東大物理     文責/Troper

1.概要

2.傾向

3.勉強法

4.お勧め参考書・問題集

5.その他

・試験時間:理科二科目で150分間(試験2日目の1コマ目)

・配点:60点満点

・構成:三つの大問からなります。それぞれの大問には一貫したテーマが設定されており、例年の傾向としては、第一問は力学、第二問は電磁気学、第三問は熱力学か波動のどちらかが出題されます。

 2005年度以前は第三問に原子物理が出題されることがありましたが、2006年度以降は新課程が導入され、原子物理が出題範囲から除かれました。参考のため、2006年度以降の出題傾向を以下に挙げます。

 なお、この間第一問、第二問は一貫してそれぞれ力学、電磁気学からの出題です。

2006:熱力学

2007:波動

2008:熱力学

2009:熱力学

2010:波動

2011:熱力学

2012:波動

2013:波動

2014:波動

 見れば分かる通り、第三問については特定の傾向は存在しません。従って、力学、電磁気学、熱力学、波動の4分野全てを対策しなければなりません。

・解答用紙:A3判一枚両面印刷。罫線とドットのみが入っているもので、三つの大問に対応する三つの解答欄が用意されています。表面に第一問と第二問。裏面に第三問。理科の解答用紙は全て同一のレイアウトのものを使用します。物理を解答する上では大きさに困ることはないと思われますので、ミスを少なくするために十分にスペースを活用しましょう。

 受験生が普段の演習では扱うことのないような事象を取り上げて、十分に説明を与えた上で解答させる問題が多いことが最大の特徴であると思われます。しかし、一見すると真新しい問題であっても、丁寧な誘導が付いていて、問われているのは基礎的な理解だけです。
また、難関私立大学のように細かい知識が要求されるような問題は出題されず、基礎的な理解が固まっていれば、十分に全問解答可能です。また、問題数もそれほど多くなく、比較的時間の掛からない科目です。もう一方の選択科目に時間を割くために、物理をできる限り早く終わらせるよう演習を重ねましょう。

 

①第1問 力学
 単振動、相対運動が頻出分野です。極めて高い頻度で複合問題として単振動への理解を問う小問が出題されます。相対運動においては、複数の物体が運動しているため、重心系を上手く利用すると、簡潔に解答できることがしばしばあります。重心系への理解が不足していても、問題自体は運動量保存則やエネルギー保存則を用いて計算を重ねることにより定量的に解けてしまう場合が多いのですが、時間がかかってしまうため、重心系を用いて定性的に考察させる問題であることに気付くことが第一段階として必要です。一般的な問題集の解答においても、相対運動への理解が足りておらず、無駄な計算を重ねていることが多々あり、注意が必要です。

 

②第2問 電磁気学
 電磁誘導、コンデンサーが頻出分野です。電磁気学はそもそも扱う現象自体に実感を得にくく、利用する式の数も物理にしては多く、苦手な受験生が多いかもしれません。しかし、そのためか、力学に比べて素直な出題のされ方が多く、電流、電荷、電位と力の関係を一度しっかりと理解してしまえば、得点源となり得ます。

 

③第3問 熱力学/波動
 熱力学は見慣れぬ出題がされやすく、また、計算量が多く、得点効率を見極めて問題を解くか否かを選択することも必要です。
気体の状態方程式やエネルギー保存則、その他様々な関係式を用いて丁寧に計算することが求められます。リード文や問題文の誘導に丁寧に従いましょう。
 波動は計算量が少ないことが多く、本質的な理解を深めておけば、時間を稼ぐことができます。波の干渉やドップラー効果などの典型題は即座に立式できるよう演習を重ねてください。

 安定して得点するためには、漫然と解いてはいけません。思いつきに頼っていても十分に解ける難易度の問題が多いことは事実なのですが、本番の空気に飲まれてしまっては普段の発想力は全く発揮できません。本番の精神状態でも落ち着いて問題を解くためには、発想力に極力頼らない思考を確立してください。

 日々の演習の中で、次の四つないしは五つのプロセスを意識しましょう。

 

①問題設定を把握する。

 →与えられているパラメーターは何か。求めるパラメーターは何か。何らかの変化(物体の移動、衝突、放電、充電、熱の移動など)はあるのか。

 

②何らかの変化があるのであれば、その変化の前後で不変なものに注目する。

 →運動エネルギー、運動量、電荷、電流、熱、温度、圧力など。不変なパラメーターについての変化前後の等式を立式する。

 

③その状況で成り立つ等式を探す。

 →力の釣り合いの式、キルヒホッフの式、状態方程式などが成り立つならば、立式する。

 

