ゲノム編集

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2020年のノーベル化学賞は、ゲノム編集の方法を開発した2人の生物学者、

アメリカのジェニファー・ダウトナ氏と、フランスのエマニュエル・シャルパンティエ氏が受賞しました。

「ゲノム編集」とは、遺伝子を改変する技術の1つです。

農作物の品種改良やヒトの疾患の治療、病原菌の根絶など、多方面での応用が期待されています。

今回ノーベル賞の対象となったゲノム編集の方法は、具体的にどのようなものなのでしょうか?



例えば、イネが病気になるかならないかの原因が、ある遺伝子の1つの塩基配列の違いだとします。

正常なイネではAとなっている塩基が、病気のイネではCになっていたとしましょう。

この塩基Cを塩基Aに変えることができれば、イネが病気にならずに済みます。

塩基Cを切り取ります。

すると、DNAには切れた部分を修復する能力があるので、切り取られた塩基を復活させようとします。

このとき、修復のエラーで、切り取られた元の塩基であるCに戻らず、異なる塩基になる場合があります。

この修復エラーを逆に利用してやろう、というわけです。

修復の際、塩基Aに変わった個体を選抜し、その個体を栽培すると、正常なイネに成長します。



ヒトのゲノムは全部で 3.0×109 対の塩基からなります。

この中から特定の塩基1つを選び出すことなど、できるのでしょうか?・・・可能です。

塩基の種類はA、C、G、Tの4種類なので、並んだ2つの塩基がAAになっている確率は 1/16 です。

3連続の塩基がある特定の配列になっている確率は 1/64、4連続だと 1/256、5連続だと 1/1024、

6連続だと 1/4096、7連続だと 1/16384、8連続だと 1/65536、9連続だと 1/262144、

10連続だと 1/1048576、11連続だと 1/4194304、12連続だと 1/16777216、

13連続だと 1/67108864、14連続だと 1/268435456、15連続だと 1/1073741824、

16連続だと 1/4294967296 となります。

よって、16塩基からなるポリヌクレオチドを合成し、細胞核の中に入れてやれば、

ゲノム全体で、このポリヌクレオチドと相補的に結合する場所は1ヶ所しかありません。



コムギ(1.7×1010 bp )など、ヒトゲノムよりも大きなゲノムをもつ生物種もあるので、

しばしば20塩基からなるポリヌクレオチドが使われます。

17塩基連続だと 1/17179869184、18連続だと 1/68719476736、

19連続だと 1/274877906944、20連続だと 1/1099511627776 です。

ゲノムの最も大きな生物はアメーバですが、そのゲノムサイズが 6.7×1011 なので、

20塩基からなるポリヌクレオチドを用意しておけば、どんな生物にも対処できるわけですね。



ゲノム編集は、DNAの切断だけは人工的に起こしてやりますが、

その修復は生物が元々もっている能力を利用しています。

修復エラーなどするのか?・・・と、つい疑ってしまいますが、

通常のDNA複製でもしばしばエラーは起こっています。

ただそのエラーは通常、正常なものが異常なものに変わるエラーなので、排除されていきます。

ゲノム編集では、異常なものが正常に戻るエラーを利用してやるわけです。

別の遺伝子を新たに組み込むわけでもありません。

このあたりは、従来の「遺伝子組換え」とは異なっています。



遺伝子改変技術の新しい時代がやってきました。

「ややこしい、よく分からないものだから敬遠しよう・・・。」ではなく、

正しく理解する努力をしていきましょう!


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