いしぶみ紀行・新美南吉(愛知県安城市)


たける君へ
  今年の夏休みは、成田からの初めて、弟と二人だけの冒険旅行をしましたね。
  その折には、日本科学館に行ったり、建設中のスカイツリー見に行ったりして、おーちゃんにとっても楽しい夏休みでした。
  ところで“新美南吉”という名前の人を知っていますか。小学校の教科書に掲載されることの多い童話や詩を書いた人です。おーちゃんはこの人の作品が好きで沢山読みました。
  新美南吉さんの足跡をさがして、あちらこちらと歩きました。その旅の前半部分は真菜ちゃんあての手紙に書きましたので、今日はその旅の後半のお話をしましょう。


南吉先生大活躍
  東京の大学を卒業した南吉先生は、25歳の時、恩師の招きで、安城市にある安城高等女学校(現在の安城高校)の先生になりました。安城市は名古屋の近く、新幹線の三河安城駅のある所です。鉄道好きのたける君なら、名前ぐらいは、知っているかな。
  南吉先生は25歳から亡くなるまでの5年間(昭和13年〜昭和18年)をこの学校に勤めながら、数々の童話や詩を書いて発表しました。
  長身で、眉毛が太く、きりりとした顔立ちのかっこいい青年であった南吉先生は英語や国語を教えました。生徒に日記を書かせ、それを丹念に読んで感想を書くなど、生徒たちに信頼される立派な先生だったと伝わっています。生徒の書いた詩に、自分の詩も添えて、詩集「雪とひばり」を作りました。その詩集の先頭に乗せたのがこんな詩です。
  詩「ででむし」 
  生れいでて 舞ふ蝸牛の触角のごと
(蝸牛=かぎゅう=かたつむり)
  しづくの音に 驚かむ
  風の光に ほめくべし
(ほめく=ほてる)
  花も匂はゞ 醉ひしれむ
  今では使う人も少なくなった言葉もあって、少し、難しいかも知れませんが、南吉先生のせんさいで優しい気持ちが匂ってくる詩です。
  この詩を刻んだ石碑が昭和23年(1948年)に教え子らによって建てられました。その碑を見に行った時には、音楽室から、混声合唱の歌声が流れて来て、おーちゃんは生徒にもどったような気分でした。

  安城高校から、駅で借りてきた自転車を漕いで、安城公園に行きました。
  安城市の中心にあるこの公園には、池や小動物園などがあって、さくらの木も多く、春にはお花見でにぎわう所です。この公園の一角に南吉の『牛』という詩を刻んだ碑があります。碑には詩の初めの4行「牛は重いものを曳くので/首を垂れて歩く/牛は重いものを曳くので/地びたを睨(にら)んで歩く」が黒い御影石に彫られています。(地びた=じべた=地面)
  詩の全体はこんな風です。難しい言葉も出て来ますが、辞書をひらいて、意味を調べながら読んで下さい。(「/」は原文がそこで改行して書かれていることを示す記号です)
  牛は重いものを曳くので/首を垂れて歩く
 牛は重いものを曳くので/地びたを睨んで歩く
 牛は重いものを曳くので/短い足で歩く
 牛は重いものを曳くので/のろりのろり歩く
 牛は重いものを曳くので/静かな瞳で歩く
 牛は重いものを曳くので/輪の音にきゝ入りながら歩く
 牛は重いものを曳くので/首を少しづつ左右にふる
 牛は重いものを曳くので/ゆっくり沢山喰べる
 牛は重いものを曳くので/黙って反芻している
 牛は重いものを曳くので/休みにはうつとりしている

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