Northern White ~北の絵日記~

 
 2月10日(月) 曇り 
 
日の出前。川の畔で。

今日も暖かい。いや異様な暖かさです。気温-7℃。当然気嵐も立たないし霧氷もつかない。
木々は黒々とした枝をあらわにしています。

遙かに見える阿寒の山並みもぼんやりと。空気がいくらかよどんでますね。
暖かいせいでタンチョウたちの行動も早いのか、

日の出前にねぐらを飛びたちました。

この日はちょっと遠出を。
鶴居村を後に一路東へ。野付半島に行こうかと。
でもこんな天気の日も面白い。
乳白色となった空の色は澄んだ青空とはまた違った意味で冬を表現してくれる。
雪の丘と境目が渾然一体となった様子は写欲を誘われます。

え?動物が何も写ってないって?
あの~、私は一応風景写真家でもあるんですけどね。(^^;
野付に向かい途中で猫発見♪

あちこちに牧場があるんで猫はちょくちょく見ます。道東では、いや内地でもそうかもしれないけど、牧場では複数の猫を飼いますからね。もちろんネズミ対策です。
いいものもらってるんでしょうね~、コロッコロに太った子ばかり。
あ、走り出した。

雪を蹴って走る猫ってなかなか撮れないですよ♪

野付半島。国後水道をバックに歩くキタキツネ。
今年は暖かいのでひょっとしたら戻ってるタンチョウもいるかもしれない、と思ったんですが、残念ながらタンチョウの姿は確認できず。
いや、ひと番戻ってるという情報はあったんだけど。

キツネが体勢を低くしてるのはこの風のせいでしょうね。とにかく海風が強かった。

国後島は見えず。海峡はかなり荒れてるようです。ロシアの巡視船も見えません。(^^;

少し先に行くと、波打ち際にエゾシカ。

牡鹿の群れですね。

角突き合わせてケンカ。

波はけっこう荒かったんですが、その中にたたずむ牡鹿というのはなかなかいい絵になりました。

もっとも、帰ってからレンズの掃除には気を遣いましたよ。思い切り潮風浴びちゃいましたからね。(^^;
反対側の野付湾は対照的に静か。凍ってますからね。

もっとも、今年の冬は凍結したのは半島の根元近くだけで龍神崎のほうは完全には結氷しなかったようです。
例年なら湾全体が凍るんですけどね…。

鶴居に引き返します。
おぼろに太陽が…結局今日は晴れなかった。

この太陽が見えている間にタンチョウが来れば、と思っていたんだけど…雲に隠れちゃった。
でもこんな絵もいいかな。

夕方、とある小川。
独身の亜成鳥かと思ったら、奥のほうに二羽。どうやら幼鳥一羽連れの番ですね。

明日も暖かい予報…さて、朝はどうするか…。

 

 2月11日(火) 晴れときどき曇り 
 
この日も朝の最低気温が-10℃を下回らないという予報。しかも風が強い。だもんで、早朝撮影はパスして朝寝坊しました。
しかしここまでなまら暖かい冬って経験ないなぁ…。
ゆっくり朝食を食べて9時前にサンクへ。
まだ大半の方々は出勤前?だったようで、来ていたタンチョウは数番。寒いわけでもないのい出勤が遅いね。

サンクチュアリの真ん中にあるこのカシワの木。真冬でも葉を落とさないこの木も私の好きなモチーフです。

この時間帯は雪面が影を帯びていい感じになりますね。ちょっと陽が高くなるとこの雪面の陰影は消えてしまします。
9時5分前…まるで時計を持っているかのように、タンチョウが次々と飛来。

出勤時刻ギリギリ。
というか、彼らはちゃんと給餌の時間知ってるんですね~。
タンチョウは上空から下りてくるとき、今日のように風が強い日は地表近くに下りるまではほとんど羽ばたかずにまるで落下傘降下のように翼を下向きにして下りてきます。グライダーと言ってもいいかな。

♪見よ落下傘~ 空に降り~ 見よ落下傘~ 空を行く~♪
空挺部隊ですね。(^^;

ランディング直前、前方に慣性のついた体を羽ばたいてブレーキを掛けます。これは鳥類すべてに共通する着地の仕方。
この時、タンチョウの翼の先端を見ているとまるで人間の指のように複雑な動きをしているのがわかります。下の写真で着地したタンチョウの翼の折れ曲がっているところが「小翼羽」といって人間の親指の付け根に当たり、そこから神経が初列風切の付け根あたりまで伸びていて飛行機でいうフラップの役割を果たします。
鳥の羽って繊細なつくりになっているんですよね。

