東大生物     文責/らう

1.概要

2.傾向

3.勉強法

4.お勧め参考書・問題集

5.その他

・試験時間:理科2科目で150分間(試験2日目の1コマ目)

・配点:60点満点

・問題構成:1987年から大問数は3で変わっておらず、今後もこれは踏襲されると考えられる。各大問が2つ~6つほどのローマ数字の番号が付された中問に分かれており、中問に関してはA,B,C…という記号の付された小問に分かれているものもあるし、分かれておらず事実上の小問となっているものもある。さらにアルファベットの小文字にまで小問が分かれていることもある。小問は論述ということもあれば、単語ないし記号による穴埋め、記号による解答を要求するということもある。近年は、各大問は中問ⅡないしⅢまでとなっている。

 また、化学や大半の年の物理と異なり、大問ごとの出題範囲は一定しておらず、どの大問にどの範囲が絡んでくるかの予知はできない。しかし、3つのうち1つは植物が絡むものであることがほとんどである。

 また論述量が年度により大きく変動する。15行程度の年もあれば、35行以上となる年もある。なお、論述量の指定はごくわずかの字数によるものを除き行数によるものとなっている。

 合計の小問数は例年30程度であり、これは2010年近辺の化学とほぼ同数である。

・解答用紙:A3版1枚、オモテ・ウラの両面。大問ごとに枠が決まっていて破線の罫線が引かれている。解答欄に関しては東進模試のものが最も近く、上下にのみ1字の幅の目安を示す目盛が打たれている。また解答用紙は理科の他の3科目と共通のものであるので、受験番号・科類・氏名に加えてオモテ面上部・太線のすぐ下の(  )に解答科目として『生物』と記し、さらに上部に指示に従い、『生物』と書かれた三角形を切り落とさなければならない。よって、試験当日にはハサミが必要となるが、万一忘れた場合は試験監督に申し出れば対応してもらえる。

 英語・現代文などでよく言われるのと同じく、基本的な中身としてはセンター試験とほぼ同じと考えてよく、知識を答えさせる問題、知識と未知の内容を含むリード文の間に類似点を見出して結論を導いたり結論までの過程を推定したりさせる問題、書かれていること同士を知識を駆使して読みつなぎ、同じく結論やそれに至る過程を問うものからなる。

 また生態系、器官(系)、組織(系)、実験方法などが現在見られる形態であることの意義を自力で考えることを要求したり、読めばわかるようにリード文を書いた上で答えさせたりするものもある。以上はすべてセンター試験でも見られるものであり、これ以外の出題が見られることはほとんどない。解答のしかたが異なるのみであると言って問題はないと言えよう。

 また、大問一つとか中問二つなどがひとつのストーリーを成していることがあり、それに関してはセンター数学に似ていると言え、このような場合には同大学英語第1問で流れを追うことが得意な人には取り組みやすいかも知れない。

 しかし、受験生にとってのネックとなりやすいであろう点が3つある。1つめは、リード文が非常に長いことが多い上に解答までの道筋が手に負えないほど長い問が遍在していることである。つまり、与えられた内容をその場で理解して一旦飲み込み、それを問の要求に合わせた形に再構成するという全教科に共通する解答プロセスで、とても長いものにいつ出合うか予測がつかないということである(ただ、中問Ⅰは暗記で答えられる単語や知識論述が多く、「重い」設問はⅡやⅢ(またはそれ以降)にあることが多い)。

 2つめは、上に書いたことだけでも十二分に時間制約となってくれるのに、その上にさらに作文力を駆使して日本語としても、問われていることに対する答えとしても欠陥のない記述答案を作ることにも時間を割かなければならず、さらに作文力がある人はともかくとして作文力に自信のない人は必要十分なことを正しい日本語で素早く書く練習をしなければならないということである。さらに、繰り返すが論述が多い年は指定行数の合計が全体で35程度となることがある。このような年は3~5行という(目安として105~175字)長い論述を遅くとも1つあたり3,4分で書くと決めたら全て確実に片付けなければならないことになる。なお、論述量や、問題自体の量の年変動が大きいこと、また筆者の体感であるが得手不得手や発想が出来るかどうかということ、この3つによって解答時間は大きく変動する。したがって、かかった時間に一喜一憂してはいけないし、残念ながら本番までずっとどの程度解答に時間がかかるかはわからないというのが筆者の見解である。

 以上で時間制約の厳しさは十二分にわかってもらえたと思うが(まともにやると大半の年で化学などよりよほど厳しい)、3つめとしては、いつどこでどんな基本知識問題に出合うかも、1つめと同様わからないということである。

 出題形式と解答の作られ方にふれられる箇所がここしかなさそうなので付言しておくと、生物種名や実験の結果や結論の導き方などについての文のうち、正しい(適当な)/正しくない(適当でない)ものを選ぶ問に関して、「すべて選べ」と書いてある場合はきちんと知識があるか筋道を立てて考えるかすれば明らかに選ぶべきものが判明する。一方、「nつ選べ(nは大抵1以上3以下)」と書いてある場合には、選択に迷うものが含まれていることがあるが、妥当性に差がつけられているので選べる(と言われてるけどあんなんわかるかっての…)。