④求めたい値はどのような値を使ってどのような式から導出されるのかを考える。

 →求める値から逆算し、答えを直接求めるのに必要なパラメーターや式を想定する。

 

⑤想定されるパラメーターを順次計算する。

 

 基礎的な参考書や問題集に必要な知識は網羅されていますから、一冊こなせば東大の入試問題も解けるはずです。しかし、現実問題としては、問題を解くのには慣れが必要ですから、上記の事項を強く意識して演習を重ね、思考力を育んでください。

 

・微分積分

 物理においては、様々な概念が微分積分を用いて定義されています。高校の教科書では「細かく分割」だとか、「面積」などという曖昧な定義がなされていますが、本質的には微分と積分を用いて物理学は成り立っています。微分積分のイメージをしっかりと理解することは物理の様々な事象に対する理解を深化させ、問題を解く上でも思考の一助になるはずです。入試という観点から見ても、物理を学ぶというもっと大きな観点から見ても、微分積分を用いて学習することを強くおすすめします。授業では微分積分を使わない高校の先生も、大学では微分積分を用いた物理の体系を勉強しているはずですから、分からないことがあれば積極的に聞いてみましょう。

 なお、参考までに、駿台では微分積分を用いて、河合では用いずに授業をするようです。テキストもそれぞれその方針に則って作られているそうです。
*追記
この箇所が誤りであるとのご指摘を頂きました。同じ予備校にも様々な講師がいますから、一概に言い切ることはできません。
誤解を招く表現を用いてしまい、申し訳ありません。

・『物理重要問題集』(数研出版)
…入試物理に必要な要素が一通り網羅されています。いわゆる典型題が集められているもので、東大の入試問題も分解していけば必ず重要問題集に載っている程度の問題に帰着するはずです。重要問題集一冊をしっかりとこなせば東大の入試にも十分対応することが可能です。教科書の確認として授業に併行して解き、間違えた問題、即答できなかった問題には印をつけて、印を付けた問題をもう一度解きましょう。この作業を繰り返し、完璧にこなせるようになったら、過去問で演習を重ねて下さい。

・合格者平均点

 理一は例年40~45点ほど、理三は例年50点前後だと言われています。安定して得点することが可能な科目なので、理一/二志望の受験生も50点を目指しましょう。。

 ただし、もう一方の選択科目との兼ね合い次第なので、物理の得点に拘ることには意味がありません。理科の合計得点として、理一/二は90点、理三は105点程度を目安にすると良いでしょう。

 

・時間配分の例

 理科二科目併せて150分なので、もう一方の選択科目との兼ね合いもありますが、一般的に物理にはそれほど時間を取らない人が多いようです。

 大問それぞれを20分前後で解き、計60分程度を目安に解きましょう。

 

・答案の書き方

 物理の事象に対して、立式せずとも直観的に結果が分かってしまうことは多々あるはずです。そのような場合は、簡潔な日本語の文章を添えて結果を記してしまって構いません。

    (書き方の例1)対称性より、A=B.

    (書き方の例2)物体AはB点とC点の間を往復運動するので、(エネルギー保存の式).

 対称性を考えると、無駄な計算を省けることがしばしばあります。対称性を論理的に示すのは案外大変です。しかし、教科書を読めば分かる通り、高校物理はそれほど論理を重要視していません。正しいことを書いていれば、よほど論理に飛躍がない限り減点はない(あるいは小さい)と思われます。対称性、物体の運動や電荷の移動をはじめとする定性的な考察はどんどん利用していきましょう。

また、答案に途中式を書く必要はありません。答案が汚くなってしまうので、途中式は省き、簡潔に根拠と立式、そして答えのみを記述しましょう。

 計算ミスをなくす最も手軽な方法は綺麗な答案を作成することです。簡潔で見やすい答案を心がけてください。

筆者の2014年度東大入試の答案を再現したものを載せておくので、あまり綺麗なものではありませんが、参考にしてください。入試当日に再現したものをコピーしているので、かなり正確に再現しているはずです。なお、第二問Ⅱ(3)及び(4)が無回答で、53点でした。これほど簡潔に記述しても、記述による減点はないものと思われます。

 

 

 

・当日の様子

 理科は2日目の1コマ目の試験です。150分使って理科の選択した二科目を解答します。

まず、解答用紙、問題用紙が配布されると、選択科目に合わせて二枚の解答用紙の科目欄を切り取ります。はさみは受験生が各自持参します。忘れた場合は貸してもらえますので、試験官に申し出て下さい。指示は入りませんが、机が非常に狭いので、はさみは鞄にしまいましょう。

 試験が開始されたら、まずは二科目とも大雑把に内容を確認しましょう。恐らく事前に決めているであろう順序に従って落ち着いて解答して下さい。