【vol.235】塚本邦雄『水葬物語』

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ

聖母像ばかりならべてある美術館の出口につづく火薬庫

シャンパンの壜の林のかげで説く微分積分的貯蓄額

幹を這ひ枝から塔へすべりこみ蛇が女と待つ春のバル

しかもなほ雨、ひとらみな十字架をうつしづかなる釘音きけり

赤い旗のひるがへる野に根をおろし下から上へ咲くジギタリス

薔薇つむ手・銃ささへる手・抱擁(あひいだ)く手・手・・・の時計がさす二十五時

肉を買ふ金てのひらにわたる夜の運河にひらき黒き花・花

廃港は霧ひたひたと流れよるこよひ幾たり目かのオフェリア

當方は二十五、銃器ブローカー、秘書求む。ーー桃色の踵の

翅あはすやうに両掌(りやうて)をあはせつつ君かへる日を花にいのりし

渇水期ちかづく湖(うみ)のほとりにて乳房重たくなる少女たち

てのひらの迷路の渦をさまよへるてんたう蟲の背の赤と黒

夜のつぎにくるはまた夜、かなしげな魚の眼の中に燈(ひ)ともせ

古き砂時計の砂は 秘かなる湿(しめ)り保(も)ちつつ落つる 未来へ


 

書肆侃侃房から『塚本邦雄歌集』が出て手に取りやすくなったことと、COCOON有志の読書会があったことで、難解でこれまで苦手意識のあった塚本邦雄をようやく読むことができた。西洋の香りをまといつつ、インパクトのある言葉によって鮮烈なイメージが広がる。今読んでもニヒルでかっこいいのだから、当時の衝撃はいかほどか。体言止めが多いのも特長。

2025年02月01日