【vol.218】山田恵里『秋の助動詞』六花書林

「セカンドとサードの間」とヒント出し野球部員に読ませる「せうと」

子を抱くは子につかまりているごとし「子のいる我」に守られている

いくつもの口を開きて人生を吞みゆくごとし「癌」という文字

はね、止めを呑みこんでいるゴシック体文化を滅ぼす字体にあらん

挨拶もなしに逝きたりある朝(あした)父は固くて父は固くて

死は必然 生は偶然 なかぞらに圧倒的な死者のひしめく

寝返りを打ちて季節は春となり白き乳房を見せる木蓮

焼酎の海から外を眺めれば覗いて揺するおばさんがいる

とろとろと小(ち)さき心臓煮るごとく鍋のいちごは従順になる

形なきものが形をもつときに生(あ)るる優しさ初雪が降る

子の下宿フツーにきれいな部屋なれどキッチン磨く母というもの

反論は酒席で為され蓮根の天ぷらの穴の向こうが遠い

ランタンで区切られているデモ会場右は撮影不可なるエリア

「お母さん」と母に呼ばれぬ「お母さん」と母を呼べなくなった私が

だまし騙し開け閉めしていたファスナーが騙されなくて財布を出せぬ

引き出したアルミホイルを戻すごと訂正をせり昨日の授業


COCOONの仲間の歌集が次々と出て嬉しい。山田さんは、高校の国語教員であり、妻であり母であり子であり、さまざまな顔を見せてくれる。

2023年08月06日