貨物の牽引車数
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JR貨物が1996年から使用しているEF210形電気機関車は「桃太郎」という愛称で親しまれています。 同じく「金太郎」という愛称で親しまれているEH500形電気機関車は、 車体の側面に金太郎のイメージキャラクターが施されているのですが、 「桃太郎」には、これまでラッピング車がありませんでした。 ところが、2020年2月から、ついに、「桃太郎」にもラッピング車が登場したのです。 より一層の人気が出ると良いですね。 ![]() さて、この「桃太郎」に関する計算を少ししてみましょう!・・・いったい何両くらい牽引できるのでしょうか? 電車が走るのは、車輪とレールとの間に摩擦力がはたらくからです。 高校物理で学びますが、(摩擦力)=(摩擦係数)×(垂直抗力)であり、 傾斜のない水平面を移動しているときは、(垂直抗力)=(重力)=(質量)×(重力加速度)ですから、 (摩擦力)=(摩擦係数)×(質量)×(重力加速度)となります。 これ以上の力がかかると滑ってしまう、滑り出す直前の摩擦力を「最大静止摩擦力」と言い、 このときの摩擦係数を「静止摩擦係数」と言います。 鉄道の場合、摩擦力のことを「粘着力」と言い、静止摩擦係数のことを「粘着係数」と言います。 EF210型電気機関車は直流専用の機関車であり、 速度をv(km/h)とすると、駆動時の粘着係数μは次の式で求めることができます。 ![]() 電車の場合、静止状態から動き始める、最初の駆動力が一番肝心です。 この状況を考えるために、速度を 0(km/h)とすると、μ = 0.265となります。 桃太郎の質量は100.8(t)=100800(kg)であり、重力加速度は9.80665(m/s2)ですから、 (粘着力)= 0.265×100800×9.80665=261955.2348(N)です。 この粘着力を超えない範囲で牽引したいわけです。 今度は、走行を妨げる列車抵抗について考えてみましょう。 列車抵抗には、出発抵抗や走行抵抗、勾配抵抗など、いろいろな抵抗がありますが、 出発時に大きく影響するのは出発抵抗であり、一般に、1トンあたり3kg重とされています。 つまり、1トンの電車なら、3×9.80665=29.41995(N)の出発抵抗が発生します。 桃太郎自体の質量は100.8トンなので、これによる出発抵抗は 29.41995×100.8=2965.53096(N)です。 これに、後、牽引するものの出発抵抗が加わります。 牽引するものを、今、コンテナ車だとしましょう。 一般的なコンテナ車として「コキ100形式」を考えます。 本体の質量が18.5トンであり、最大40.5トンまで積めるので、 満載だと、コンテナ車1両あたり、18.5+40.5=59トンになります。 したがって、コンテナ車1両あたりの出発抵抗は、29.41995×59=1735.77705(N)です。 これをk両連結するとしましょう。 すると、コンテナ車k両の出発抵抗は1735.77705k(N)になります。 桃太郎本体とコンテナ車k両の出発抵抗の合計が粘着力を超えなければ良いので、 2965.53096+1735.77705k≦261955.2348 という不等式が成り立ちます。これを解くと k≦149.2067797 となり、149両のコンテナ車を牽引することができます。 しかし、実際のところ、ここまでの車両数を牽引しているものを見たことがありません。 これは、実際の軌道が平地ばかりではなく、アップダウンがあるからです。 東海道本線の関ヶ原付近には、勾配が10パーミルの坂道があります。 10パーミルとは、水平方向に1000m進むと、鉛直方向に10m上がる傾斜です。 この場合、どれくらいのコンテナ車を牽引できるのでしょうか? 通常ですと、関ヶ原付近は時速65kmで走行していくわけですが、今は、平地との比較をするため、 “関ヶ原付近で緊急停車してしまい、静止状態から走り出す。” という状況を考えてみましょう。 粘着係数は速度によって変化しますが、今は同じく「v=0」を代入して、μ=0.265です。 勾配が10パーミルということは、tanθ=0.01ということであり、 この場合、cosθ≒1としても差し支えないでしょう。したがって、粘着力は平地と同じく、 (粘着力)= 261995.2348(N)となります。 桃太郎の出発抵抗は2965.53096(N)でしたが、 今回は、上り坂ですので、これに勾配抵抗が加わります。 高校物理の力学で、斜面の運動についても学びますが、 傾斜角θの坂を上るとき、後方に(重力)× sinθ分だけの力がかかります。 今、sinθ≒ tanθとしても差し支えないでしょう。sinθ=0.01です。 このとき、勾配抵抗は、100800×9.80665×00.1=9885.1032(N)となります。 よって、桃太郎本体による抵抗は、2965.53096+9885.1032=12850.63416(N)。 次に、コンテナ車1両分の抵抗を考えます。 出発抵抗は、平地と同じく1735.77705(N)です。 これに勾配抵抗59000×9.80665×0.01=5785.9235(N)を加えないといけません。 1735.77705+5785.9235=7521.70055(N)となります。 コンテナ車k両分だと、7521.70055k(N)です。 さて、では、牽引できるのが何両か求めてみましょう! 12850.63416+7521.70055k≦261995.2348・・・@ これを解くと、k≦33.1234405となり、33両までとなります。 ここまでの計算は、すべて、レール上で車輪がスリップしないことを仮定していますが、 実際には、やはり、スリップは生じてしまいます。 すると、静止摩擦力ではなく、動摩擦力で考えないといけなくなります。 ということは、粘着係数が0.265よりも小さくなるので、粘着力も小さくなります。 ですから、上記の不等式@の右辺の値が小さくなるので、kの値は、より小さな値になることでしょう。 一般には、桃太郎の牽引台数は最大で24両と紹介されています。 |
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