Northern White ~北の絵日記~
朝4:00、TAITOを出発。
ここから浜中の海岸線まではおよそ1時間半の行程。
「途中、いくつか寄り道していくよ」
そうですね、時間はあるし。
夏場、タンチョウたちは繁殖地に帰ります。釧路湿原・厚床浜中海岸・風蓮湖・根室半島・別海・野付半島、果ては国後島とさまざまなところに散っていきますが、鶴居村内や標茶町あるいは中標津町、弟子屈町といった比較的近場で営巣する番も最近は多い。海岸線までの途中でそうしたタンチョウたちに何カ所かで会うことができます。
さっそく鶴居村の村はずれで…。
この番はヒナを連れていません。
「今年は繁殖失敗したみたいなんだよね~」
タンチョウは一度の産卵で二個の卵を産みますが、その二個がどちらも無事に孵化して育つかというと…さまざまな要因で孵化しないこともあればせっかく孵化してヒナが生まれても病気になったり天敵に襲われたりして夭折してしまうことが非常に多い。生まれた卵のうち冬の移動時まで幼鳥として生き残っているのは17~27%という冷酷なデータがあります。(正富宏之先生著「タンチョウ そのすべて」による)
で、一度繁殖に失敗した番は、もう一度ダンスから始めて交尾・営巣という手順を繰り返すのですが、この二度目の試みも失敗したとなるとその年はもう繁殖を諦めてしまいます。というのは、ヒナが生まれてから飛べるようになるまで約100日かかります。秋の越冬地への移動はどんなに遅くとも11月下旬。営巣から産卵までかかる日数も加えて逆算すると7月以降に繁殖活動を始めたのでは間に合わない。産卵から孵化までは標準で32日、つまり1ヶ月を要しますから産卵から起算すると幼鳥が飛べるようになるまでおよそ130日。4ヶ月あまり。7月中旬以降に繁殖活動を始めたのでは雪が降る前に越冬移動をすることが難しくなりますから。
静かな朝の川に佇む番。
この番もヒナを連れていません。
繁殖に失敗するのはヒナの死亡だけが原因ではありません。営巣時に春の大雨で巣が卵ごと流されてしまったという自然災害に遭うこともあります。
昨今は異常気象の頻発でそういうケースも多くなってきました。
とある林道で出会った親子。ヒナは一羽。車を停めて車内から望遠で。
ゆっくりと歩いていく…。
そろそろと車を前進させながらシャッターを切ります。やがて坂を登って視界から消えて行きました。
鶴居から標茶を抜けて浜中へ。
その途中にはあちこちに広い牧草地があり、そこを縄張りにしているタンチョウたちがいます。ひとつの牧草地にひと番、くらいでしょうか。
牧場の人たちもよく「ウチのツル」という呼び方をしていますね。
ここの番も繁殖に失敗したのかな。
鶴居からあちこち寄り道撮影しながら浜中の海岸線まで。途中コンビニで休憩し朝食をとり、2時間半ほどで霧多布湿原に到着。
ちょっと曇り気味な天気でしたが、気温はさほど高くなく。
毎年夏にここに来て一番心配なのは気温が高すぎて陽炎が立ってしまって遠景が撮れないということなんですが、その心配はなさそう。ジッポゲージを見ると現在17℃。
何カ所か回った後、水辺にいる親子を見つけました。ヒナは一羽。
私たちがいる場所とはかなりな距離があります。間に水を挟んでいるのでこれだけ離れていればタンチョウもこちらを警戒しません。
育雛中の番は特に警戒心が強いですからね。生半可な距離では彼らはそれとなく遠ざかっていってしまいます。このくらい離れていないと…と言っても上の写真では距離感実感できないですよね。上の写真は実際のカットをトリミングしたものです。実際の画角は下の写真。これでもかなりの望遠なんですよ。
餌を漁りにいくのかな。親鳥のあとをついてバタバタ羽ばたくようについて行くヒナ。ちょっとかわいい♪
ヨチヨチ、という感じがいいですね。これは上の写真をトリミングしたもの。
「危ないからあまり先に行っちゃダメ!」
ちょっと心配そうな顔の親鳥。(^^;
背景がいいですね。絵になる場所を歩いてくれてる。アップにして撮るよりもこうやって背景を活かして撮りたいですよね、夏は。
タンチョウは小さくてもいい。
「まるで、『どうぞ撮ってください』って言ってるみたいだな~」と和田さん。(^^;
後でモデル料請求されるかも。
夏の撮影を長年やってますけど、ここまで絵になるシーンってなかなか出くわさないですよ。
和田さんみたいにしょっちゅう来れる人ならともかく…。
「オレだってなかなかこういうシーンお目にかからないよ~」
ゆっくりゆっくり、情景をかみしめるようにシャッターを切っていきます。ゆるい風が頬を伝う。時折小鳥の声が聞こえるだけで静かです。
何枚撮っただろう?
ネイチャーフォトグラファーとして至福の時間ですね。周りを見ても撮影者は誰もいない…この光景を独り占め状態。
陽が差してきましたね。水の色がこころなしか青さを増したような。
親鳥がヒナに餌を嘴移しで。
このヒナは見たとこ生後1か月ちょっと経っているのかな。たぶん5月中旬に孵化した子。標準的な生まれ月ですね。
動画も撮っちゃいました♪
横で聞こえるのは和田さんのシャッター音です。(^^;
よく見ると対岸にエゾシカが数頭動いているのがわかると思います。
気が付いたら1時間近く撮ってました。
タンチョウたちも視界から去らずにずっとモデル役を務めてくれて。ありがとう!