この羽先の動きというのは注意して見ているとなかなか面白いです。
大きく翼を広げて踊っている番。

次の瞬間、まるで社交ダンスのようなポーズ。相方の腕をとって踊っているように見えません?
まあ、偶然そんな風に見えるだけですけど、面白い瞬間が撮れました。(^^;

さて給餌のあとはあちこちでダンスがあったりするんですがこのダンスもいつも番が息ぴったりで踊るのかと思えば、そうでないこともあるようで。
この二羽はその前後の行動パターンから見ても間違いなく番なんですが…。

なぜか片方は浮かれて踊る気満々なのに、相方は乗り気じゃないようで。(^^;

一生懸命に誘ってる相方の前をスタスタ通り過ぎて…。

あらら。ゆうべ塒で何かあったんですかね?この夫婦。(^^;
昼過ぎごろ、突然多くのタンチョウが騒ぎだして北側の林のほうにゾロゾロと集結。
威嚇の声をしきりに出していました。

これはモビングといって「疑似攻撃」とも訳されますが、主に鳥類が外敵に対して集団でやかましく鳴きたてて追い払おうとする行為です。
いわば数の力で圧をかけている状態。
おそらく林の中にキツネでもいたんでしょうね。通常キツネは平地で一対一なら成鳥のタンチョウには敵わない(むしろ逆にやられちゃう)のですが、生まれ月の遅い幼鳥などにはまだ危険な捕食者になり得ます。見通しの効かない林の中で幼鳥が襲われる可能性がないわけじゃありません。だからキツネを発見するとこうやってゾロゾロと集まってモビングを行うことが多いです。
いつもは互いに縄張り意識剥き出しで張り合っているタンチョウもこの時ばかりは団結しますね。
動画でどうぞ。
この日も撮影者はさほど多くなく…時折外国人グループが来たりしても30分ほどで引き揚げていって。

