全国に散らばる元碑については26基も訪問済みでした。何れも思い出の多い文学碑でしたから、旅のあと、元碑とレプリカと対比する作業は楽しいものでした。
 以下に二基だけご紹介いたします。

    
北原白秋:城ケ島海岸「雨はふるふる 城ケ島の磯に…釈迢空:奈良市万葉公園「この冬も老いかがまりて…


旅の終わりに
 八女の白壁の美しい街並みに迷い込んだ時、唐突に「廃市」という言葉が脳裏に浮かんできました。
 北原白秋は故郷・柳川を「柳川は水郷である。さうして静かな廃市の一つである」と紹介しています。また、愛読した福永武彦の小説『廃市』、そのエピグラフには北原白秋詩集『おもひで』の序文「さながら水に浮いた灰色の棺である」が飾られています。
 小雨に煙る日だったこともあり、街の人々は“箱雛”の背後に隠れ、街は車も人も気配を消していました。
 八女は「廃市」という言葉が似合う町でした。
 観光都市「水郷・柳川」の賑わいには到底及ばない、眠っている街でもありました。
 八女は何時眠りから覚めるのでしょうか。

 
 降りやまぬ小雨の中を八女ICから福岡空港への高速バスに揺られた。
 車窓には愛した詩人の姿が次々と映し出された。
 八木重吉、中原中也、立原道造…何れもが将来の活躍を期待されながら、短い生涯を無念のうちに閉じざるを得なかった人々でした。
 彼らは、凡人には感知できない、迫りくるものの気配を敏感に察知したが故に、読者の気持ちを揺さぶる作品を残せたに相違ない。
秀野もそんな一人ではないかと思います。
 そんな思いを抱きながら石橋秀野を訪ねた旅のご報告を、途中で拾った早春の花々を添えて、閉じることにいたします。今は、やっと宿題を仕上げた心境です。

 くれぐれもご自愛専一にお過ごしくださいますよう。

          



 
                         −p.07 完−