【vol.232】江戸雪『カーディガン』青磁社
死はこわく生きるも不気味 さやぎたる竹のひたすら美しい世に
カーテンは下にむかってやさしさを垂らしてそれがときに傲慢
輪になってなんだか人は皆ひとり小さな壜に夏雲あつめ
朝顔は朝を忘れる日もあってゆらゆら蔓を風になびかす
母の膝にしぼませてあるカーディガン低く鳴きおりそうかそうかと
生きものが生きものを食うレストランきれいな花が飾られている
ええやんか虹はいつでも半円やん今日もたこ焼きはんぶんこしよ
虚しさの崖っぷちから飛んでみるなんと静かな終わりの海へ
てのひらが硬くて朝の火にかざす温もればまた生きたくなった
母はもう父には逢えぬしゃらんしゃらん私があえないよりも逢えない
やわらかくなった輪ゴムをぐるぐると巻きたりかりんとうの袋に
本当と噓とどっちがさびしいか噓の娘となって座れば
わらってもわらっても落ち葉ふってくるゆるしてねって言いたくなった
糠床に茄子ねむらせて冬の手はちっともやさしくなってゆかない
山は空だけを抱きしめ空は星だけを抱きしめ愛(かな)しみのはじめ
いつか、はるか、まだか、そうして別れゆくきっといつかはもうこないから
雨を忘れ雨におどろく枝となる母のスプーン小さかりけり
いちにちは何も起こらず夕暮れて地に落ちているカーディガンあり
第8歌集。残酷なシーンほど美しく、と言ったのは北野武監督だったか。そんなことを思った歌集。生きるとは苦悩の連続。特に老いゆく母を詠んだ歌は切ない。