Northern White ~北の絵日記~

 
 7月4日(月) 曇りのち晴れ 
 
朝4時。TAITO玄関の寒暖計。

15℃ですね。
まあこの時期としては普通かな。
今日は野付半島に向かいます。
「今日は行きは寄り道しないからね。野付へ直行するから」と和田さん。
その理由は野付は朝が勝負だから…。あそこは観光地でもあるため日が高くなると人が多くなる。そうなると野生動物は警戒して観察可能な場所から距離を取ってしまうことが多く撮影しづらくなる。そう、朝8:00までが勝負ですね。そのためには遅くとも6:00前には現着していないと。
タンチョウは昨日堪能するほど撮影できたので、今日はキタキツネやエゾシカがメイン。エゾシカは人が多くてもそうそう逃げたりはしないけど、子連れの母ギツネは非常に警戒心が強いのでそうはいかない。そう、今回は母子ギツネを撮りたいんですよね。前に撮ったのはもう7年も前。あれは風蓮湖だったな…。
今年は野付半島で道路に近い位置で母子ギツネを見たという情報があって、その情報を頼りに…。
昨日は天気が良すぎましたね。(^^;
こんなこと言ったら「ゼータクだ」と怒られるかもしれないけど、初夏の道東の風景って晴れた日もいいけど、やはり私のイメージの中では薄霧が立ち込める朝という絵が欲しい。
鶴居を出て標茶から虹別、中標津を経由してまっすぐ野付へ。
途中標茶のコンビニに寄っただけであとはノンストップ。虹別のフクロウも開陽台も今日はパス。
標津市街をかすめて野付半島に入る道道950号に入ったのは5:50。ほぼ予定通り。
右手にナラワラを望みながら走っていくと、野付湾はいい感じで朝霧が出ていました。

エゾシカがいますね。
これはオスの群れ。
エゾシカは秋の繁殖期以外はオスはオスだけ、メスはメスと子鹿だけで集まっていることが多いです。
といっても正確に言うと「群れ」を意識的に形成しているのはメスだけで、オスは基本的に単独行動。ただ、なんとなくフラフラとグループを作っているだけです。飲み屋で意気投合したオッサンたちが肩組んでハシゴ酒してるのと同じと思ってください(なんちゅう表現…)。母鹿から独立した1~2歳の若いオスも「なんとなく」このグループに加わります。

上の写真を見ると画面中央やや右のシカだけがオスで他は全部メスじゃないかと思われる方がおられるかもしれませんが、全部オスです。
え?角がない?いいえ、ありますよ。よく見てください。
エゾシカのオスの角は毎年春に根元から外れ落ち(「落角」といいます)、その後やわらかな毛が密生する「袋角」が生えて来て次第に伸び、9月ごろに硬い石灰質の角になります。上の写真の中央右にいるシカの角もかなり延びて来てはいますが、まだやわらかい「袋角」の状態。私たちがイメージするシカの角になるにはまだ1~2か月かかります。

一方、まだ母鹿から離れて間もない若いオスはよく見ると耳のすぐ内側に小さな突起があるのがわかると思います。これが角(まだ「袋角」が生えかけた状態)で、1~2歳の頃はあまり長く伸びることもなくまだ枝分かれしません。だから遠目に見るとメスに見えてしまうんですよね。上の写真の中央の二頭を比べて見てもらうとわかると思います。

若い連中はまだ自信もって行動できない?のか大人のあとをゾロゾロついて歩くやつも。(^^;

この時期は大人のシカもまだ角が硬くなっていないので、遠目に撮った方が絵になりますね。

ふと視線を左に移すと、潮の引いた湾の中をゆっくり歩いていくタンチョウの番が目に入りました。ヒナは連れていません。

そのタンチョウに近づくように歩いていくオス鹿のグループ。

でもお互い一瞥しただけであまり意に介していないような。タンチョウとエゾシカは基本的に食性が違うので縄張り争いでケンカすることはめったにありません。もし本気でケンカしたらどうなるか?
圧倒的にタンチョウのほうが強いです。あの鋭い嘴、というかツルハシで突かれたらエゾシカといえども落命します。

