徒然草「五月五日、賀茂の競べ馬を」(第四十一段) 問題

 五月五日、賀茂の競馬を見侍りし a、車の前に雑人 @立ちへだてて見えざりしかば、各(おのゝゝ)おりて、埒の際に寄りたれど、ことに人おほく立ちこみて、分け入りぬべきやうもなし。かかるをりに、向ひなる楝の木に、法師の登りて木の股についゐて物見るあり。とりつきながら、いたうねぶりて、落ちぬべき時に目をさます事たびたびなり。これを見る人、あざけりあさみて、「このしれものかな。かくあやふき枝の上にて、安き心ありてねぶるらんよ」と言ふ b、わが心にふと思ひしままに、「われらが生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて、物見て日を暮す、愚かなる事は、 Aなほまさりたるものを」と言ひたれば、前なる人ども、「まこと cさ dこそ候ひけれ。最も愚かに候ふ」と言ひて、みなうしろを見かへりて、「 Bここへ入らせ給へ」とて、所をさりて、よび入れ侍り eき。
 Cかほどのことわり、誰かは思ひよらざらんなれども、折からの思ひかけぬ心ちして、胸にあたりけるにや。人木石 fあらねば、時 gとりて、物に感ずる事なき hあらず。【第四十一段】

問1 問題本文で結びの省略が見られるが、それはどこか。直前の文節と省略されている結びを順に記しなさい。

問2 a〜hの「に」の文法的な説明になるものを後から選び、記号で答えなさい。
  イ 格助詞  ロ 接続助詞  ハ 完了の助動詞「ぬ」の連用形  ニ 断定の助動詞「なり」の連用形  ホ 形容動詞の語尾  ヘ ナ変動詞の語尾  ト 副詞の一部

問3 @立ちへだてて見えざりしかばを現代語訳しなさい。

問4 Aなほまさりたるものをとは、何が何よりまさっているというのか。分かりやすく説明しなさい。

問5 Bここへ入らせ給へと人々が言ったわけはどういう心からなのか。分かりやすく説明しなさい。

問6 Cかほどのことわりとは何を言うものか。分かりやすく説明しなさい。

問7 問題本文の筆者名を漢字2字で、また、成立した時代を次から選び記号で記しなさい。
    イ 奈良  ロ 平安  ハ 鎌倉  ニ 室町  ホ 江戸  へ 明治

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