船が長崎の港内に入ったとき、竜馬は胸のおどるような思いをおさえかね、「長崎は、わしの希望じゃ」と陸奥陽之助にいった。「やがては日本回天の足場になる」ともいった』と小説『竜馬がゆく』の一節が活字体で刻まれ自筆の署名が添えられていた。 文学碑と龍馬像は光る長崎の港と、その向こうに広がる世界を睨んでいた。
 折角だからと、龍馬が率いた亀山社中跡まで案内してもらった。断崖にしがみ付くように「龍馬ぶーつ」と海援隊の舵輪が眼下の長崎街道とその向こうに聳える山の中腹の諏訪神社を監視していた。小学生の一群が群がり、撮影の順番をしばらく待った。そこから蟹の横這いで進むと「亀山社中跡」の石柱を脇に従え、記念館を兼ねた屋敷跡が石段の奥に保存されていた。長編を二度も通読し、ドラマでもお馴染になった場所で何時かはとの思いが強かっただけに記憶に深く刻まれたひと時であった。
        

          (風頭公園・司馬文学碑:亀山社中跡玄関:「龍馬ぶーつ」記念碑)
 昼食は歌手・さだまさし・佐田玲子の経営するカフェでカレーライスを注文。
 食後は歴史に度々登場する料亭「花月」
(去来句碑・頼山陽記念碑)とその裏手の天満宮(なかにし礼文学碑)のある丸山町を歩き回り、車を捕まえて長崎公園と隣接する諏訪神社を訪ねた。この地には、長崎に縁の深い作家・歌人・俳人のいしぶみが何と12基も点在しその探訪に汗を流した。
       

      (長崎公園・佐多稲子文学碑:諏訪神社・福田清人文学碑:同左・山本健吉文学碑)
  
 長崎市外海町の断崖の上で遠藤周作文学館と小説『沈黙』の文学碑が東シナ海を眺めている。次の長崎紀行はその地を訪ねて、素朴な教会と青い海の匂いを嗅いで見たいと思いながら長崎空港を飛び立った。

  「夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に…詩・のちのおもひに」で始まった立原道造との旅は、その後段に詠われた「夢はそのさきには もうゆかない…」の通り、幕を降ろすことになった。
 やっと、卒業論文の一部を書き上げたとの思いが強く心を揺さぶった。
         
                   (長崎土産:五月の風のゼリー・長崎風と軽井沢風)
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