2月26日
   遥かなるグランドキャニオンへの旅


この日の集合時間は朝の7時15分
ほとんど眠れない上に、朝食もとらないまま待ち合わせのフロントへ向かった
しかしまだこんな時間だというのにホテルのフロントにはすごい数の人がいる
眠らない街という肩書きはダテじゃ〜ないようだ
ほどなくして一人の外人が悠長な日本語で話し掛けてきた
この日のガイド、そしてグランドキャニオンまでの運転手となるクラークさんであった
連れられて一緒にバスに向かったがそこで僕は愕然となった
そこに待っていたのは、とてもバスとは呼ぶのもおこがましい感じの
ただのRVの4駆の車だった
確かにアメリカサイズで日本のそれよりはかなり大きいとはいえ、バスよりも狭い
車をのぞいて見ると僕が一番最後の乗車になる様なのだが
すでに乗れる場所がないんじゃないかっていうほどにギューギュー詰め状態だった
そのRV車1台に僕と運転手のクラークさん
5人連れと4人連れの家族のグループと1組の新婚カップル
そして20代前半と思われる女の子の2人組で、総勢15人が乗り込んだ
このままの状態でグランドキャニオンまでは約4時間もかかるらしい...トホホ
ふと見れば助手席がポッカリと空いてはいたが、クラークさんの話では
万が一の安全を考慮した上で助手席に人は乗せないという事だった
何でも、もしも助手席に人を乗せて事故でもあった場合には
そのウマを必ず観光客にも伝えている為に旅行会社や保険会社からは
何の保証も受けられないらしい、ん〜そいつは怖い
そんな中、まず最初の事件は起こった
一人の50代と思える日本人の男性が、すごい剣幕でクラークさんに食ってかかっている
何でも「こんなギューギュー詰めの状態のままで4時間も乗ってられないから
保証なんて受けられなくってもかまわないから助手席にのせろ!」と言うのだ
必死に説得を試みて困っていたクラークさんであったが
最後にはこのおじさんの激しい口調に負けて助手席へ乗せる事となった

この日もまだ昨日からの、より一層激しさを増した雨が降り続いた
雨に慣れていないラスベガスの土地の人は、この程度の雨でも
よく事故を起こすという話だったが、確かに朝っぱらから激しいサイレンを鳴らしながら
救急車が僕らの車の横を、何台も走り抜けていった
平均的には年に5日ほどしか雨の降らないこのラスベガスという土地は
土地そのものがまったく雨対策を取られていない為に
道路やなんかの水はけも非常に悪いのだ
ほんの少し雨が降っただけで、道路はまるで濁流で荒れ狂う川の様になってしまう
本来ならば車を走らせながらガイドをするはずのクラークさんも
この雨と、予期せぬ助手席への来訪者の為か
普段よりも緊張しながら運転に集中している、車の中は静まりかえっていた
ラスベガスの街を抜けて、しばらくハイウェイをひた走るRV車
雨の為か、はたまた事故の為か、所々で規模の小さな渋滞も起きていたが
僕らは無事に走り続ける事ができた
しかしさすがは砂漠の中にポッカリと現れた街だ
少しラスベガスの街を離れると、車の窓から見えてくる景色は
どこまでも果てしなく続く砂漠地帯と、そこに生えているサボテンだけだった
フッと横を見ると、僕の横に乗っていた女の子の2人組がラスベガスの本を読んでいる
2人がその本を見終えた頃に、思い切って声をかけてみた
「その本、見せてもらってもいいですか?」「は、はい、どうぞ」
ありがとうと一声かけて、差し出された本に目を通しながら
「お一人なんですか?」と声をかけられ
「はい、自由気ままな一人旅を満喫しようかと思って」と笑顔で答えたが
一人という事で不信に思われたのか、その後は目立った会話を交わす事もなく
僕らを乗せたRV車はひたすら目的地である『グランドキャニオン』を目指した

