メンテナンスのノウハウ (その1)

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私がメンテナンスから得たノウハウを紹介します。

私がコリンズのメンテナンスで必要だと感じる測定機を紹介します。測定機は無いと作業の質を損ないますが、利用目的と利用頻度を考えながら余り過剰にならない程度の物を揃えることがコツと言えます。

☆ SSG (HP8657D)

周波数範囲:100KHz〜1GHz。出力:−143.5dBm〜+13dBm。エージングレート:1×10^−9。周波数分解能:1Hz。耐入力電力:50W。周波数範囲は100MHzも有ればアップバージョンの機械の調整も併せて可能ですが、最近のSSGならこれ以上の周波数範囲があり問題は有りません。出力はどこまで絞れるかに着目すると良く、−127dBm位まで絞れれば感度調整に役立つと思います。また、μV(EMF)でも設定出来ると換算表を使いVに変換刷る必要がなく便利です。エージングレートはオプションの高安定度基準発振が付いているため高精度ですが、10×^−7も有れば良いと思います。誤って電力を入力したときの為に耐入力電力が大きい機械式アッテネータが良く、電子式アッテネータは耐入力が低く、一瞬の電力入力でもアッテネータを破壊するので、取り扱いに気を使います。

今までに、MG443A、4421B、MG3700A、8657D、8642A、MG3901Aを使用して来ました。当初は、上記の様な仕様を気にしていましたが、コリンズのメンテナンスを行う上ではどれも使用感は大きくは違わず、結局重量が軽く、FANの音が静かな機械が一番だと思う様になりました。この意味でMG3901A、4421Bがお勧めです。理想を言えば4421Bですが市場価格が高いです。前述の通り、使用時には高圧に触れたり誤って送信しないように注意を払いますが、それでも不注意でアッテネータを壊す事があるので、最近は値段が高いSSGは使わないようにしています。この意味で、MG3901Aがベストではないでしょうか。


 
☆ オシロスコープ (TD3014)

デジタルオシロスコープ。最大測定周波数100MHz。一番の特徴は小型軽量である事。アナログオシロは波形が安定しない場合に、残光により毎回の掃引波形が短時間残り波形の揺らぎが目で確認できますが、デジタルオシロは原理的にこの様には見えず、これが欠点と言われていました。この機種であるフォスファーオシロスコープ(テクトロニクスの商品名)はデジタル的な処理により、アナログオシロと遜色なく波形の揺らぎが見れます。これを選択のポイントとしても良いかと思います。


 
☆ 周波数カウンター (53181A)

最大測定周波数225MHz。周波数カウンターは高い精度の物を使いたく、高安定度基準発信機を内蔵しています。周波数カウンターは感度があまり良くないので、時々プリアンプ(10dB程度)で補完すると便利です。この機械には装備していませんが、2チャンネルの周波数カウントの比較が出来ると基準発振の鳴き合わせに便利だと思います。


 
☆ 低周波オシレータ (AG-252)

周波数範囲:10Hz〜1MHz、歪率:0.01%。低周波段の調整、トラブルシューティングに必須。最近は、音に拘る方が多いので、この用途に使用するためには、低歪率の仕様の物を選択すると良い。この機種は、周波数表示やアッテネータの減衰度が正確で使いやすい。


 
☆ ダミーロード (DA515/U)

連続500W入力。30S1の1KWを入力して調整をしていても、殆ど暖かくならない。リニアアンプを調整する時にはこの程度のダミーロードがあれば安心。


 
☆ ツートーン・ジェネレータ (キット)

8種類のAFの組み合わせでツートーンを発信。30S1のマルチメータの調整をする為にテクノラボのキットを購入し作成した。PICを使った発信機で、アナログの発信器と比べ発信が非常に安定していて、発信周波数の選択もできる。


 
☆ スライダック (SD135)

出力電圧0〜120V。容量500VA。通常は使わない、新たに機械を調達してレストア実施後に最初に電源を投入する時には必須アイテムとなる。この時は、80Vくらいから徐々に電圧を上げて行き、最終的には115Vまで電圧を上げる。


 
☆ パワー計 (43)

解説は不要と思います。通常は、312B-4のパワー計で出力を監視しているが、誤差を少なく測定をしたい時にはこのパワー計をダミーロードと組み合わせて使う。


 
☆ デジタル・マルチメータ (CD772)

