薬学部が電池の勉強?
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5月5日は「薬の日」です。 日本書紀によると、611年5月5日、推古天皇が、大和の兎田野(現在の奈良県宇陀市)で、 薬になる草や木を採取する“薬狩り”なるイベントを催したのをきっかけに、 その後、毎年、行われるようになり、この日を「薬日(くすりび)」と定めたようです。 ・・・というわけで、今月は「薬学」に関する話題です。 【ナトリウムイオンによる膜電位】 長く生きると、誰しも、老いてきて、やがて亡くなります。 誰1人として、例外なく、亡くなってしまうので、 変な言い方ですが、理想的な亡くなり方を希望するなら「老衰」でしょう。 しかし、残念なことに、死因別死亡数では、老衰による死亡は第3位です。 第1位は「悪性腫瘍(がん)」ですが、 これは、あらゆる臓器で生じたものを合計するので、どうしても多くなってしまいます。 臓器別で比較した場合、老衰を上回る死亡数になっているのは、心疾患(心臓の病気)です。 高血圧(血圧が高い状態)を起点に、虚血性心疾患(心臓の血液不足)や不整脈(脈の乱れ)を経て、 心不全(心臓の機能不全)になると、誠につらいです。 心不全に陥る前に、何とか改善させようと、色々な心疾患に対する治療薬があります。 心疾患治療薬の1つ「ナトリウムイオン遮断薬」は、 ナトリウムイオンチャネル(ナトリウムイオンが通る隙間)を遮断して、 ナトリウムイオンが細胞内に流入するのを阻害し、活動電位が頻繁に起こるのを防ぐ薬です。 これにより、頻脈性不整脈を防ぐことができます。 「活動電位」については、高校生物でも登場します。 通常は、細胞膜の外側が正(プラス)で、内側が負(マイナス)になっているのですが、 細胞膜に、ある刺激が加わると、一時的にナトリウムイオンの透過性が高まって、内外の電位が逆転します。 外側が負(マイナス)で、内側が正(プラス)になった状態が「興奮状態」であり、 このときの電位変化を「活動電位」と言います。 【薬学と電池】 薬学部は、「理系/文系」の分け方では、理系に分類され、 大学受験の時、一般入試ですと、理科を2科目選択しないといけません。 多くの理系受験生は、まず「化学」を選んだ後、「物理」か「生物」を選びます。 医学部や薬学部を目指す受験生の中には、 医療に、より関係深そうなのは「生物」だろうということで、「生物」を選ぶ方もいることでしょう。 理科を「生物」&「化学」の2科目にした薬学部受験生の中には、ひょっとすると、 「化学の電池なんか、学ぶ必要ある?」と思っている方もいるかと・・・。 「電池は、どちらかと言うと、工学部受験生が知っておけば良いだけ?」と思っている方もいるかと・・・。 ところが、ところが、薬学においても、「電池」は、大いに関係します。 先に挙げた「ナトリウムイオンによる膜電位」が、それです。 高校化学で学ぶ「電池」は、2種類の金属でイオン化傾向が異なることを利用した電池です。 イオン化傾向の差は、イオンへなりやすいかの差(電子を放出しやすいかの差)ですが、 イオンへのなりやすいかの差は、何も、2種類の金属間でのみ生じる現象ではなく、 同じ種類の金属間でも起こり得ます。 同じ種類の金属なのに、どうして、そのようなことが起こるのかと言うと、濃度が異なるからです。 イオン濃度の高いところでは、すでにイオンになっているものが原子に戻ろうとします。 つまり、イオンが減ります。 イオン濃度の低いところでは、まだイオンになっていない原子がイオンになろうとします。 つまり、イオンが増えます。 したがって、見かけ上、濃度の高いところから、濃度の低いところへ、イオンが移動したようになります。 このように、イオン濃度の差を利用した電池を「イオン濃淡電池」と言います。 ナトリウムイオンにおける活動電位は、ある意味、イオン濃淡電池に似ています。 通常、細胞の外側では、ナトリウムイオンの濃度が高くて、細胞の内側では、ナトリウムイオンの濃度が低い。 そして、濃度の高い外側から、濃度の低い内側へ、ナトリウムイオンが移動するとき、電位変化が生じる。 「イオン濃淡電池」のことを、高校化学で学ぶわけではありませんが、 電子の移動によって、電流が生じることなど、電池に関する基礎知識を学んでおかないと、 ナトリウムイオンの膜電位について理解できず、単なる“丸暗記の知識”で終わってしまいます。 “ニューラルネットワーク”=“電気回路”という割り切り方は、極端過ぎますが、 思ってる以上に「物理」や「化学」も薬学に関係するんだな・・・と意識して、取り組んでいきたいものですね。 ある事柄が関係あるかないか? これは、学んだ後に判断できることであり、学ぶ前から判断できることではありません。 何事も、貪欲に学ぶことで、本当の理解に近づけることでしょう。 |
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