Northern White ~北の絵日記~

 
 3月12日(水) 晴れ 
 
サク、サク、サク…雪を踏みしめる二人の足音だけが響く。
はるか前方の山の上を見れば月齢12.1の月が煌々と輝いている。満月にはまだ早いがパッと見は丸い。その月明かりのおかげで足元を見失うことはない。歩き始めて10分。気温は-7℃だが重い三脚とカメラバッグを背負っているせいか、首筋にうっすらと汗がにじんでいるのがわかる。ポイントに着いたら、汗が冷える前に背中のタオルを抜き取らないと…。
歩みを止める。しばし息を整えてから三脚を立てる。
月は先ほどより高度を下げている。今日の月没は4:50。山がある分、経度指定時刻より10分ほど早く沈むと見ていい。
目線を下げれば山の稜線。さらに下げれば氷原…のはずだが、明るい月に幻惑されて肉眼ではなかなかその下の様子が見てとれない。

それでも、自分の手をバイザーにして月の光を遮って凝視しているとようやく凍った大地に佇む二つの影がおぼろげながら見えた。
カメラを操作してピントを合わせる。だが、この暗さでは当然のことながらAFは使えない。光学ファインダーを使っての手動のピント合わせも困難だ。残された手段は、デジタルビューファインダーを展開させてその画面を見ながら手動でピントリングを回していくしかない。この方法とて確実じゃない。画面内の明度を限界近くまで上げて何度もピントを合わせようとするけど、被写体の距離が遠いために本当にピントがあっているのかどうか、自分で確証が持てない状態だ。
これでいいか?…こんなものか?
腹を決めて画角を広げ、絵を作る。
ISO感度は6400。正直言ってまともな写真家ならとてもじゃないが使えない感度だ。しかしとにかくまず撮ってみないことには成否がわからない。
月はもう山の端に隠れ始めている。
レリーズボタンを押す。しばしの静寂…シャッターが下りた。10秒かかっている。絞り優先F7.1露出補正+2/3。シャッターが下りた後、しばらくビューファインダーには「BUSY」の文字が表示される。数秒後、それは消えた。

画像を確認してみる。なんとか、画面の右下に佇むタンチョウの姿はわかる。幸い彼らもまだ目覚めたばかりで動きが少ない。それでもこのシャッタースピードでは動態ブレは防ぎようがない。いや正直、ピントが合っているかどうかも疑わしい。

やがて月が稜線に沈んだ。
しかし木々の間から丸い月の輪郭が覗く。このほうが露出対比はいくらか緩和されるけど、暗くなる分シャッタースピードは遅い。13秒。

やがて月の輪郭が大地に吸い込まれて消える。日の出時刻まではまだ30分ほどある。背中の方に見える空はかなり明るくなってきたがまだ曙光も見えない。
待つこと15分ほど。白々と大地が姿を現す。番の姿があらわになる。シャッタースピードを上げようと絞りをF5.6まで落としたが、画面に白い部分が増えたので露出補正を+1にする。結局、焼け石に水だったようだ。シャッタースピード8秒。

あたりが急速に明るくなってくると、山の上から霧が下りてきた。やがてそれは奥の稜線を白いヴェールで隠す。なかなか同時に首を上げない番。だめか、と思った次の一瞬、二羽が背中合わせながら頭を上げた。よし、そのまま動かないでいてくれよ…。

日の出時刻を過ぎても光は下りてこない。東を見ると低い雲がたなびいている。今日は晴れの予報のはずだが…光が差し込んで風景に色を付けるのを期待していたのだが。
やがて番は川から岸辺に上がり、

交尾を始めた。

夜明けの氷原に交尾の声が響く。
1時間半ほどここにいたでしょうか、やがて雲間から太陽が昇るのを合図にしたように番は飛び立っていき、私たちも三脚を畳みました。場所を変えます。
もうすっかり陽が昇った沼の開氷面にはヒシクイの群れ。何百羽いるのだろうか。一斉に飛び立つところ見たかったけれど…。

丘に登ってみる。増水した川に番。

一羽が中洲に上がり、相方を誘う。丘の蔭から光が下りてきた。

前のツルが足を止める。

そろそろと翼を開き…、

後ろのツルが前のツルにマウンティング。

交尾が終わると、番はまたそぞろ歩きをはじめ、

また川を渡って向こう岸へ。

彼らのようすを丘の上からじっくり見ていました。
気が付けばもう8:30を回っている。
この日は、宿に朝食に戻らず和田さんのエスコートでちょっとドライブ。
朝の撮影でだいぶ「お腹いっぱい」になっていたので気楽に…。(^^;
もうだいぶ繁殖地に帰っている番がいるはずですが、海岸線のめぼしい場所ではなかなか遭えず。
でもなぜか花咲線の踏切で遭遇したりする。

ここはさすがに雪がほとんど消えていましたね。このタンチョウは線路のあたりを行ったり来たり。
オマエは「鉄」か!(^^;

その相方はすぐそばにいました。

その近くで遭遇した猫。これも太ってる…。(^^;

午後は曇ってきました。とある丘で。

夕陽。

今日で鶴居の給餌は終わっているはず。給餌終了の翌日の明日は、まだタンチョウはサンクに来るでしょうね。給餌が終わったことを彼らはまだ知らないから…。

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