京大世界史     文責/あんちょむち

1.概要

2.傾向

3.勉強法

4.お勧め参考書・問題集

5.その他

・試験時間:90分間

・配点:100点満点(学部によって圧縮されるものもあり)

・構成:第一問300字論述、第二問短答(短文論述含む)、第三問300字論述、第四問短答(短文論述含む)

・解答用紙:論述は見開き左に解答、見開き右は白紙になっており、下書きなどが取れる。マスのサイズは標準的。

◎大問別の傾向

第三、四問が西洋史、第一、二問がその他の地域からの出題が基本的なスタイル。大問ごとに詳述する。

 

第一問:非西洋の300字論述(20点)

中国史やイスラーム史などからの出題。時代や分野は様々。それこそ春秋戦国から共産党まで、文化史や広い地域の交流についてなど幅広くカバーする必要がある。

 

第二問:非西洋の短答(30点)

A、Bの二つに分かれている。

基本的な用語を答える問題と、短文論述がある。短文論述は二行程度のものを二題ほど。

決して難しい問題はないが、前述の通り幅広いテーマから出題される。

選択問題はほぼ見受けられない。年号を答える問題はまれに出る。

 

第三問:西洋の300字論述(20点)

広く西洋史からの出題。ギリシア・ローマや戦間期の出題が多いという噂を聞いたこともあるが、それに特化して勉強するほど頻出というわけではない。

 

第四問:西洋の短答(30点)

第二問と同じスタイル。こちらはA、B、Cの三つに分かれている。たまに西洋との関連で東南アジアやアフリカなどが出題されることもあるが、解くうえで問題はないだろう。ちなみに短答問題は一問1点。もちろんその分問題数が多い。

 

◎難易度

難問は出ない。全く出ないわけではないが、数問程度。標準的な勉強をしていれば合格点は取れる。論述も基本的な勉強をしていれば(20点満点とはいかなくても)そこそこの点数を稼げる。

例えば早慶のような重箱の隅系の問題も出ないし、一橋のように何を答えればいいのかわからない論述、東大のちゃんと書いた(はずな)のに3点しかもらえなかったりする論述みたいなものではない。ただし上述のように範囲が広くて、まんべんなく勉強する必要はある。ある個所を捨てて、そこが論述で出ると20点すべて失うことになるので、精神的につらい。

 

地図問題や、短文記述は年度によって出題数が異なる。地図問題は全くでない年もある。基本的な出題スタイルは変わらないが、例年とは毛色の違った問題が出ても対処できるように心の準備をしておいたほうがいい。筆者が受験した2014年度の問題は地名を答える問題が多かった。

京大の問題はオーソドックスなもので、普通に勉強していれば点数が取れる。しかし、世界史という教科は普通に勉強するのが難しい教科でもあるので、それも含めて述べる。

 

基本的にどの教科でも、理解→暗記→演習、という流れは変わらない。世界史は暗記の比重が大きいだけである。だか、だからと言って理解をないがしろにしてはならない。

 

ここでいう理解とは、単に1775年にアメリカ独立戦争が起こった。というだけのものではない。

砂糖法、印紙法などイギリス本国からの重税がかさなり、本国とアメリカ植民地との対立が激化していく。その中でボストン茶会事件が起こり、両者の緊張が最大までたかまり、満を持して1775年に独立戦争の火蓋が切られるのである。このように、因果関係をひとつの流れとして意識し、それをまとめて覚えることが効果的である。

さらに、京大受験生ならばより大きな流れについても意識しておくとよい。

15世紀に大航海時代が幕を開け、北アメリカはフランスとイギリスがともに勢力圏を増やしてゆく。18世紀のヨーロッパでの戦争に附随して、イギリスとフランスは植民地でも戦争をする。そしてフレンチ=インディアン戦争の結果フランスはアメリカから撤退する。フランスからの脅威に対抗すべく(少なくとも形の上では)協力していたイギリス本国と植民地の間の、対立が表面化する。さらに度重なる戦争で財政が疲弊したイギリスは、植民地に重税を課すようになる……

といったように、多地域間、多時代間でのつながりを意識すると、論述問題も抵抗なく解けるようになる。

 

