記紀の神話の世界
日本神話を語るには『古事記』『日本書紀』の神代巻が重要だ。
これら二典は日本の代表的な古典で、いずれも平城京遷都後の奈良
時代初期に成立している。
『古事記』は天武天皇の勅を受けて編纂され、和銅五(712)年、
元明天皇の御代に完成した。もともと諸家に、天皇家の実績を年次順
に記した『帝紀』、また神話や伝承を記録した『旧辞』という書物が
存在しているが、すでにいつわりも多かったので、それらを調べ直し
て再編集したのである。
一方、『日本書紀』が完成したのは、『古事記』成立から八年後の
養老四(720)年。こちらは中国の史書を手本としている。これらの
二典は性格を異にするものの、その内容には共通する部分も多く、二
つ合わせて『記紀神話』と総称される。
なぜ同時代に似たような二つの歴史書を編纂したのか。それは、『古事記』が
各地の豪族との戦いに勝ち抜いて王権を確立したプロセスが神話という形になっ
ており、天皇家の正当性を示すものになっているため、出雲神話が大きな位置を
占めている。これに対し『日本書紀』は国家の正史であり、中国や朝鮮の書物、
政府や寺院の縁起など幅広く記録を収録し、国外向けの通史となっている。よっ
て地方である出雲の記事は『日本書紀』には登場しない。
また神の名前や表記も違いがある。『日本書紀』が漢文で記されたのに対して、
『古事記』は漢字の音読みと訓読みを交えて表記してある。日本語本来の音を漢字
表記した『古事記』に対し、『日本書紀』は名前の持つ意味を漢字で表記している
ためである。
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