1時間半ほど走り続けた頃だろうか?
僕らは休憩の意味も含めて、とあるダムに差しかかった
現在は世界で2番目の規模となってしまったが、つい近年までは世界最大の規模を誇った
『フーバーダム』そしてそのダムが形成する湖『レイクミード』である

あいにくの天気の『フーバーダム』そして『レイクミード』の片鱗

   

ここでも車から降り立った僕が最初にした事はタバコだった
ヘビースモーカーである僕にとっては、この禁煙状態は何よりも厳しい出来事だ
だいぶ小雨とはなったが、今だ降り続く雨の中
その壮大な景色とダムや湖の規模には、ため息さえもれるほどであった
普段天気のいい日には、ここ『レイクミード』にも
魚釣りの為のボートが何艘も浮かんでいるらしいのだが
あいにくの天気状態の為、この日は一艘の船も出てはいなかった
ここでしばらく喫煙とトイレの為の休憩の後、再びRV車により
『グランドキャニオン』に向けて走り始めた

それから1時間ほどして車は給油の為、小さなショップのあるGSへと立ち寄った
すでにガイドのクラークさんは常連の様で、ショップの店員であるインディアン風な人と
気さくに話を弾ませていた

給油の為に訪れたGSのあるショップ

ここで僕は再び奇跡を起こした!!!
まるでおもちゃの様なアメリカドルを使って
現地のミネラルウォーターを仕入れてみたのだ
価格は忘れてしまったが、日本のそれよりもかなり高い印象を受けた
皆はそれぞれにおみやげを見たりしていたが、僕はクラークさんと話をしていた
同じ日本人として、こんなわがままで恥ずかしい事はないと
出発の時にはとても迷惑をかけてしまってすまなかったと...
クラークさんは笑顔で右手の親指を立てて、何やら英語を話していたが
僕には「何てこたぁ〜ない、たいした事じゃないさ!」っと言っている様に聞こえた
ここまでの道のりはまだ舗装された道を走ってきたのだが
この先しばらくはまったく舗装されていない、荒野の道を走る事になるという
ただ、ここまで雨が降り続くとその道も封鎖されてしまう恐れがある為に
万が一にもそこが通れない場合には、せっかくの『グランドキャニオン』もあきらめて
そこでUターンをして帰らなければならないらしい...
ふと横の景色を見れば所々に水溜りというよりも
すでに沼と化した様な場所ばかりが点在している
まさか高いお金を出してきたツアーが
こんな雨の為にただのドライブになってしまうのか?
乗車している観光客全てが、そんな不安を抱えながら再び車は走り出す
この後、なぜ車がバスではなくRV車だったのか?
その答えが出るのである

立ち寄ったGSから車で走ること数十分
ついに『グランドキャニオン』に向かう荒れ果てた道の入り口に到着した
そこで僕らが目撃したのは、まさに神の奇跡か?はたまた天変地異の前ぶれか?
周りはすっかり沼と化しているというのに
『グランドキャニオン』へ向かうゲートは無事に開放されていた
一気に車はバスではとうてい走れなさそうな道へとつき進んで行く
車に弱い人ならば一発で車酔い確実とも言えるほどの凸凹道を
クラークさんはものすごいスピードでエンジンブレーキを駆使しながら
慣れた感じで疾走していく
次第に外の景色の中に、あのテレビで見た様な景色が増えてきた
赤く、そして幾重にも重なる地層の岸壁が...
しかしこんな物はまだまだ序の口で、僕らの到着予定地には
これを遥かに越えた雄大な景色が待っているはずである
ひたすら荒れ果てた荒野というか砂漠の中を
サボテンに囲まれながらひた走り続けていると
運転手クラークさんの粋なはからいで、僕らは途中、ある場所へと案内された

グランドキャニオンの片鱗『イーグルポイント』にて

   

『イーグルポイント』と呼ばれるその場所は、地元の人だけが知る隠れた観光スポットで
ほんの触り程度だが、『グランドキャニオン』の景色を堪能できる場所らしい
人の手がまったく加えられていない為に、柵などの安全設備も一切無し
ほんのちょっと、もう一歩踏み出せばそこは断崖絶壁の崖である
極度の高所恐怖症の僕は、あまり先に行く事もできなかった
基本的には砂漠地帯である
そんな崖も、よ〜く踏みしめてみるととても柔らかくて今にも崩れそうな
そんな感覚であった