さて、そこで具体的な方法である。学校がちゃんとしているところなら、授業を基本にして勉強するのがよい。世界史の教師もピンキリだが、数学などと比べると授業を聞いてわからない率は低いと思う。まずは授業をしっかり聞いて理解する。もし先生がひどい人だったら、『青木世界史B講義の実況中継』(語学春秋社)や、『ナビゲーター 世界史B』(山川出版社)などを読んで補完する必要がある。予備校に通っている人はそちらに合わせてもいいが、(カリキュラム的に受験までに通史が終わる予定なら)学校のほうがよいと思う。

そして、ノートをとろう。教科書や板書は、必要最低限の淡白なことしか書かれない。先ほど見たように、多面的な視点から世界史を眺めるには、それだけでは足りない(それにそれだけでは非常につまらない)。先生のおもしろ小話や、資料集に乗っている見やすい図表を一つにまとめることで、複雑に絡み合うものが整理されるし、後で見返すときにも便利だろう。情報をリンクさせることで、多地域、多時代にまたがる問題でも対応できる力がつく。

ノートと書いたが、授業プリントでも、塾のテキストでも、市販の参考書でもなんでもいい。自分がわかりやすいように情報を書き込んでカスタマイズし、それをもとに暗記や復習をするのだ。

知識の量は多ければ多いほうがいい。先に書いたことと矛盾するが、ここでいう知識とは重箱系の知識ではなく、つながる系の知識のことである。丸暗記よりもつながり、理屈で覚えたほうが覚えやすいし、忘れない。し、楽しい(これ大事)。頭の中に引っ掛かりを作っておくことで、思い出しやすくなる。

 

そしたら、問題演習をする。問題集を繰り返し解く。世界史に関しては、一冊を極めることにこだわらずに何冊かやるのも効果的である。問題演習をする中で、知識が整理されたり、覚えていなかったことを覚えられたりもする。また、問題を解く中で何か引っかかったことがあれば、用語集や資料集を活用して納得のいくまで調べること。

世界史の学習の基本はこれらをひたすら繰り返すことである。一回覚えても忘れるのが人の常である。その分、長期的な計画を立てて効率的に勉強を進めることで人よりも優位に立てる。

 

◎論述

上の勉強をしていればある程度は書けるようになると思う。しかし、得点をとるにはそれだけでは足りない。『世界史論述練習帳』(パレード)や『判る!解ける!書ける!世界史論述』(河合出版)などを読んで、論述問題への取り組み方を習得しよう。知識がしっかりしていれば京大の論述は短期間で武器となりうる。逆に知識があやふやなままだといくら論述の練習をしたところで身につかない。まずは基礎を固めるのが先決。

 

◎年号と文化史

これは、理屈ではなく覚えるしかない。もちろん理屈もあるけどそんなにない。

自分でゴロ合わせを作ろう。市販のゴロ帳はやっていて悲しくなる(個人差有り。自作のほうが悲しくなる人も多数)。ゴロを作るのにもうまい人と下手な人がいるが、下手な人でも作っているとある日ふとできるようになっている自分に出会える。

ちなみに年号を覚える裏ワザその2としてケータイの暗証番号にしてしまうという手もある。毎日触れるので、必ず覚えられる。ただし効率が悪い、一度に一つしかできないので、これだけでは間に合わない。

京大の問題では、論述で文化史が出される場合はその時代的な特徴だったり、他との比較ができるものが出される。したがって文化史の勉強するときも他と関連づけながらやるのがよい。

 

◎過去問

傾向を知るために早めに一回やっておくのがよい。ただ、京大模試でも同様の形式の問題が解けるので、それで済ませる方法もある。同じ問題はほぼ出ないが、直前には慣れるためにも論述の練習のためにもやりこもう。知識が不十分な状態から過去問を解き漁ってもあまり効果はない。基礎が大事である。ここで書くまでもないが、京大模試は多く受けておいたほうがよい。

 

◎時期

学校や予備校をペースメーカーにして、それに合わせてやる。定期試験でガッツリ暗記しておくと後が楽になる。“夏までに通史をおわらせる”ことを受験の常識のように語る先生もいるが、特に必須というわけではないだろう。適当に2周やるのとみっちり1周やるのでは変わりはない。センター対策は特に必要ない人が多数だと思う。ただし現代史や文化史に手を付けていなかった人はセンター前にやってしまう。論述はセンター後からでも間に合うが、短文論述くらいのものはこまめに練習しておくのがよい。