だから勝てないケンカはしない…「触らぬ神に祟りなし」とばかり、さりげなくタンチョウを避けて歩くエゾシカ連中。(^^;

ゆっくり歩いて…。

左手の干潟へ向かって行きました。

タンチョウもゆっくりマッタリ干潟の奥へ。

少し撮影場所を移動。
見れば朝霧立ち込める浅瀬にはアオサギの群れ。

アオサギというのは遠目で見ると非常に紛らわしくて、タンチョウと見間違ってしまうことがあります。体の大きさが全然違うんですけどね。(^^;
それと、タンチョウは成鳥は常に番で行動しますのでこのように群れることはありません。アオサギはコロニーを作る性質があります。
さて、お目当ての母子ギツネはどこに…?
独り身らしい若いキツネは何匹も見たんだけど親子連れのキツネは見つからない…確かこのあたりだと聞いたんだけど。
ポンノウシからネイチャーセンターまで往復すること二度。いないなぁ。
「許可証もらって竜神崎まで行ってみるかい?」
「いや、もう一度往復して見ましょう」
時間はそろそろ8時になる。観光客のクルマが入って来る前に見つけたいんだけどなぁ~。
もう一度、とポンノウシ側に引き返してしばらく。左手に…。
「いた!いた!いた!和田さん、停めて~~」

痩せたキツネが一頭。
そのすぐそばには…。

子ギツネが。見つけた~~~。

「だいぶ距離あるから車下りても大丈夫だね」
ということで、車からそろそろと音を立てないように反対側から下りて車の前後にしゃがんで撮影。
この時間に見つかってよかった。もしもうちょっと遅い時間だとこうやって撮影してたら「え?何なに?」と観光客がゾロゾロ集まってきちゃいますからね。そうなると警戒心の強い母ギツネは子供連れて逃げちゃうから。
母ギツネ、かなり痩せているのがわかると思います。これ、別に病気に罹っていたりするわけじゃなくて、子育て中の母ギツネというのは皆こうです…。もう授乳期は終わりかけていますが、子ギツネのために餌を求めて歩き回り、自分の分を削ってまで子供たちに与えます。子供にロクに食事も与えずに自分だけ美味しいものを食べていて児童虐待で逮捕された人間の母親とは違うんです!
昔「キタキツネ物語」という映画を見た人はわかると思う。あの中に出て来た母ギツネ:レイラ、かわいそうでしたよね…。
それにしても子ギツネが一匹だけというのはヘンだなぁ。
キタキツネは一腹で5~6匹の子を産んで、たいてい夏を迎える前に1~2匹が死んでしまって子供の数は3~4匹に減っていることが多いんだけど、残りの子はいったい…?
確か目撃して情報くれた人の話では子ギツネ4匹見たって言ってたんだけど。
そう思いながらふと、道路の反対側を見たらバサッと音がして…。

え??
草むらから出て来た子ギツネ一匹。
別に恐れる様子もなく、私たちのクルマから10m程度のところをヒョコヒョコ歩いたかと思うと続けてもう二匹が顔を出して。

三匹の子ギツネ。この後、また草むらに隠れたかと思うと…。

道からちょっと引っ込んだ海側で遊んでいました。
片やもう一匹の子ギツネを連れた母親は海側を見やって心配そうな表情。

そんな母親の心配をよそに思い思いに遊んでる子供たち。

キミはお花が好きなのかな?

キミは女の子かい?

超望遠を手持ちで撮影するのはつらいけど、こんな表情めったに撮れないですからね。左手首痛い…。(^^;

お澄まししてお座り?