今にも落ちてしまいそうな『イーグルポイント』の崖

まだ小雨が降り続いていたので傘をさして見学していた家族連れの奥さんの傘が
崖からの風の為に、一気に壊れてしまったほどだった
ここからほんの数十分走った所にある空港が、とりあえずの中継点らしい
そこからインディアンの運転するバスに乗り換えて
この日のメインポイントに向かうという話だった

空港と呼べるほどの規模はない場所ではあるが
観光の為のヘリやセスナが利用するというその空港には
その日1台もヘリやセスナは来てはいなかった
この雨で飛行機による観光は全て中止になっているらしい
今回は予算をケチって飛行機じゃなく車にして
決して楽ではなかったが、正解だった様だ

ツアー客の為の小さな飛行場にある駐車場

そこでここまでの工程でお世話になったRV車からインディアンのバスに乗り換えて
最終目的地である観光ポイントに向かった
しかし長く降り続く雨の為か、かなりの高度まで登ってきた為か
あたり一面に激しいモヤが立ち込めている上に、非常に寒い
そしてついに到着した!ここがあの『グランドキャニオン』である
激しくモヤってはいるが、吹きすさぶ風のお陰でモヤも流されて
時折ハッキリと、そしてクッキリと、その雄大な景色を眺める事が出来た
丁度お昼時で、ここでツアーに組まれている昼食となった
昼食といってもインディアンのバイキングである
チキンか牛の焼肉かを選び、あとはコーンや野菜の煮たやつ
それから見た事もない長細い形のバターライスと、かなり質素ではあったが
僕にとっては貴重な朝昼ご飯となる為、残さずに全部食べたよ
風も一層強くなり始めて寒くはあったが
雨やモヤのかんがいを縫いながら、持っていったビデオカメラやデジカメで
その雄大な景色を撮影してきた

モヤに煙る『グランドキャニオン』

   

   

   

   

   

ただやはり空からの観光ではなく、地上からの展望の為か
何度かテレビで見た様な大迫力とまではいかなかったが
それでも日本では決して見られない、その雄大な大自然の創造物を
じっくりと楽しむ事ができた
約1時間、その場での観光を楽しんだ後、再び僕らはバスに乗り込み
『グランドキャニオン』を後にした

今回お世話になったインディアンのバス

   

空港で再びRV車に乗り換えた僕らは、一路また来た道を戻り始めた
あの荒れ果てたガタガタ道を再び走り抜けて、来た時にも立ち寄ったGSでしばしの休憩
今回は給油が目的ではなく、同じ様なガイド仲間同士で
どうやら情報を交換しあっていた様だ
さすがにろくな睡眠もとらずにここまで来てしまった僕は
そこから帰りの車の中で、久々に爆睡体制に入ってしまった...
気がついた時には目の前には懐かしいラスベガスの町並みが広がっていた
到着時間午後5時半、今回の『グランドキャニオン』のツアーはこれで終了した
ホテルまで一番先に送ってもらった僕は運転手のクラークさん
そして今回のツアーに一緒に参加した仲間達に別れをつげて部屋へと戻っていった

