満席に近いバスはエゾシカが群れる岩尾別川へ下り、また登って知床五湖に飛び込む。カムイワッカの滝を目指す大半の客を横目にバスを降りました。
  流石に人気の観光地。生憎の天候なのに駐車場は満杯に近い。左手に木道入口。右手に自然歩道入口。係員に行程時間を聞いて、先ずは楽そうな木道を選びました。
  真新しい木道が湿地帯の上に延びている。ヒグマ除けの電流を流す電線に守られた遊歩道を5分も進むと右手に一湖が姿を現した。
  晴れていれば羅臼岳の雄姿が眼前に横たわると聞いて来たが、残念ながら、雲の中。それでも緑の絨毯を敷きつめた大平原は見応えがありました。
  木道の下で草を食むエゾシカに出逢う。手が届きそうな近くであったが一向に警戒する様子もなく、のんびりと食事中。遠くの丘の上でオホーツクを眺める夫婦のエゾシカのシルエットが絵になっていました。
  木道は“一湖”の近くの展望台で終り、往復、ゆっくりと歩いて30分の散歩でした。
          
                     (遊歩道からの・第一湖:木道からの第一湖:エゾシカ)
  林間の遊歩道にも行ってみました。「ヒグマが出る時には通行禁止」になる有名な遊歩道だそうですが、幸いヒグマはお昼寝中。熊笹に覆われた狭い道を進むと “一湖”が姿を現した。
  鎮まり返った湖面は木道からの眺めとは趣が異なって素敵でした。“シャッター音が静寂を破る”と形容したい所でしたが、観光客の「美しい」「見事だね」の声が樹間に木霊するのが邪魔でした。
   “一湖”から“二湖”へ。展望台というより「展望地」の名前の方が似合う湖畔の一角に辿り着く。狭い展望地は記念撮影の順番待ち。駐車場へ戻ると、大型のエゾシカか悠々と散歩していました。
  約40分の散歩を終えた人々の顔は、一様に、「神秘の湖とエゾシカ」に満足気に見えました。都会が近い所ではこうは行かなかったでしょう。遥々と長旅をして、辿り着いたという行程がそうさせるのだと思います。
  
  夕暮れ前のウトロ発、女満別空港行きのバスはたった3人の乗客。斜里までの長い海岸道路を今一度眼に焼き付け、地の果て知床にお別れの挨拶。
  暮れゆくオホーツクの水平線が僅かに夕焼けていて、長い旅の終りの車窓に、「今日も暮るる吹雪の底の大日輪」と詠んだ亜浪の句を幻視する気分でした。


  準備に長時間を費やした紀行は、“私の北海道アルバム”に分厚いページを加えました。お世話になって「北海道アルバム」を積み重ねて来ただけに、新しいアルバムのご報告を申し上げたくペンを取りました。
  何時もながら、だらだらと長くて申し訳ありませんでした。
  短い秋が終わると、また、北海道は厳しい冬ですね。
  どうかお元気で、その短い秋を十二分にお楽しみください。
        
    (網走夕焼け:生田原文学碑公園・船山「見知らぬ橋」碑:同左・戸川「オホーツク老人」碑)
                     
    −p05・完−