やがて母親が呼んでいるのがわかったのか、子供たちは道路を渡って母親のもとへ飛んで戻っていきました。

いや~、いいシーンが撮れました♪
これで今日の目的は達成ですね~。よかった、9時前に撮れて。
目的は果たした…とはいえまだ時間はたっぷりある。ネイチャーセンターに寄ってトイレ休憩がてら通行許可証をもらって竜神崎まで行ってみることにしました。(野付半島のトドワラから先は通行許可証がないと車両は入っていけません)
目に付いたのはエゾシカばかりでしたが。(^^;

エゾシカ、北海道じゅうどこでもいるのでさして珍しくないように思ってしまいますが、いざ写真を撮るとなるとスッキリした背景で撮れる場所って意外にないんですよ。そういう意味では平坦で障害物の少ない野付半島や風蓮湖はいいですね。

今、エゾシカの食害が問題になっています。増えすぎた、と人は言っていますが…。まるで悪いのはエゾシカのような口ぶりです。私に言わせれば何を勝手なことを、と。
エゾシカは保護と乱獲の歴史が交互に繰り返されてきました。そして戦後になってからは無計画な牧草地の拡張やトドマツの植林などの人工的環境の増加が結果的にエゾシカの活動域を広げてしまったのです。特に道東では湿地帯を農地変換しようとして開発したことも一因と言われています(しかもその多くが結果的に耕作放棄地になっている)。

確かにエゾシカの食害は大きな問題です。しかし駆除一方ではなく彼らと人間の生活環境整備を含めて多角的に対策を練らないといけないのではないでしょうか。

エゾシカを増やしたのは誰?それは他ならない人間なんですから。

しかし、オスのシカがこうやって揃って鎌首もたげてるとちょっと威圧感あります。(^^;
戦国武将を連想させますね。

そういえば、真田幸村の兜って鹿の角がついてましたね。

「狙うは家康の首ひとつ!出陣じゃ~!」
…なんてね。(^^;
竜神崎まで行って戻ってきたらネイチャーセンターには観光客のクルマがかなり停まってた。大型バスも一台いる。やはり10:30過ぎるとこうなるよね…。
野付の撮影は早朝じゃないとダメだな…。
この後はここにいても野生動物たちはあまり近くに出てきてくれなそうだから、野付から撤退することに。
今「オーバーツーリズム」が問題になっているけど、こういう自然観察地は特に深刻な問題になることがあります。まあ野付半島辺りはまだまだ外国人にはマイナーだからさほど心配することもないんだろうけど。本州では尾瀬や上高地、北海道でも知床の一部などは心ない観光客と業者によって野生動植物が危機に瀕しているところがあります。
訪日観光客で儲けたいという気持ちはわからないじゃないけど、節度を持ってもらいたいもの。
今、写真がデジタル化されてからというもの写真に位置情報を記録できるようになっています。一部のスマホや一眼レフでは位置情報記録が初期設定になっているものさえある。これって怖いんですよ。ある程度人口に膾炙された場所なら問題ないけど、そうでない場所などは写真の位置情報(誰でも簡単に解析できます)を見て「ここに行けばこんな写真が撮れるんだ!」と多くの人が集まってしまったら、その場所は多くの人に踏み荒らされ野生動物は逃げ去り、片っ端から自然が破壊されることになりかねない。悪意を持った人がいるかどうかは問題じゃない。悪意を持っていなくても自然の中でのふるまい方、ルール・マナーというものを知らない人が多い。
10年ほど前、鶴居のある場所で早朝にタンチョウが集まる小さな川がありました。で、ある人がその写真をネットに載せたんですが、位置情報を載せたままだったらしい。それを見た韓国人カメラマンが位置情報を仲間に拡散して、翌年の冬に多数の韓国人カメラマンがそこに殺到、橋の上であの抑揚のある高い声で騒ぎながら撮影を繰り返したおかげでタンチョウたちは翌年からその場所に塒を取らなくなってしまいました。
だから私は一眼レフで撮る写真は全て位置情報をOFFにしています。カメラの設定を変えて。これは撮影仲間での不文律になっています。
中には「情報を独り占めしている!」と悪口を言ってくる人もいます(意味不明な日本語?のメールが来たこともある)が、不特定多数に開示できる情報とそうでない情報があるので…決して独り占めしたいという気持ちはありませんが、野生動物の生活を脅かすリスクを抑えるためには必要な行為だということを理解してほしいですね。全ての人がマナーを守って撮影してくれるなら、こんなことはしないんですが。
スマホで撮る写真は位置情報載せたままにしてますけど、人口に膾炙して有名になってる場所や宿・町中でしか使いません。そういう場所は人に知られても問題ないですから。
標茶町の食堂で昼食。
その後はゆっくりと鶴居に向けて移動。帰りはちょっと南側に大回り。別海町を横切って茶安別経由。
今度は時間に余裕があるので、ゆっくり寄り道撮影をしながらです。
あれ、猫がいる。(^^;

