秒に設定してある。
その所定時間を「時限」と言い、時間遅れを持つことを「限時」と言う。 限時継電器


開閉器の並ぶ制御盤。
シーケンス の無い時代の制御。
深度、速度を検出しそれらに応じた 「トランジスタ」半導体でできた信号を増幅したり、回路をon/offする電気の流れをコントロールする部品。 での制御を行っていたようだ。 開閉器


これはブレーカーの裏面。
トリップなど異常時の検出回路のようだ。
現代では見られない形状だ。 ブレーカー


これがワードレオナード方式の核となる交流電動機と直流発電機だ。
2台は機械的に接続され、電動機は880kw、3,300v、1,000rpm、発電機は950kw、750v。
200v三相AC電源でまず交流電動機を運転し、その力で続いて直流発電機を駆動する。 発電機




電動機及び発電機の連続定格出力は125%の2時間負荷を
想定した余裕のある条件とされている。
発電機中央軸受は水冷式、通風用送風機も設置されている。 電動機




階段は腐食が激しく、片側が断絶している。
いつ崩落してもおかしくない状況。
5階の明かりが差し込む。 階段

5階 巻上機室

5階巻上機室全景。
ここは巻上機、操作室と制御盤がある。
中5階にはブレーキ室等がある。 5階全景




左の一角はエレベーターとその巻上室。
各装置は左から直流電動機と減速歯車、そしてそれにつながるケーペプーリ。
右が制御盤である。天井にはクレーンがある。 巻上室    完成時昭和40年 完成時


左端は直流電動機(モーター)である。
交流電動機のスピード制御が困難だった時代を語るDCモータ。
4階で電圧制御された直流発電機からの電源で稼働した。 直流電動機


中央は主減速歯車装置である。
「ダブルヘリカル」はす歯歯車を2個組み合わせた左右ねじれた歯車 1段減速の歯車を使用し、減速比は6.67:1。
中央の補助ブレーキは主ブレーキと連動した挟み込むタイプの 「圧気作動型」圧縮空気の力を利用して、シリンダーなどを作動させること。 だ。 主減速歯車装置


直径3.5m、二策式狭幅形、ケーペプーリ。
メンテナンス及び内部溶接用の穴は静音のため塞いである。
接続継ぎ手とフランジは鍛造品を使用している。 ケーペプーリ


ケーペプーリ外周にはロープが這う2本の溝があり、
そこにはライニングが貼ってある。
ケーペプーリ外形に沿う部分が下方支点ポスト型の主ブレーキである。 ブレーキ    継ぎ手


中5階と言われる小部屋が4か所ある。まずはブレーキシリンダー室へ下る。
図の黄色丸部分がブレーキに関する部分で、
エア式シリンダーとカウンターウエイトで構成される。(マウスon)


ケーペプーリ直下のブレーキ室。
アームに吊り下がるカウンターウエイトと、
シリンダーと制御盤が見える、狭い地上5階の地下室だ。 ブレーキ室


エア式シリンダーの補助としてのカウンターウエイト。
鋳鋼の比重7.2として250kg/枚×14枚=3.5tである。
深度計カムからの信号により短絡用の絞り弁を作動させ、ブレーキ用エア圧力を制御する。(マウスon)


手前が保持シリンダー、奥のチューブが太いものが常用ブレーキシリンダーである。
更に奥の筒はエアタンクから繋がる貯気槽である。図はガイドシーブ(無動力滑車)・ケーペプーリ(動力滑車)
そしてブレーキ・シリンダー等の相関図である。(マウスon)


ここに設置された制御盤は『主M-G界磁制御盤』である。
これは緊急停止時に非常ブレーキだけでなく、電動機側主回路にも遮断等の処理を施し、
過大な電動力が発生しないような措置を講じる装置である。(マウスon)


こちらは制御盤内の『圧気式非常用界磁開閉器』だ。
非常ブレーキ圧気回路の圧力低下に伴い、 「カムスイッチ」複雑な回路切替も可能な自動接点スイッチ。 が復帰、
「放電抵抗」電源を切っても残留する電荷を安全のために低下させる抵抗のこと。 に接続され 「励磁回路」電磁石等で機器の動作に必要な磁気を与える電気回路 との接続を外すことで主回路電流を低下させる。(マウスon)


別の中5階に下ると、そこはケーペプーリ直下である。
木製のブレーキシューの交換作業などが行われた場所だ。
そして要ともいえる装置がここにはある。 プーリ下


それがこの『速度検出装置』である。
自動制御のための速度計測はこのケーペプーリブレーキリムに装着された、
摩擦ゴム輪付き永久磁石式直流回転計を用いて速度基準値を検出した。(マウスon)


中5階への昇降はすべてこのような狭い鋼製梯子による。
実作業中は頻繁な昇り降りはなかったようだが、
別の中5階に下ってみよう。 梯子


ここには巨大なエアタンクがある。これは圧気式非常用ブレーキの空気源だ。
ブレーキの定格押上力9,140kg、圧気圧力4.16kg/cm2。
この定格は西ドイツの基準に従い、最大荷重は保持安全率3倍を満足するものだ。 エアタンク


タンクの脇にはエアコンプレッサーが残存する。
自動運転時のブレーキ作動には 「予圧制御」本作動前に段階的に予備作動させること。 が採用され、
微速への衝撃の緩和と作動時間短縮が図られている。 コンプレッサー


