いしぶみ紀行・高知-2006.09-

 「旅人とわが名呼ばれん初しぐれ」(芭蕉)
  9月中旬、台風13号が沖縄に接近、高知は「大雨に厳重注意」とテレビが告げていた。NHKドラマ「功名が辻」の故か飛行機、ホテルは満員。何とか潜り込んだのでそんな予報にも関らず旅に出た。
  右手に室戸岬、左手に足摺岬を従えて、太平洋の荒波が250kmに及ぶ弧を描いて土佐湾に押し寄せる雄大な南国の風景は分厚い雲の下、高知空港直前でその雲を抜けた。幸い滑走路は雨に濡れずに待っていた。NHKの「功名の人」より私の「功名の人」を探す紀行は「ラッキー」の歓声で始まった。


  童謡のふるさと・土佐のふるさとを訪ねて−安芸市・南国市−
  安芸市は人口二万人の小京都。余り知られていない小都市だが、ビジネスマンなら三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎生誕地、野球ファンなら阪神タイガースのキャンプ地としてお馴染。私を招待したのは作曲家・弘田龍太郎(当地が故郷)であった。  空港から25km、室戸への道を走り、安芸市の大山岬に童謡碑「浜千鳥」を訪ねた。岬の先端に小さな「浜千鳥公園」。「見つけた!」の言葉と同時に雨が落ちてきた。大海原を旅してきた雨粒は大きい。急いで写真を撮り、車に戻る。後で写真を見たら、碑面に「浜千鳥」彫刻が散りばめられていたが、雨脚はそれを消していた。
  市街地に駆け込み、江の川・土居橋に「雀の学校」「三日月」、安芸郵便局前の公園に「金魚の昼寝」、安芸駅に「靴が鳴る」と、細い道に迷い込みながらも、無事に発見。駅の北方、小京都と呼ばれていた時代の安芸へ。
  所々に残る古い町屋の家並が美しい。写真を撮りたかったが、車一台がやっとの細道で停車は禁物。家並を通り抜けると安芸の名物「野良時計」が突然姿を現す。刈り入れを待つ黄色の穂波。長閑な風景の中、花々に飾られた時計がゆったりと時を刻んでいた。当地の大地主の屋敷の櫓の上でもう120年は動いていると言う。家主が独力で造り上げた国の文化財だ。すぐ傍には「半鐘塔」が空を覗き、文明の利器と健気に対峙していた。
  東隣の溝ノ辺公園に「鯉のぼり」、土居公民館に「叱られて」を訪ねた。この辺りが昔の安芸の中心。鎌倉時代に豪族・安芸氏が築いた安芸城の城址を囲んで武家屋敷の古い家並、竹やうばめ樫の生垣が雨に映える。観光客が三々五々歩く中をこちらは車で、遠慮がちに通り過ぎた。 3kmほど北の岩崎弥太郎の生誕地には萱葺きの農家が旧家として保存されていた。家の前の樟の大木の園地では「春よこい」が広がる安芸平野の彼岸花を背景にしていた。
  四国統一を進める長宗我部元親に破れた安芸城主・安芸国虎の墓所のある浄貞寺で「お山のお猿」を調べた後、市の西の端、赤野部落の海岸園地へ。着いた途端に凄いシャワーが降ってきた。せめて「雨」の写真だけでもと車を飛び出した。高台だけに一段と素晴しい風景が広がっている様子だが、雨が視界を遮った。碑の童謡に合わせた舞台装置であった。
         
    安芸市野良時計・南国市国衙跡古今の庭・南国市国分寺本堂)−青字はクリック拡大
 
あちらこちらで「安芸の小さな秋」に出会いながら、10基の童謡碑を駆け巡った。南国の雨がゆっくりと佇むことを許さなかったのは心残りであったが、コスモスに彩られた小京都の「廓中ふるさと館」での昼食・しらすかき揚げ丼は美味で、箸袋に印刷された童謡「叱られて」の歌詞と共に旅の良い記念となった。
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