しかし道東の猫ってなんであんなに肥えてる子が多いんでしょうね。本州の猫より体が一回り大きい子が多い気がする。
最近はタンチョウの数が増えたおかげで条件のいい湿原の繁殖地はかなり過密になってきてたせいか、こういった牧草地で縄張りを構える番が増えましたね。近くに小さな川などがあれば、それで問題ないようで。ヒナを一羽連れた番。

片やこちらは…、

昨年生まれの若鳥。「一年生」です。
ついこの間までは「幼鳥」と呼ばれていた連中。首筋がまだらで真っ黒になりきっておらず、頭のてっぺんも白いままで赤い「丹頂」がありません。

この春先に親から「子別れ」をされて独り立ちせざるを得なくなった若者たち。
タンチョウは「子別れ」をされた年は二羽あるいは三羽、時にはそれ以上のグループを作り、大人たちの縄張りの合間をぬうように放浪して暮らします。「先輩」である二年生・三年生の亜成鳥(時にはごく稀に独身の成鳥)にくっついて暮らすのもいますが、多くの場合、同じ境遇の仲間と一緒になって動いていることが多いですね。
やがてこうやって放浪を続けるうちに気に入りの伴侶を見つけ(一緒に行動していたもの同士が番になることも多い)、自分たちの縄張りを確立していきます。いわば彼ら一年目のヤングたちにとって、この初めての夏は「修行」の季節と言っていいでしょう。

撮影者の多くはどうしても見栄えのする成鳥とヒナを追いかけがちで、たまに若鳥を見ても「若いのがいた」と一瞥するだけでカメラを向けない人も多い。
でも私はこうした若鳥たちもしっかり記録します。
「頑張れ!」と心の中でエールを送りながら…。
いい感じの雲が出ていました。いかにも北海道らしい風景と色。

子ジカを連れたメスジカが駆けていく。

オスジカの群れが走り去る。

海岸線を離れて内陸に戻ってきたら気温が上がったような。陽射しも強い。

この夏、道東も異常な高温でしたね。この時は7月初旬でしたがこの日の午後は25度近くまで上がりましたよ。本州の人にとったらなんでもない気温でしょうけど…。

中茶安別から標茶に向かう途中でポツポツと雨が降ってきました。
丘を下って標茶の町の下りていくとき、町の向こうの山の上には真っ黒い雲がうず高く…あのあたりは弟子屈かな。大雨になってるかもしれないですね。
標茶からはこれもちょっと大回りして塘路・コッタロを回って鶴居に戻ります。
途中の道にいたキタキツネ。

オスかメスかちょっとわからなかったけど、痩せてます。ちょっと体が小さいような。

子ギツネかな。ということは近くに母ギツネがいるんでしょうが…。

たぶん近くに巣穴があるんでしょう。野付のような開けっ広げな場所ならともかく、こういったごく普通の林の間などではキツネが親子でいる姿を捉えることはなかなかできません。
18:00ちょっと過ぎ、TAITOに帰着。
今日も長距離を走りましたね。
明日は早朝湿原散策。
まずはゆっくり休んで英気を養って。

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