◎教科書類

・『詳説世界史』(山川出版社)

…おなじみの教科書。正直なくても何とかなる

・『世界史B用語集』(山川出版社)

…こちらは必須。常に手元に置いておきたい。

・「資料集」

…学校で配布されるもので十分。なければ本屋さんで気に入ったものを一冊買っておくのがよい。

 

◎教科書系:教科書のように文章で(でも教科書よりもわかりやすく)書かれているもの

・『ナビゲーター 世界史B』(山川出版社)

…全3冊。各所で評価が高い。なぜか日本史のほうはそうでもない

・『青木世界史B講義の実況中継』(語学春秋社)

…全5冊。細かいところまで触れられているが、実況中継は好みが分かれるので、本屋さんで手に取って吟味してほしい。

・『荒巻の新世界史の見取り図』(東進ブックス)

…全3冊。カラフルでビジュアル的に見やすい。読み物としても面白い。

 

◎まとめ系:ノート代わりにもなる、きれいにまとめられているもの

・『詳説世界史学習ノート世界史』(山川出版社)

…上下巻。サイズも大きく使いやすい。

 

◎問題集

・『オンリーワン世界史完成ゼミナール』(代々木ライブラリー)

…全2冊。標準的なレベルの問題集。解説のところについているまとめが秀逸。語句選択問題が半分くらいを占めるが、語句選択問題は選択肢を見なければ短答問題と同じなので気にしないでやることもできる(もちろんこのやり方はやりづらい)。

・『実力をつける世界史100題』(Z会出版)

…難しすぎるきらいはあるが解説が非常に詳しいので、自分のやるべき問題を見分けながらやれれば効果的に使える。難関私立大学との併願の人はこれを使うのがいいのでは

・『はじめる世界史要点&演習』(Z会出版)

…いい問題集だが、これ一冊では演習不足感が否めない。まずこれを仕上げてからもう一冊手を出すのも一手。

・『青木世界史Bの講義実況中継』(語学春秋社)

…上のものの付属問題集。全四冊。CDの解説付きという珍しいもの。しかしCDの解説はそれほど良いものではないし、聞くのが正直面倒くさくなる。ただ問題は良問揃いだしボリュームもある。

 

◎問題集(その他)

・『ビジュアル世界史問題集』(駿台文庫)

…地図問題に特化したユニークな問題集。地図問題はこれ一冊で完璧。京大は地図問題のウェイトがあまり高くないので必須ではないが、センター試験などにも対応できるようになる。また、まとめ用の白地図として使ったりもできる。

・『タテ×ヨコから見る世界史問題集』(学研)、『フロンティア世界史』(代々木ライブラリー)

…いわゆるテーマ史の問題集。ただし、テーマ史は普通の勉強ができていれば特に対策しなくてもできるものだということは知っておいてほしい。よほど余裕があればやる、程度のものか。

 

◎論述

・『世界史論述練習帳』(パレード)

…論述の書き方、やってはいけないことを教えてくれる数少ない参考書の一つ。著者の言うことは大げさすぎる印象を受けるので、話半分に読むのがいいかも。ただ論述を課される受験生は是非読んでおきたい一冊。巻末に60字程度の小論述の問題がついていて、それも練習用に役に立つ。

・『判る!解ける!書ける!世界史論述』(河合出版)

…メモの書き方から始め、実際にどう手を動かせばいいのかを教えてくれる一冊。問題数も豊富で重宝する。レイアウトも見やすい。

 

◎その他

『流れ図で攻略詳説世界史B』(山川出版社)

…ビジュアル的にまとめられている。これを見やすいと思うかごちゃごちゃで見づらいと思うかは人による。

・『青木祐司のトークで攻略世界史B』(語学春秋社)

…講義CD付の参考書(しかも12時間も!)。講義自体は時間の制約もありさらっと済まされるが、一通り抑えられている。耳から学習したい人にはお勧め。また、白紙部分が多いので、これをまとめノート代わりに使うこともできる。

・『タテから見る世界史』、『ヨコから見る世界史』(学研)