デジタル表示で便利な事より、今やメンテナンス・ツールの常識となっている。特に、高インピーダンス回路の電圧測定には必需品。ただ、電圧のピークを出す等の相対値を測定する場合は、アナログ式の電子電圧計が欲しいところですが、最近は、この不便さを補完するために、バーグラフ付きの製品もある。


 
☆ アナログ・テスター (EM7000)

デジタル・マルチメータでは測定がしにくい、ゆっくり変化する/急激に変化する差の観測、最大点/最小点の測定に使用する。この機種は、入力回路にFETを使用して入力インピーダンスを高く取り、微小電圧も測定できる。


コリンズのメンテナンスで、あれば便利だと感じる測定機を紹介します。

☆ LCメータ (LC200A)

LC測定の必要性を感じる時は余り多くはありませんが、あれば便利な測定機です。測定精度を左右する一要因として測定信号源の発振周波数がありますが、廉価ながら500Hz(Loレンジ)、500KHz(Hiレジ)と高く、1pF〜1μF、1μH〜100mHで1%の測定精度が期待できます(この範囲外は5%)。因みに、一般的に廉価なLCメータは10Hz、10KHzが使われています。


 

☆ スペアナ (MS8901A)

この機種はスペアナ専用機ではないためか比較的廉価で入手出来、しかもスペアナ専用機(MS2681A)と、オプションのTGが無い他は同一仕様、同一機能なので、お買い得な機種と言えます(ピークホールド機能を使用しSSGをスイープさせれば、TG使用時と同様なf特を表示可能)。オプションでルビジューム基準発信器、FFT機能が付いています。以前はPCスペアナであるUSBSA44Bを使用していましたが、KWM380のIFフィルター調整、RF段の小信号の検出に使用した位で、利用頻度は高くありませんでした。しかし、一度は使ってみたかった測定機なので、理屈はともかく購入してしまいました。PCスペアナと比較すると圧倒的にノイズフロアが低く掃引が早いですが、私のメンテナンスにはここまでの仕様は必要なく、単なる自己満足だと言えます。ここが道楽たる所以でしょうか?


 

☆ ズーム電源 (EX-375U2)

0〜500V、0〜2AのCC、CV。幅広い電圧発生が可能な事より、真空管の機械では、電源周りの障害の切り分けをしたい時にあれば便利です。


 

☆ モニタースコープ (SB-610)

測定機とは少し趣を異にするが、古い機械を使用する時には電波の質に気を使います。過変調によるスプリアス防止に送信時はALCメータで音声レベルを監視するが、ALCメータは追従が遅く、情報量が少ないので、送信波形が直接監視できるモニタースコープで監視をすると良い。


 

☆ ディップメータ (DMC-200)

普段は余り使いませんが、コイルの巻き直しではディップメータが無いとお手上げになります。周波数がデジタル表示のため、2桁以上の精度でインダクタンス測定も可能です。換算式を使い読み取り周波数をインダクタンスに変換します。


 

☆ 交流電流計とスライダックス

古い機械の起動やヒューズが飛んだ機械の調査では、焼損事故を防止するために、電源電流を監視しながら電圧を徐々に上げて起動します。この為、この組み合わせが必須となります。


私がコリンズのメンテナンスに使っていて、便利だあるいは必要だと感じる工具類を紹介します。

☆ ブリストルレンチ (左)

コリンズの機械はつまみやシャフト等の固定に特殊な形のネジを使っています。このネジを外す為に必須の工具です。

☆ メータネジ外し (中)

コリンズのメータの下段のネジは、通常の工具では届かず、写真の様な工具を使っています。これは、6mmのT型ボックスレンチの柄の片側を切り落としてもので、IFTの隙間に横たえ、メータまでアクセスします。

☆ ボックスレンチ (右)

ボリウムやロータリースイッチの止めネジを外す為に使います。通常の13mmのボックスレンチのエレメントです。ただ、スイッチ類のシャフトの突出より深く、パネルの穴と止めネジの隙間に入る位にボックスの肉厚が薄い事がポイントです。


 
☆ コア調整棒 (左)

IFT等のコアを調整するプラスティックの工具です。2段になっているIFTの調整をするために真中が細くなっている物で、異なるサイズがの一式を購入しておけば困りません。

