実は、3年前にも、秩父の不動寺で氏の句碑(「風の電車は 花野発 花野行き」)にお眼にかかっていたのですが、袋田ではその事はすっかり忘れていました。
この序文は、いしぶみ紀行・常磐の袋田の滝を鮮明に蘇らせたので、秩父の句碑も添えて、辿って見ましょう。
いしぶみ紀行・常磐−袋田の滝−
滝に続くトンネルの暗闇はその終りで、いきなり、仰天の世界へ誘った。滝壺上の観瀑台で滝の水飛沫の洗礼をうける。フラッシュを浴びたように真っ白な光景が視界一杯に広がる。三段の流れが、轟々と音をたて、見る者を飲み込む。良く見ると、滝の両側には紅葉が張りついているが飛沫で曇って色が悪い。さればと、写真で見た「冬の凍結した滝」と「紅葉」、有り得ない二枚を重ね合わせて名瀑を眺めた。
記念写真の順番を待って5分、大混雑の観瀑台からトンネルを引き返した。ゆっくりするどころではなかったが、観瀑台の壁面に嵌め込まれた西行法師・大町桂月・徳川光圀・徳川斉昭の歌を彫った黒御影石だけは忘れずに写真に収めた。見物客は前面広がる三段の滝に気をとられて誰も気がつかずに居たようだった。
トンネル入口脇に今瀬剛一句碑が堂々と座っていた。事前の調査になかった句碑だった。喜び勇んで自然石に黒御影石を嵌め込んだ碑に取り付いた。碑面には「しつかりと見ておけと瀧凍りけり」とあった。碑の背後に廻ると「対岸俳句会・創立15周年記念・平成13年2月建立」の刻。作者は対岸俳句会の主宰者かな・・・と考えながら、観瀑台で冬の袋田の滝を思い起こした後なので、「奇遇だ!」と暫く碑面を見つめていた。
(写真:袋田の滝・今瀬剛一句碑:同・西行法師ほかの歌碑:秩父市・不動寺・今瀬剛一句碑)
袋田の滝観瀑台の歌碑には「花もみち経緯(よこたて)にして山姫の 錦織なす袋田の瀧(西行)」「御空より巌を傳ひて飛落ちて
すへりて散りて四度の大瀧(大町桂月)」「いつの世につゝみこめけり袋田の 布引出すしら糸の瀧(徳川光圀)」「もみち葉を風にまかせて山姫の
しみつをくゝるふくろ田の瀧(徳川斉昭)」があった。
句集「待春」には独自の世界があった
貴兄の観察眼の鋭さ、繊細さ、表現の豊さは、自然と対峙した時の句
「灯点ると一度に震え宵ざくら」「それぞれに青空のあり芋の露」
「風止みて睡蓮の白極まりぬ」 「冬薔薇壊れぬやうに陽に対す」
などに見事に発揮されて、独自の世界を作っていた。小生にとっては句集のハイライトでした。
私を魅了したと冒頭に書いた巻頭の一句「春愁やひとりの影の立ち尽す」と共に、「寂寥感と期待感の交錯」と今瀬剛一氏の評を得た「待春や振って濁らすにごり酒」も解説を読んで、なるほど、と感じ入りました。春の到来を待ち望む貴兄の気持ちが伝わる一句でした。更に、この句から題名を選ばれた結果、「とうとうやり遂げた、待ちに待った春(句集出版)がやってきた」と貴兄の喜びさえも、濁り酒の酔いの向うに、隠されていたのかと深読みしてしまいましたよ。
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