【vol.226】吉村実紀恵『バベル』短歌研究社
庇護の手をふりほどきわが見上げたる空の高みに雲雀うしなう
何をもて天与の性と和解せむ遂にいのちを産むことなくて
落ちてなお色ある花に壮年を過ぎたる心添わせむとすも
花束を抱えて帰る花束にふさわしき顔よそおいながら
みずからの色を忘るるまで浴びたし銀座アップルストアの白を
会社には行かぬ、行かれぬ君のため取り分ける〈シェフの気まぐれサラダ〉
うなだれて咲く水仙の首ほそし置かれた場所で咲けと言われて
気の抜けた炭酸水と答えおり愛でなければ何かと問われ
開閉をくり返すドアとおく見る〈無理なご乗車〉もはやせずとも
明日からはまた現実と言う人の今日はそれなら何であろうか
大学四年で短歌をはじめ、矢継ぎ早に二冊の歌集を出し、30歳でいったん歌の世界を離れたという作者。『バベル』は22年ぶりの第三歌集。子を持たず働く女性の複雑な心境に多く共感。