☆ セラミック・ドライバー (中)

マイナス型になっているコアを調整するのに必需品です。通常の金属のドライバーでは、調整が終わりドライバーを抜いた時に調整値が動いてしまい、調整に苦労する場合があります。特に、調整点がクリティカルなトリマ類の調整は金属ドライバーでは調整が困難です。

☆ 半田吸引器 (右)

部品をすばやく端子から外すのに必須のツールです。半田を溶かし吸引して半田を除去し、残りの半田が固まらないうちにリード線を揺さぶると、大抵の場合は端子からリード線が外れるようになります。


 
☆ 綿棒 (左)

この写真は、説明の為に綿棒の先にナットを差し込んだところです。上の工具で外したメータの下段のナットは、取りつける時もアプローチがし難くなかなか厄介です。この様に綿棒にゆるくナットをねじ込み、綿棒でネジ部にアプローチしてはめれば、楽に作業が出来ます。また、綿棒は前面パネルの塗装のタッチアップにも使います。ペイントを綿棒につけ、タッチアップする場所を軽く叩きながら徐々に重ね塗りすると、タッチアップの痕が余り目立たなくなります。

☆ ピンセット付きドライバー (右)

これもアプローチしにくい場所のネジを締める工具です。私は、PTOの取り付けネジを締める時に使います。


 
☆ 半田吸い取り器

HAKKO808自動半田吸い取り機です。モーターで半田を吸引するので半田を素早く取ることが出来、端子や部品を傷めるリスクを最小限に出来ます。一度、使うと手放せなくなります。アメリカでも絶大な人気があります。(上の写真)

プリント基板等、比較的に半田を取りやすい部位には半田ごて付きの半田吸い取り器を使う場合も有ります。なんといっても廉価で、オークションなどで数千円程度で販売されています。(下の写真)


私がコリンズのメンテナンスに使っていて、便利だあるいは必要だと感じる薬品類を紹介します。

☆ マシン油 (左)

良質のマシン油を使っています。

☆ モリブデン・グリス (中)

可動部はほぼこのグリスを使っています。古いグリスは酸化していたり、砂などを含んでいて可動部を痛めるので、取り除いてから塗るのが鉄則です。

☆ 接点復活剤 (右)

古い機械に使うと功罪がありますが、使い方を間違えなければ効果がある薬品だと思います。絶対にそのまま部品に吹きかけることは避けるべきです。ベークを劣化させます。私は厚手の紙に含ませて、接点を磨くようにして使います。


 
☆ アンモニア (左)

機械を水洗いする時に10〜20倍に希釈し、霧吹きで吹きかけるか、刷毛で塗るかして使います。特にヤニの除去に効果があり、茶色い水が機械から流れてきます。薬局で売っています。

☆ ピカール (中)

表面が腐食して汚れているクリスタルを磨く時に使います。アルミインレイをこれで磨くと黒く痕がつくの付くので磨いてはいけません。(右の写真は、磨いた後のクリスタルと、磨く前のクリスタル)

☆ エレクトリック・クリーナー (右)

揮発性溶液のスプレーで、埃や油等によるスイッチ類の汚れを洗浄するときに使います。短時間で揮発し、殆どのケースで部品を痛める事もありませんが、プラスティックや塗装面等、使えない部分もあります。自動車用品売り場で売っています。


 
☆ ペイント (左)

左はスプレー式ペイントで、再塗装をするときに使います。再塗装は、2〜30cm位離れた位置より軽く塗り、乾かし再度塗る。これを3回繰り返すのが上手に塗るこつです。右はタッチアップ用のペイントで、綿棒に付け徐々に重ね塗りをします。

☆ コンパウンド (中)

塗装の仕上げに使います。塗装後、1週間位かけ塗装面の強度が出たところで、コンパウンドを使い磨きます。粗目、細目、極細があり、塗装面の状況によりどれから使うかを決め、最後は極細で仕上げます。自動車用品売り場で売っています。

☆ ワックス (右)

コンパウンドで仕上げた後に磨きをかけるのと、塗装面の保護のために使います。


 
☆ 抵抗

これは薬品ではありませんが、ついでに紹介しておきます。コリンズの機械ではこの1/2Wのソリッド抵抗を多用しているので準備しておくと便利です。エフアール・ラジオラボなどで調達が出来ます。