DDS VFOの適用

Top > コリンズのメンテナンス > DDS VFOの適用
 
 ボートアンカーでノスタルジアに浸る時に気になるのが周波数偏差。特にローバンドでオンエアする場合は気を使う。これを解消するために、野暮とは知りながらDDSの適用に踏み切った。ここでは、SラインへDDSを適用した時に気付いたポイントをまとめてみた。

1.DDS適用の狙い

 一般的にDDS適用の狙いは次の2点にある。
  1. QRHの防止
  2. 正確なリードアウト

1.はウォームアップ後の周波数偏差が数十Hz程度(個体により異なるが)なので、低音が出ないコリンズの機械では許容範囲だと考えられる。しかし、2.は大変に厳しい。例えば、3.5MHzでは3KHzおきに「ドンビシャ」(例えば、3.568000MHz)に出ている局が体勢を占めているので、アナログのアバウトなリードアウトでは対応が出来ない。これを解消するのが私の狙いであった。


2.DDSに求める機能要件

 円滑な運用をする為に必要なDDSの機能要件を列挙しておく。
  1. DDSは一般的に発振周波数を表示するので、送信周波数を表示するためにオフセット周波数が設定できること。例えば、7.100000MHzを送信する場合はDDSの発振周波数は2.600000MHzとなるので、4.500000MHzがオフセット周波数となる。
  2. Sライン(KWM-2)はVFOが逆ヘテロダインなので、上記の表示周波数(送信周波数)を上げると発振周波数が下がる機能があること。
  3. 上記のオフセット周波数はバンドによって異なるので、各バンドでオフセット周波数を設定する為に、これらがメモリーできること。これが出来ない場合は再起動の都度、発振周波数、オフセット周波数の設定が必要となる。
  4. 起動時の初期発振周波数、オフセット周波数、等が設定出来ること。これが出来ないと、再起動の都度、メモリーを呼び出してから運用を開始する事が必要となる。

3.DDSの適用範囲

 DDSの適用範囲は次の2通り考えられる。
  1. VFOのみ適用する
  2. VFOとバンド発振に適用する 

 2.は機能的には有利だが、複雑になりDDSの選択範囲が狭まる。1.が実用範囲ならこちらを選択する方が賢い。この方式で律速となるのは親機のバンド発振の周波数偏差である。ウォームアップ後の周波数偏差が10Hz程度なら十分に実用的だと考えてよい。これを予備実験で検証をしてみた。


4.予備実験

 32S-3の外部PTO入力にSSGの信号を入力し予備実験を実施した。これをKWM-2で行う場合はPTOの6AU6を取り外す必要がある。32S-3と75S-3をトランシーブモードとし、32S-3のVFO端子にSSGからの2.5〜2.7MHzの信号を入力する。ここで定格出力を得るVFO入力電圧も測定し、4V(P-P)という結果を得た。トランシーブモードではバンド発振は75S-3のものを使用するので、32S-3と伴に75S-3も十分にウォームアップをする。結果、周波数のドリフトは10Hz以内で、低音が余り出ていない限りにおいては、十分に「ドンピシャ」に出ていると評価ができた。

5.DDSの選択

 VFOのみの適用なので自作も考えられるが、手軽さよりキットを利用する事とした。秋月、ウェーブ電子、KEM、等が有名だが、目的に適い比較的廉価なKEMのKEM-DDS-VFO-MC180を採用した(VFO専用ならKEM-DDS-VFO-MC50で十分)。DDSに使用しているAD9851は出力が0.3V(P-P)程度と低くプリアンプが必要となる。プリアンプ製作例はネット上で多数紹介されており、その中から高速オペアンプLM7171を使用したものを選択した。これで4V(P-P)を得ている。なお、ウェーブ電子のDDSはRFプリアンプがオプションで組み込めるので、自分で作るのが面倒な場合は便利。 

DDS内部

上段:左から DDS、LM7171プリアンプ、携帯充電器。下段:表示部


6.組み上げ

 ケースはタカチUC17-5-12を使用した。この中にDDS、プリアンプ、電源を組み込み、コンパクトにまとめた。

 周波数コントロールには廉価な秋月電子のクリックタイプのロータリーエンコーダーを使用した。機械式ロータリーエンコーダーの特質であるチャタリングが発生していて、一瞬周波数が変わらない、回し始めにUP方向にも拘わらず一瞬周波数が下る、等の現象が発生していたので、対策としてA相−グランド間、B相−グランド間にそれぞれ0.01μFのコンデンサを挿入した。結果、動作がスムーズになった。

