【vol.225】俵万智『アボカドの種』角川書店
人間かどうか機械に試されて人間として答えつづける
言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ
「どんぶりで食べたい」というほめ言葉息子は今日も言ってくれたり
二人がけの席に二人で座るときどんな二人に見えるのだろう
色づいてはじめて気づく木のようにいつも静かにそこにいる人
「割烹着のように」着るよう渡された検査着うまい比喩だと思う
春だから、そんな理由があっていいミナ・ペルホネンのスカートを履く
心配をさせてくれない人だから救急箱のように見守る
宇宙から地球を見れば人類は集まることが好きな生き物
ちぐはぐなパッチワークを見るように五輪のニュース、コロナのニュース
三か月ぶりの病院に向かうとき同窓会のように化粧す
ダイソーの迷路に息子見つければイメージよりも大きかりけり
「はじまり」と「おわり」にそれぞれ一つずつ「り」がある男と女のように
第二志望迷う息子の傍らにおせちカタログ眺めておりぬ
簡潔にネタバレをするタイトルの「ジキルとハイドに恋した私」
ルーティンを増やしてごめん老母にはヤクルト1000がストレスになる
白い娘と黒い娘がおりましてどちらが出るか日替わりランチ
50代最後の375首を収めた第七歌集。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の4か月にわたる取材中に詠んだ50首が核になっている。番組を見たが、サブタイトル「平凡な日常は、油断ならない」の通り、生活の中にあるわずかな心の揺れを見逃さず、じっくりこだわって一首に昇華している。時代は変わっても、詠む素材が変わっても、作風は変わらないと改めて思う。一方、これらの作品は「俵万智」というクレジットが付いた上で評価されるものだとも思う。マネてもダメだろう。