「メノコ沢にある廃校となった清川小学校脇」
 それ以外の情報は何処に聞いても解らなかった。メノコ沢は地図にも出なかった。廃校を探して、迷い込むほか無いと、無謀な冒険を企てたのだ。
 原生林を貫く白い一本の道。道の両側は密生するエゾマツやダケカンバの林と、ひょっこりと顔を出す、荒れ果てた開拓地の跡。人跡の途絶えた、荒れた細道が顔を出す度に「ここかな、いや、もう少し先だ」と何度も迷う。
 手招きの気配を感じた。
  「そこを入りましょう」と運転手に告げ、細道に踏み込んだ。広場に出た。片隅に「清川小学校跡」の記念碑。「見つけたぞ」と車を降りて辺りを走り廻る。
 柳原歌碑は新道と旧道に挟まれた林の中に見捨てられていた。幸運な出会いであった。
 碑面にある「ゆくりなく土中にみちたる上代の メノコのすがたおもひかなしも」は資料と照らし合わせながら、何とか判読できた。が、碑陰は磨耗して判読不可能。そこにはきっと「この地と白蓮の縁」があるのではないかと期待して来たのだが・・・。
 メノコ沢は細い渓流だったし、メノコ(女の子)は原生林に隠れていた。道路脇にお地蔵様がぽつんと立って居た。赤い涎掛けが、唯一、原生林に住むメノコの気配を示していた。


 七合目の展望台。観光客はここが行き止まりで、狭い空地にしがみ付くだけ。重装備の登山者が入山記録簿に署名をして神々の世界に登って行った。
  「ちょっとだけ覗かせて下さい」と管理棟に断って、恐る恐る、50mほど紅葉の海に入った。海中に溢れる黄と赤に染められ、シャッターを何度も押した。
  帰りのリフトから、もう見ることはあるまいと、神々しく輝く世界を首が痛くなるまで振り返った。将に、原始の世界、神々の世界であった。
  五合目は風の通り道。相変わらず風が唸る。その度に原始以来受け継がれた遺伝子が騒ぐ。「神威岬の風を思い出すね」と言葉を交わしながら、高松展望台まで少しだけ登った。
  「埋もれにこよという。死ににこよという
  そんな覚悟がなければ見ることの出来ない世界を、今一度、ちょっとだけ覗かせてもらって、原始の世界に"サヨナラ"と呟いた。
  二つの詩、原始の世界、北の人に触れたいしぶみ紀行・安足間は、厳しさと、優しさを合わせ持つ母の懐に潜り込んだ旅であった。(2007.09.20〜21紀行)
         
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