 知識や概念を押さえるといった意味での勉強は、教科書の範囲をくまなく(これが難しい)暗記・整理そして理解しておけば十分である。論述の有無や必要な思考のレベル以外の基本的なスタイルは上に記した通りセンター試験とほぼ変わらないので、まずはセンター試験の過去問で満点やそれに近い点数を安定して取れるようになることを目標に勉強すべきである。また、簡単な知識論述の答の暗誦例文を覚える感覚で丸呑みするのも(センター試験対策につながることも多い上)参考書や問題集のコピペで対応できるものが少なくないのでよい。単語や、知識があれば簡単に埋まる数式などの、穴埋め及び知識論述、さらにこれらをひとひねりした比較的高度でない応用問題までを取りきれば、半分弱を確保できると言われている。したがって、以上の勉強がまず終えなければならない勉強である。特に生物種の名前、地質時代などの系統と分類とか、生態系とか、ホルモンに関する領域などは頻繁に覚え直し頭の中に保っておくことを強くお勧めする。

 次にすべきが、考察力と言われる何か、ならびに作文力の養成である。考察力と言われるものは、論理を追って結論を導くか間の抜けた部分を補うという、国語、とくに現代文で主に重要となるものと、与えられたものを知っているものと結びつける(生物のあり方などについてその意義を考え答えることを含む)という、数学や英作文で主に重要となるものとに分けられるだろう。従って、これら他科目の勉強を活かすことが必要である。作文力に関しても、国語や数学の全て、および英語第2問とリンクしていると言って差し支えなかろう。したがって国語や数学などの勉強を通して答えとして正しい内容を含む正しい日本語で書かれた答案を作れるようにすることが必要となる。また、ここでは話の大枠を素早く掴むということが要求されることも多いため、英語の第1問とも必要な能力がかぶっている。

 以上センター試験で高得点が取れるようになってからの勉強には、過去問演習が有効である。生物の入試問題で生物学を扱う文章を読み生物学の考え方(因子決定のために可能性のあるものを1つずつ取り除いてみる、とか、抑制を抑制する機構の存在を疑う、とか)を使って生物学の問題の解答を書くのが一番。ここでは正しい解答プロセスをたどり正解にたどり着くことを最優先事項とし、時間は制限時間の2倍に設定しても良い(と某青看板の予備校の先生がおっしゃっていた)。ただし演習用に近年の過去問はある程度残しておくのが吉。

 入試が近づいてきた頃、すなわち第2回の三大予備校の冠模試からセンター試験直前にかけて行っておきたいのが、解く問題の取捨選択の練習と解答時間の決定である。これより前の時期にこれらを行ってしまうと決定から入試までのあいだに分野間・科目間の得手不得手の関係が変わりすぎてしまって決定がアダとなることが特に現役生において考えられるので早まらない方がよい。これには時間を計っての過去問演習が有効である。ただし、まずはわからない問題に出会ったときに基本的に粘るというスタイルで始めた方が時間制約の中で考える練習になるのでおすすめである。ちなみに筆者は化学を先に80分で、生物をあとである程度捨て気味に処理し70分で回答することとしていたが実際は8分ほど切り替えが遅れ60分強で生物を処理することとなった。よほど生物を速く解くこととか化学で高得点を取ることに自信があるのでない限りこの時間配分は避けたほうが良いと言えそうである。

・『大森徹の最強講義117講生物Ⅰ・Ⅱ』(文英堂)

…教科書の知識のみで十分な東大受験生には余分な知識もあるが、解説における絵、図や表、文章のバランスがよく、上手くまとめられているので教科書で扱われている部分を勉強するときにおすすめ、だった。現在は課程変更の為必要な事項すべてが網羅されていないと思われる。新版が待たれる。

 

・京都大学・早稲田大学の過去問

…リード文が東大ほど長くなく形式が違うとは言え傾向が似ているので考え方・書き方の練習になる。

 

(・使わないほうがよいもの:代ゼミの模試の問題…本家の問題とは異なり、リード文を全て読まずとも正解を導ける問題が多く、またリード文が簡単な上とても短い。故に、直前期の過去問演習では自己採点9割などが多発し、得点の見積もりが狂う危険が高い)

・目標点

 半分弱は基礎とひとひねりで何とかなると上に書いたが、これに自分でどの程度いかめしい問題で得点を上乗せできるか判断した上で決めてもらえればよいだろう。なお、東大担当の予備校講師のある二人は、それぞれ別の予備校の講師だが理2なら7割程度を、理3なら8割強を目標とすべきだと口を揃えて言っていたことを付け加えておく。

 

・記述解答の字数

 1行35字というのは、模範解答を作るときのみ目安になるが受験生が答案を作るときには目安にならない目安だと思っておくべきだろう。筆者はいくら頑張っても最後まで1行45字程度を書かなければならない事態に直面することが無くならなかった。内容のない冗長なことを書いただけ時間を浪費してしまったのである。ここからも作文力の大切さをわかってもらえるだろう。解答中は時間と相談して多くを書くかポイントをとことん絞るか考えて欲しい。

 

・勉強が他科目と相互作用

 東大の生物はとにかく迅速に正しい内容の正しい日本語で書かれた答えを書くこととか、素早くリード文を読み頭の中に内容を保ち問を見たとき部分を想起することとか、わかりにくい部分をなんとか読み切ることなどにおいて、他科目、特に現代文と似たところがある。生物と現代文のどちらかが得意だとかどちらかを頑張ろうと考えているという人は他方もオマケとして高得点を狙いやすいと思うので是非頑張ってみてほしい。もちろん、そういったつながりが見いだせればどの2科目もこういった考え方のもと頑張ればよいし頑張るべきだろう。