しばらく休憩した後、まだ時間も早いので僕は雨のラスベガスの街の中へ
徒歩で観光に出かけた
目的地はホテル『ミラージュ』あの火山噴火のショーをやっている場所である
ここではラスベガスの街でも有名な『ジークフリート&ロイ』という
2人のショーが開催されていて、そこに一緒に出演している
ホワイトタイガーやホワイトライオンが見学できるという事だったからだ
デジカメを持ち、ひたすら歩き続ける事数十分...
しかしホテルが半端じゃなくでかく見える為、近くに感じるが、と、遠い...
やっとの思いでホテル『ミラージュ』に到着してはみたものの
丁度その時間、ショーに出演している為か目的のホワイトライオンも
ホワイトタイガーもご不在であった
ここにはもっと早い時間にこなければいけないと改めて確信した僕は
その隣にあるホテル『シーザースパレス』の中にある
『フォーラムショップス』へと向かった
ここは売り場面積約4万9000平方メートルという途方もない広さの敷地の中に
高級ブランドのお店を含む100以上ものショップが軒を並べる
ラスベガスきっての名物の観光スポットである
買い物にはまったく興味のなかった僕ではあるが
中に入って歩いていると、3つある広場ではそれぞれ古代ローマの神々を題材にした
アトラクションが無料で開催されていたりして
古代ローマ好きな僕にとっては、まったく飽きがこない
一通り中を回ってみた後は、すっかりお気に入りとなっている
ホテル『ベラッジオ』の噴水ショーを楽しんでみる事にした
本当だったら『トレジャーアイランド』というホテルで開催されている
バッカニア湾の海賊ショーを見たかったのだが
あいにくまだ先日から降り続く雨のお陰で
本日のショーの開催も中止になってしまった為だ
とりあえず噴水前まで到着した僕は
昨日までの道路側からの見学ではなく、今回はホテル『ベラッジオ』側から
道路を挟んで反対側にある『パリスホテル』にある名物のエッフェル塔や
凱旋門のレプリカをバックにして、噴水ショーを楽しんでみた
なかなかのGOODポジションがとれたので、連続で2回も
噴水ショーを楽しんでしまったよ

その後、僕が宿泊するホテル『アラジン』に戻った僕はフッと考えた
そう、ここは天下のラスベガスなんだし
せっかくだからカジノを覗いてみよう!
噂では飛行機にて観光にきた空港には
あちこちにスロットマシンがあるという話だったが
僕が降り立った空港には、それらしき物は確かなかった
部屋へ一度戻り荷物を置き、財布だけ手にした僕はここで初めて
ラスベガスの地でギャンブルに挑戦する事を決意した
そこで手近な『アラジン』ホテル内のカジノに、ついに降り立ったのである
『ベラッジオ』でもそうだったが
誰もがカジノを目当てにここラスベガスに来ているだけあって
ものすごい人でごったがえしていた
雰囲気はそう、まるで日本のゲームセンター的なものを思わせる
カジノといえばポーカーやブラックジャック・ルーレットが主流だが
これらは現金をチップに変える必要がある上に、いまいちルールもよくわからん為
しばし見学して様子を見てみようかと思ったが、新田さんの話を思いだして
見学は止めておいた
何でも後ろに立ち止まって見学をしていると、インチキやイカサマをしていると思われて
警備の人に怒られてしまうらしい...怖いもんね
そこで現金でできて一番ポピュラーなスロットマシンに挑戦する事にした
ここ『アラジン』のカジノには1セントから50ドルまでの金額で
実にさまざまな種類のスロットマシンがある
僕は手始めに25セントのスロットマシンの台についた
ルールは簡単!25〜75セントの現金を入れてレバーを引くかスイッチを押すだけである
さっそく75セントを投入して始めてみたが、何というか実につまらない
多少のペイアウトはあるものの
こ〜ビッグな当たりがくるとかっていう気がまったくしない
これならば日本のパチンコなんかの方が全然楽しいし、ましだなと
僅か7ドルを使った所ですっかりあきてしまったので
部屋へ戻る事とした...っとその前に
ここ『アラジン』にはカジノの中に日本でもお馴染みになっている
スターバックスコーヒーがあるのである
ここで僕はスターバックスで愛飲しているキャラメルフラペチーノの
グランデサイズを頼んでみる事にした
レジの人も、物を作ってくれる人も当然だが全て現地の人で
当然頼む時にも英語で頼まなければならない事に一抹の不安を覚えたが
欲望には勝てずに片言の英語で頼んでみた
僕の心配とはうらはらに、無事に僕の目の前のキャラメルフラペチーノが運ばれてきた
懐かしい、そして味わいなれた味に舌鼓を打ちながら
その日は部屋へと戻っていった