いしぶみ紀行・八女


K・S様
 ご無沙汰しております。厳しかった今年の冬も終わりに近づき、貴地では河津桜で賑わっているのではないかと拝察いたしております。
 釈迢空の「この冬も老いかゞまりてならの京たきゞの能を思ひつゝゐむ」に倣って、縮こまっていましたが、やっと、いしぶみ紀行を再開するに至りました。

 今年の旅の始まりは、長い間机の中に眠っていた、福岡県紀行を選びました。
 旅の主目的は三つでした。
貴方様に教えていただいた俳人・石橋秀野の句碑を八女市に訪ねること、福岡市城南区にある通称「片江文学碑公園」を調べること、そして、北九州小倉図書館脇で「夕焼小焼」のメロディを奏でている中村雨紅童謡碑を探すことでした。
 訪れた順序ではありませんが最大の目的地「八女」からご報告を始めます。

 
 
八女では時間が止まっていた
  「八女」と聞いても「八女茶」しか思い浮かばない土地でした。すぐ近くの柳川市には北原白秋、檀一雄などの文学碑を訪ねて度も訪れましたが、八女には届きませんでした。
 
「八女市は福岡市から南へ約50km、北は久留米市、西は筑後市を挟んで柳川市、南は熊本県、東は大分県に接している。面積は480平方kmと福岡県最大を誇るが、人口は6.5万人と、密度は最低である。肥沃な耕土と豊かな自然環境に恵まれ、全国ブランドの“八女茶”“電照菊”を中心にした農芸都市であると共に、近世以降には和紙、ハゼ蝋、提灯、仏壇、など様々な特産品を育て栄えた。その富の蓄積で重厚な商家が連続する町並みを形成していった(市パンフ)」と紹介されていました。
 交通の便はすこぶる悪く、鉄道の駅はなく、久留米からバスで40分も走らねばならない。それ故か、八女は時代から取り残され、時間が止まっている様相でした。車の往来も少なく足の弱った老人には優しい街でした。

 
白壁の街並みでいしぶみと箱雛を拾う

 福岡を離れる時から降り始めた雨は弱い雨脚ながら止む気配はなかった。
 西鉄久留米からのバスを八女市「西唐人町」で捨てた。眠っている街並みを歩き、バス停に近い平田稲荷の境内で二百年の風雨に耐え、苔むした松尾芭蕉句碑春もややけしきととのふ月と梅に「よくぞ頑張ったね」と挨拶して街の中心に進みました。
 紺屋町交差点では白壁の町屋が見事に軒を並べ景観は一変した。「雛の里・八女ぼんぼりまつり」のポスターが手招きするので酒蔵を改造した横町町屋交流館を訪ねました。
        
         白壁の町並み:「塩屋」「紺屋町交差点風景」「石橋養元旧居」

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