結局日暮れ近くまでサンクにいました。

午後の給餌時間が早まったのでタンチョウたちの塒帰りも早くなりました。

それはいいんですが…。
タンチョウへの給餌量はここ5年で半減されています。これは環境省の方針でできるだけタンチョウたちに自然採食を促し、本来の姿に戻してやがては生息地を分散させるためだと言っていますが…果たしてそれでいいのかどうか。ちょっと時期尚早ではないか、いや周囲の状況が整っていないのにそんなことをして大丈夫なのか、と思うんですよね。
仮に環境省の思惑通り、生息地分散が実現したとしましょう。しかし、分散先で起きる問題に対してどの程度手を打っているのか??
具体的にいえば、おそらく分散先で起こるタンチョウたちによる「食害」の問題に対して充分な対策を立てているのか…といえば、まったくその点は考慮していない(少なくとも環境省は)と言っていいでしょう。そんな状態で生息地分散を図るのはあまりに危険では?
ここ鶴居村でさえ、毎年のようにタンチョウ(主に若鳥)による食害は起こっています。デントコーンの若芽を若鳥が食べてしまったりというのはもう日常茶飯事。そのたびに農家の人は大声で若鳥を追い払う…。それでもこの村の人はもう長年タンチョウたちと共生してきているので「仕方ねえなぁ~」と苦笑いで済ませてくれていますが、果たしてタンチョウたちが分散していった先の農家はそこまで寛大になってくれるでしょうか?無理でしょう。
そりゃ最初のうちは「おらが町にツルが来た!」と歓迎してれるかもしれません。でも実際に食害が度重なるようになるとそうはいかない。農家さんだって生活が懸かってる。歓迎されたはずのタンチョウがほどなくして「害鳥」として行った先の人々から憎まれる存在になってしまいかねない。
そうしたことを環境省は考えているんでしょうかね?
考えてないでしょうね~。実際「そういう問題はこっちの管轄外だから」と言わんばかりだし。
なんで日本の役所ってそういう「縦割り行政」が根強く残ってるんでしょうね~。自分の管轄に他の部門が口出すことを極端に嫌がるしね…。そんなことやってるからこの国は三等国に落ちちゃったんだよ!
そしてそれにかかわる学者センセイも「専門バカ」ばかり。自然科学者は社会科学的視点を持とうとしないし、他の分野の科学者からのアドバイスを嫌がる。役所と同じじゃないか…。その専門バカの言うことだけを鵜呑みにして政策建ててる環境省。これじゃ日本で野生動物と人間との共生なんて夢のまた夢ですよ。
いくら自然科学的には「生息地分散がベスト」だとは言っても、社会科学的にそれを受け入れる下地が整っているかという考察までは自然科学者はしない。「それは我々が考えることじゃないから」という一言で済ませてしまう。本当に専門バカ。
頭のいいバカって始末に悪いですよね。そういうバカの言うことだけを真に受けて動くお役所はもっと大バカ。
もっと組織横断的に異分野共同で研究する…ということをこの国の学者はほとんどしないんですよね。数少ない例外を除いて。お役所のセクショナリズムと同じようなことが学者の世界にも蔓延してる。これじゃダメだ。だから日本の学会も三流になっちゃったんだよ。
日本の学者センセイ、確かに個々としては立派だと思いますよ。それなりの業績も上げているんでしょう。でも結局、自分の専門分野に対してのきわめて狭い視野しか持とうとしない。視野狭窄な人ばかりなんですよ。たまにその専門の枠をはみ出して見解を発表すると同じ分野の連中から寄ってたかって異端扱いされて袋叩きにされる。悲しいかな、これが日本の学会の現状です。
私が今上に書いたことを読んで「それは違う!」と大上段から反論できる人、一人でもいます?いたらどうぞ、付属のブログの方にでも反論を書き込んでください。そんな度胸ないと思うけど…。
エゾシカが増えすぎたって話題になってますけど、昔はエゾシカに対して保護政策が取られていたことをご存じですか?それも何度も。絶滅寸前まで放置しておいて禁猟・保護。個体数が増えてくるとあわてて狩猟解禁・乱獲。それを繰り返してきたんですよ。学習能力がないというかなんというか…。もっとも愚かだったのは、エゾシカの個体数の増加は人間のせいだという視点が全く抜けていたんですよね。彼らの生息地を片っ端から開拓して森林を無計画に農地化していったあげく、彼らは森林で採餌するよりも畑で採餌したほうが楽だということを覚えてしまった。それはエゾシカのせいじゃない。人間が悪いんです。それを今になって「エゾシカが増えすぎて困った」だって?そうしたのは誰よ!
自然科学者だけに頼って社会科学的な視点がないというのはこういう点にも現れているんで…。
とにかく、環境省の言ってることを頭から真に受けるとロクなことにならないという例は枚挙にいとまがありません。
もっと民間の広いレベルで考えないと。お役人に任せていたらタンチョウだってどんな目に逢わされるかわかりません。それがすごく心配です。
夕刻、サンクチュアリに残るタンチョウは徐々に少なくなっていく。

「私たちも帰りましょうか」「そうだね」

明日の朝は久々に気温が下がるという予報。
最終日、どこに行こうか…?

 2月12日(水) 晴れ 
月が出ていた。月齢14.5。

日の出直前。露出調整なしで月が撮れる珍しい朝でした。
これでタンチョウがいてくれれば言うことなかったんだけど。(^^;
気温-18℃。久々にまともに冷え込んだ朝でした。霧氷もしっかりついて。
川には気嵐が。

まともな気嵐を見るのはこの冬初めてですね。本当にこんな冬も珍しい。
日が昇った…。

気嵐がほの赤く染まる。この色はほんの一瞬。10分持たない。

気嵐が収まると霧氷の林が存在を主張する。でもやっぱり霧氷はいくらか薄いかな。

シラルトロ湖に行ってみる。
湖面にいくつかわずかに覗く開氷面。湯気が立っている。湧水がある証拠です。目を凝らすとタンチョウの番。

例年ならまだまだ氷結した部分がほとんどのはずですが…今年は開氷している面積が広い。画面の中に豆粒のようにタンチョウがいます。探してみてください。(^^;

この分だと春も早いのかな??

宿に戻り、朝食をとってチェックアウト。
夕刻までのんびり撮影をしていました。

それにしても、2月でこれだけ暖かく、かつ積雪の多い鶴居村は私にとっては初めてでした。いや現地の人にとってもそうだったかも…。
今年は特別だったんだろう…そう思いたいですが。
来月来るときにはどうなっているんだろう?今年は春が早いのだろうか???
もしそうなら…給餌期間は3月12日まで。その前に彼らが湿原帰りを始めるのかもしれないですね。
それが彼らの生活にどんな影響を及ぼすのか、ちょっと心配ではあります。

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