いや~、めったにないいいシーンが撮れました。
一日の撮影の最初にこういうのが撮れると気が楽ですね。夏の撮影、なかなか満足するシーンに巡り会うことは少ないんですよ。いい場所にタンチョウがいても陽炎が立ったり手前の草がジャマだったり、こっちの存在に気づいて行ってしまったり…まあ、なかなか思うようにいかないのが野生動物撮影の面白さでもあるんですけどね。だからこそ最高のシーンに出会えた時の嬉しさはひとしお。
近くにタンチョウの羽根が落ちていました。
あの番のどちらかのものだとすると、そのタンチョウは今年換羽なのかもしれないですね。タンチョウは2~3年に一度、夏に羽根の一番外側にある10枚の初列風切が抜けて生え変わります。その間一時的に飛べなくなるのですが、どのみちこの夏の時期はヒナにつきっきりでいなきゃならないので、そうそう飛ぶ機会もありません。この換羽という現象はタンチョウだけでなくあらゆる鳥で起きますが、タンチョウは体が大きいだけに抜ける羽根もデカイ。
民話にある「夕鶴」などで、ツル女房が自分の羽根を反物にして織るという話はたぶん、この換羽からの連想でしょうね。羽根が生え変われば飛んで行ってしまうのです。(^^;
霧多布から海岸線沿いに東に走り、いくつかのタンチョウの繁殖地を覗いてみます。
ここの沼にもひと番。
ここはヒナを連れてません。繁殖失敗ですね。
和田さんの話だと、今年は春先の異常気象がたたってか繁殖率は低いようだとか。最近特に春先に豪雨などがあって湿原の異常増水がしばしば起こります。やはり温暖化の影響なのかな。
浜中海岸。いつ来てもここは風が強い。
たまに砂浜にタンチョウが下りているときがあるらしいですが、なかなかそういうシーンには出くわしません。
海岸線をいったん離れて北上。
途中で見かけたタンチョウ。番だと思うんだけど、相方はどこかに餌探しにでも行ってるのかな?
雌雄がこの時期離れて行動するということは、この番も繁殖失敗ですね。ヒナを連れていれば夫婦くっついているはずだから。
背後に見える電線というか電柱というか…これ、本州だったら鉄塔になってるかもしれないですね。
送電線のうちで一番簡素な一回線の送電線。鉄塔マニアの間では「癒し系」と言われているとか。(^^;
風蓮湖に来てみました。
ここの番はヒナを連れています。右側遠くにポツポツと見えるのはアオサギの群れですね。
このあたりは根室に近いだけあって気温は低い。この時はちょっと上着が欲しいほどでした。
鶴居と根室、気温が5~6℃違うのはザラです。
釧路湿原で営巣しているタンチョウたちに比べると、こっちで暮らすタンチョウたちのほうが食生活は豊かでしょうね。風蓮湖は汽水湖で魚が豊富だから…。
走古丹漁港にいた猫たち。
毛並みもよくコロコロ太ってました。(^^;
たぶんいいもの貰ってるんでしょう。
不思議なもので、海岸線を離れてちょっと内陸に入ると気温が上がる。さっき着た上着を脱いで。(^^;
別海町は日本一の広さを誇る町。あちこちに牧場があり、牛の数は人間の数百倍。こんな林の中でも放牧場があります。もっとも最近はヒグマがこんな海辺近くにも出てくるので牛の安全面での管理は大変だとか。
ちょっと走った牧草地。タンチョウとエゾシカ。
このあたりの人にとっては別に珍しい取り合わせでもありませんが…。
お昼も回ったので、ここから鶴居に引き返しながらまた途中途中で寄り道撮影。
午後になると空はすっかり晴れて…。
ちょっと暑くなってきました。と言っても23℃くらいですが。
ヒナを二羽連れた番がいました。
タンチョウは一度の産卵で二個の卵を産みますが、それが二個とも無事孵化して育つというのはなかなか難しく、冬場給餌場で見るタンチョウの家族はたいてい夫婦に幼鳥一羽という「一人っ子家庭」が多いです。ヒナを二羽連れている夫婦というのは子持ち夫婦のうち2割いないんじゃないかな…。二羽とも無事に成長してもらいたいものです。
まだまだ親の庇護下から抜け出せないヒナ。なにせまだ飛べませんし自分で餌を獲ることもできません。
「飛行訓練」が始まるのはたいてい8月になってから。越冬地に移動するまで飛べるようになっておかないといけません。
ヒナが一羽でも二羽でも、この時期の子連れの夫婦というのは非常に警戒心が強い。
かなり離れた距離でも私たち人間の姿を認めると、こうやってヒナを連れて歩いて遠ざかります。
この時は車の後部座席から望遠で構えていたんですが、それでも警戒されましたね。本当に、夏の時期の撮影は難しい。
樹の影に姿を隠すか、大遠距離で超望遠を使うか、車の中から撮るかの三択。もちろん服装も気をつけないといけません。原色系の服装など言語道断。自然にない色はダメです。白も目立つからよくない。迷彩柄か、そうでなければ暗緑色かオリーブ色、もしくは枯色系の服がいいですね。
観光客の方々の中には自然観察ツアーで派手な色の服を着てくる方がおられますけど、あれはよくないですね~。マナー違反です。
赤・オレンジ・黄色などは厳禁と考えてください。
帰路は2時間ほどで鶴居に帰着。
明日は野付半島。また朝早いので今日は早目に宿に戻りました…とは言っても帰着時間は17:30。
延々14時間の撮影でした。
夕食は18:40過ぎ。まだ明るい。(^^;
にゃーちゃんさんからいただいた咲のシャツを着て。もちろん撮影行中はこれは室内着です。撮影地では白は目立ちすぎるんで着れないから。(^^;
さあ、明日も3:30起床です。