「iPS細胞」誕生の歴史
|
|
2012年10月8日、山中伸弥氏(1962−現在)が「ノーベル生理学・医学賞」を受賞しました。 「成熟細胞が初期化され多能性をもつことを発見した。」というのが受賞理由です。 ヒトの体は約60兆個の細胞からできていると言われます。 それらすべての細胞が、もとは1つの受精卵から細胞分裂により増えたものであり、 すべての細胞が同一の遺伝情報をもっています。 それにも関わらず、各々の細胞が異なる役割を果たすのは、分化が起こるからです。 いったん分化した細胞は、元に戻らない・・・というのが従来の定説でしたが、 山中伸弥氏は、この定説を見事に覆したのです! 私が小学生の頃、「パーマン」という、藤子・F・不二雄原作のテレビアニメがありました。 主人公の小学生。普段は冴えないのですが、「パーマン」に変身すると、ヒーローになって大活躍します。 彼は、自分がパーマンであることを知られないように、 パーマンとして活躍している最中は、自分そっくりのコピーロボットに自分の代わりをさせます。 あのコピーロボットを見て、分身の術でも使えたら良いのにな・・・なんて考えたこともありました。 実社会においては、“コピー”に対して、もっと重要な動機があります。「再生医療」です。 やけどした皮膚や機能不全に陥った臓器を移植するとき、 他人の皮膚や臓器を移植すると、拒絶反応が起こる可能性があります。 自分由来の皮膚や臓器のストックがあれば、この問題を解決することができるのです。 単細胞生物であるアメーバは分裂によって増殖します。 このとき、分裂によってできた新たな個体は元の個体と同じ遺伝情報をもつ「クローン」です。 植物では、ジャガイモなど栄養繁殖するものもクローンです。 動物ではどうでしょうか?・・・プラナリアなどのごく一部を除き、クローンはできていません。 そこで、人工的に動物のクローンを作製することはできないだろうか?・・・との挑戦が始まりました。 初めて人工的に作製された動物のクローンは「ウニ」でした。 1891年にドイツの生物学者ハンス・ドリーシュ(1867−1941)が、 ウニの受精卵を分割して、それぞれから正常なウニの幼生を発生させることに成功しました。 動物の体細胞の核を未受精卵に移植する方法でクローンを初めて誕生させたのは1962年のことで、 イギリスの生物学者ジョン・ガードン(1933−現在)が「カエル」で成功させています。 生物の教科書で「動物の発生」の話になると、ウニとカエルをしばしば見かけますが、 これらのような先駆的な研究がなされてきた動物なのですね〜。 ちなみに、ジョン・ガードンは、山中伸弥氏と同時にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。 哺乳類で初めてのクローンは「ヒツジ」です。 受精卵からのクローン個体は1981年に作製されましたが、 それよりも有名なのは、何と言っても、1996年の「ドリー」でしょう! イギリスの生物学者イアン・ウィルムット(1944−現在)らが、 哺乳類で初めて体細胞の核からクローンを作製し、非常に注目を集めました。 私が大学生だった頃のナンバーワン・オブ・ホットトピックスと言っても過言ではありません。 こうした先人たちの研究から 「いったん分化し成熟した体細胞の核を初期化して再び多能性をもたせる物質は、卵子の中にある。」 と考えられるようになりました。 「それじゃー、もっと卵子の研究をしていこう!」 となっても良いはずですが、そんなに話はうまくいきません。 研究目的の卵子を提供してくれる人を探すのに苦労したのです。 それも、そのはず。なんせ、生命の源ですからね〜。不要な卵子なんてないはず! 2001年に面白い研究成果が出ます。京都大学・再生医科学研究所の多田高氏の研究でした。 体細胞とES細胞に電気ショックを与え融合させると、体細胞が多能性を獲得したのです。 これにより、多能性を復活させる因子がES細胞にあるのでは?・・・との考えが浮かびました。 「ES細胞」とは「胚性幹細胞(embryonic stem cells)」のことで、 動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の内部細胞塊より作られる細胞株です。 多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させることができるため、再生医療への応用が期待されています。 1981年、イギリスの生物学者マーチン・エバンス(1941−現在)がマウスでの作製に成功し、 1998年、アメリカの生物学者ジェームズ・トムソン(1958−現在)がヒトでの作成に成功しました。 ES細胞は受精卵由来です。 体外受精で不要になった受精卵に対して提供者が承諾した場合に限り、研究に使用できる・・・というのが 現在のルールになっています。 しかし、やはり、ひとつの命を絶つことになりかねない、という倫理的な問題が完全には払拭できていません。 ES細胞に存在するであろう、多能性を復活させる因子を抜粋し、 その因子を体細胞に組み入れることで、体細胞が多能性を取り戻すことが一度できれば、 もうES細胞の倫理的問題に苦しむ必要はなくなるだろう!・・・そのような展開を期待しました。 そして誕生したのが「iPS細胞」です。2006年にマウスで初めて作製されました。 ES細胞内で特異的に働く遺伝子の中から、多能性復活の鍵となる4つの遺伝子(山中ファクター)を選び出し、 それらを体細胞内に組み入れることにより、既に分化した体細胞が多能性を取り戻したのです。 この技術を再生医療に利用できれば、素晴らしいですね。 患者の体細胞を摂取し、そこに山中ファクターを組み込み多能性を復活させ、 その患者にとって必要な組織を、その患者由来の細胞で作ることができるのですから。 今後の研究が楽しみです♪ |
|
|