4か所目の中5階には深度計がある。
これはケーペプーリの回転を伝達し、
深度計とその校正装置に導き、減速信号を検出するのである。 深度計


プロペラシャフトとユニバーサルジョイントで接続される深度計。
深度計カムに結合されたシンクロ電機により、減速の際に必要な巻上距離対巻上速度の関係を検出し
出力電圧を整流して速度基準とする。 深度計




巻上機操作デスクのある操作盤室は巻上機全体を見渡す位置にある。
自動運転は押し釦1サイクル運転も可能なもので、
立坑信号により自動的に始動する全自動運転が可能だった。 操作デスク




操作デスクは計器盤と操作盤が分離されている。
主観制御器、切替開閉器とブレーキの連動がこの装置のメインだ。
これより進化した坑口巻上機の操作による無人運転機もこの後開発される。(マウスon)


操作デスクの各レバーの機能は以下だ。
@手動非常ブレーキ制御弁
Aゲージ運転切替
B手動常用ブレーキ制御弁
C手動/自動/全自動 運転切替
もちろん現在は何も稼働しない。 操作デスク


512mを指示する深度表示計。
ここで初めてその深度を実感する。
当時は最新で高機能な設備であったのだろう。 512m


立坑信号表に従って、
ダミーで操作してみる。機器は自動運転に近かったようだが、
坑底ー坑口ー巻室でそれぞれアナログな信号があったようだ。(マウスon)




操作室から見たケーペプーリの右には巨大な制御盤がある。
シーケンスの無かった時代、 トランジスタ を多用したトランジライン制御を見てみよう。
中5階に落下しないように注意深く歩く。 制御盤


トランジライン制御とは、トランジスタ化された調整器、演算器を用いて、
従来の真空管や磁気増幅器などに代わり、多くの要素から総合的に制御する、
デジタル化の初歩と言える機構だ。(マウスon)


つまり速度や深度を入力条件として、最高速度への加速や減速点での微速をコントロールし、
検出・算定・調整・操作などを一連として演算することで、
制御の最適化や即応性を目的とされている。 回路


制御盤内の補助リレー。
通常のリレーは4接点しかなく、同作動の接点が多数ある場合に増設する。
リレーは電磁石により離れていた接点が接触して通電するスイッチのようなものだ。 補助リレー


レオナード回路盤である。
ACモーターでDC発電機を運転し、磁力で制御した電力でDCモータを駆動する。
モーターの回転数制御の要の部分である。 レオナード


壁には多様な銘板が掲示してある。
『起重機』昭和39年8月13日、『人を運搬する巻上装置』昭和38年10月18日、認可番号。
そして『メインロープ仕様』『テールロープ仕様』。 銘板


工具棚だ。
『羽幌炭鉱立坑捲上機分解工具』。
巨大な工具だったようで、スパナらしき陳列部も1m近いスパンがある。 銘板


操作室の対面にはエレベーター制御室があり、
その右手の梯子が屋上へのルートとなる。
頂点まではあと9mである。(マウスon)




中5階と繋がる鋼製の梯子を登る。
見た目以上の高所感だ。
一気に屋上へ抜けたいところだが、まだまだ見どころがある。 梯子


エレベータの巻上制御室だ。
立坑巻上機と比較して、あまりの小型さに驚く。
昭和39年9月設置、ウオーリントン型。 エレベータ


乗用エレベーター室から見た5階全景。
操作盤、ケーペプーリ、操作部、クレーン、梯子などが見える。
更に登ってみよう。 全景




天井クレーンのフックブロックである。
10t仕様のクラブトロリ式クレーンだ。
詳しく見てみよう。 クレーン   クレーン


横行走行装置であるクラブトロリも巨大なものだ。
建屋の両側の壁に沿ったランウェイ(走行軌道)を縦行し、
それに垂直にこのクラブトロリが横行することで、広範囲の作業域をカバーできることとなる。 廃墟


大きなモーメントが掛かるようで、
クレーンガーターの厚みも相当なものだ。
一般に巻上、横行、走行(縦行)の3動作が可能だ。 クレーンガーター


付近は風雨の影響か劣化が激しく、
窓枠等も脱落し、大変危険な状態だ。
地上約35m。 39m




稼働するトロリに三相の電源を供給する架線のフックだ。
ここに張られた3本線からパンタグラフにより、電源を受領する。
ガーター末端のサドル部には衝撃防止材が設置してある。 三相   サドル


天井クレーン部から最後の難関、屋上への梯子を登る。
いよいよ地上39.34m。
ここからも細心の注意を払う。 梯子    梯子




いよいよ屋上に到達。
わずか17m四方の頂だ。
4年間で完成し、5年間使用されたその立坑頂上である。 屋上


電光時計の架台の廃祉。
タワーの頂上の繁栄の象徴も、
今は少しの木々が育つ廃墟と化している。 電光時計


選炭工場、精炭ポケット付近を望む。
深部の開発、切羽への到達時間短縮、運搬系統の単純化、
合理化と生産の増強を目的とした運搬立坑の現状の姿である。 遠望









選炭所
1階から3階へ



クレーン
羽幌本坑 運搬立坑へ戻る



トップページへ