 電源には廃物の携帯電話充電器を使用、2台直列接続してDC10Vを得ている。得体の知れないスイッチング電源なので、一応、AC側にラインフィルタを挿入、シールド板でDDSとの間を隔離した(おまじない程度と思うが)。

 電源とした携帯充電器からのスイッチングノイズが受信機に混入することが発覚。特にローバンドで顕著。この為、後日スイッチング方式ではないACアダプター(9V)に交換し問題は解消した。送受信機周りの電源は出来るだけスイッチング方式を避ける方が賢明と思われる。どうしても使用する場合は特にローバンドでのノイズ発生の有無の確認をすべき。


7.設定、運用方法

 このDDSは不揮発性メモリーを持っているが、使用範囲が下記の通り限定的なので、運用上の工夫が必要となる。
  1. 起動時にはCH00に書き込んだ設定で起動する。
  2. DDSは発振周波数を表示する。送信周波数を表示させるためには「発振周波数」、「オフセット周波数」を書き込む必要がある。
  3. 「オフセット周波数」はバンド毎に異なるので、CH01〜09を利用して設定する。
  4. CH01〜09に書き込んだ設定は再起動後も保持される。
  5. Sライン(KWM-2)はVFOが逆ヘテロダイン(VFO周波数を上げると送信周波数が下がる)なので、この対応が必要となるが、CH11に「発振周波数」、「オフセット周波数」を書き込む事ことにより可能となる。逆ヘテロダインの対応はCH11だけが出来るので、2バンド以上を使用する場合は、バンドを変える都度、CH11の設定を変更する必要がある。
  6. CH11の設定は再起動でクリアされる。

 以上により、起動の都度、「発振周波数」、「オフセット周波数」の書き込みが必要に見えるが、次の工夫により都度の書き込みを逃れる事が出来る(マニュアルには掲載されていない箇所あり)。

  1. CH01に書き込んだ「発振周波数」、「オフセット周波数」を呼び出し、そのままCH11に移動すると、CH11にそれらの設定を転写する事ができる。しかも逆ヘテロダインで動作させることができる。これを応用すると、CH01に3.5MHz用の設定、CH02に7MHz用の設定を予め書き込んでおき、CH11に移動して転写する事により、都度始からCH11の設定を打ち込む手間が省ける。
  2. CH11に書き込んだ直後にCH00に移動して、CH00に書き込むと、次回の起動よりその動作となる。つまり、CH11がクリアされても次回の起動時はCH00によりCH11の動作(逆ヘテロダイン)が保証される。  

 初期状態ではUP/DWNボタンのみ有効で、ロータリーエンコーダーが中途半端に反応する(左右どちらに回してもカウントアップするなど)。この為、ロータリーエンコーダーが壊れていると誤認する恐れがあるので要注意。


8.諸特性

【周波数偏差】
 Sラインに接続したときの電源ON後の周波数偏差を示す。
 バンド発振は75S-3C(76年製)の水晶を使用しての特性だが、可也優秀であることが判る。これだけ安定していると受信機にも使いたくなる。
  • 電源ON後のドリフトは20Hzと十分に実用範囲(但し、電源ON後5分を基準としている)
  • 40分ウォームアップをすると、その後のドリフトは10Hz以内
  • 電源オン120分後でほぼ落ち着く


【スプリアス特性】
 DDS出力とPTO出力(75S-3C)のスプリアス測定結果(SPAN=20MHz)。
 DDS(左):−50dB、PTO(右):−33dB (第二高調波)。DDSはLM7171プリアンプ出力を測定(ローパスフィルター無し)。

  


【近接スプリアス】
 近接スプリアスの測定結果(SPAN=10KHz)。
 DDS(左)はPTO(右)と比較しスペクトラムが鋭い。PTOの途中のピークはハムか?

  

使用スペアナ:Signal Hound社 USB-SA44B(20dBアッテネータ挿入)


8.使用感

 マニュアル未記載の設定上のノウハウが有る事、オフセットの設定等、事前準備で悩む点は有るが、これらを超えれば快適に運用出来る。
 クリック付きロータリーエンコーダーはクリックが回転量の目安となり意外に使い易い。ダイヤルの感触(つまみの大きさ、クリックの有無、軽さ)は使用感で重要な要素である。安定性は、受信機のバンド発振を使用しているのでウォームアップが必要等、現代の機械には及ばないが十分当初の目的に適う。操作性に関しての問題は無い。稀に誤動作をするが、頻度が高くないので電源を再起動すれば良い。
 バンド発振が注入出来たりTCXOが搭載されている製品もあるが、Sラインとのバランスを考えると本製品で十分で、コストパフォーマンスに優れている。高級機能を志向するなら、至れり尽くせりのウェーブ電子の製品を薦める。