…独特の視点でまとめられた世界史。よく整理されている。ただ、初学者が読むには解説が足りなく、ある程度勉強した人が読むには情報量が少ないので、使いどころが難しい。

 

<Webサイト>

世界史の教材はインターネット上にもたくさん落ちている。引退した高校教師や、教育格差を無くそうとする人たちがボランティアで作ってくれたものだ。無料で利用できるので、これを利用するのもよいだろう。注意点として、厳密性を求めない、Web上のものにすべて頼りはしない、(面白いコンテンツが多いが)はまって時間を無駄に使わない、ことを忘れないでほしい。逆に小ネタや変わった見方を知るにはもってこいの手段である。

 

「世界史講義録」

…明日話したくなるような小ネタが豊富で、ついつい長時間読んでしまう面白い講義。授業で学んだ内容のイメージを膨らませるのによい。

 

「もぎせか」

…予備校講師のもの。ゴロ合わせや問題も載っているが、一番は実際の講義の録音。非常に秀逸。作り話かと疑ってしまうほど良くできた、引き込まれる話をしてくれる。

 

「manavee」

…大学生が動画で授業をする。素人なのでピンキリだが、地域史など痛いところに手が届くような授業もある。これだけで勉強しようというのはさすがに無謀だが、世界史に限らず全教科あるので一度見る価値はある。

 

「世界史授業動画―世界史20話プロジェクト―」

…動画でわかりやすく説明してくれている。(古代史がやけに充実している割には、、、というサイトが多い中)通史を通して厚く取り扱っている。

 

 

他にも探せばいろいろある。Twitterや掲示板などで世界史ネタを見るのを受験勉強の息抜きにするのも良いだろう。

・一問一答

これを使って学習するかは個人の勉強スタイルによる。電車などではやりやすいだろう。ちなみに定番の山川、網羅の東進、見やすいZ会が有名。山川とZ会はAndroid/iPhoneアプリでもリリースされており、気が向いたときにいつでもできるという点ではこちらもおすすめ。

 

・切磋琢磨

友達や恋人同士で問題を出し合うのはドラマなどでおなじみだが、これは実際に有効。一緒に勉強することで励みになるし、自分の知らなかったことや勘違いを知れるチャンス。ただし、マニアックすぎる問題を出してひかれないように注意してほしい。

 

・時間配分

90分。問題は多いが普通に解けば解き終わる。論述にそこまで長い時間をかけられるわけではないので、ある程度練習を積んでおく必要がある。

一例:第二、四問を最初の20分で、第一、三問を30分ずつで解く。残り10分で見直し。あるいは(最後の科目でもあるので)感傷に浸る時間にする。

 

・採点

京大の採点は厳しいことで有名だが、世界史の論述の採点は国語や数学に比べると厳しいものではない、という感触である。国語や数学は学校や予備校の先生に採点してもらうことを勧める(筆者はこれをせずにいたら開示で思っていたよりできていなくてショックだった)が、世界史に関しては模試の採点基準や参考書を見てどういった仕組みになっているのか知れば、あとは大体自分の手ごたえ通りのようである。もちろん採点してアドバイスをもらうに越したことはないが、先生が嫌いな人、自力のみで合格したい人は必須というわけではない。

 

・古い過去問について

一昔前の問題は、答えは簡単だが問われ方が難しいものが多かった。進路室などで古びた赤本を探してみてほしい。最近はそうでもなくなったが、練習に良いと思うので解いておくのをお勧めする。

 

・目標点

周りの世界史選択者を見ると8割強取れている人もちらほらいる。勉強すればそれだけ点が取れる問題である。日本史と比べると点が取りやすいという(根も葉もない)うわさも聞いたことがある。他教科との兼ね合いが一番だが、7割程度を一つの目標にするのがいいだろう。苦手な人はあせってできもしない論述対策に手を出すよりは大問二、四でしっかり60点とることをまず考えよう。

 

 

最後に、世界史はやればやるだけ点につながる教科だし、楽しいのでいくらでもやってしまう人が多い。それは構わないが、世界史に時間をかけすぎて他教科に手が回らなくなっては本末転倒である。京大の合否は世界史では決まらない。世界史はいかに時間をかけずにそれなりの点数をとれるかが勝負となることを肝に銘じてほしい。