75S-3の受信音の改善

Top > コリンズのメンテナンス > 75S-3の受信音の改善
 
 75S-3は強力な信号で受信音が歪みやすく、AGCの動作やダイナミックレンジに課題がある。これに対しては、種々の改造記事が発表されているが、このなかで、軽微な改造ながら大きな効果が期待できる改造を試行し、良い結果を得たので紹介する。  

 
1.概要

<改造内容>
  1. AGCの改善 (抵抗1本追加)
  2. ダイナミックレンジの改善 (RFC1本を抵抗1本と交換)

<対象>

  1. AGCの改善
    75S-3B、75S-3C (75S-1、75S-2、75S-3、75S-3Aは時定数の回路が異なるが、試行していないが、同様な改造は可能と考えられる)
  2. ダイナミックレンジの改善
    75S-3、75S-3A、75S-3B、75S-3C (プロダクト・ディテクター:6EA8のカソード〜グランド間にRFCが接続されている機械)

 
2.AGCの改善内容

 75S-X共通の特性だが、SSBで使用する場合、近年の受信機と比較してAGCのリリース時間が短く、受信音が忙しなく聞こえ、聞き疲れする。
 これを改善する為にはAGC時定数を長くする必要があるが、次の部品が改造候補となる(右の配線図参照)。
  • C137(0.47μF) ⇒ 大きくする
  • C50(0.1μF) ⇒ 大きくする
  • R88(680kΩ) ⇒ 小さくする
  • R24とC153は時定数に関係ない

 各部品の変更の効果を考察すると次の通りとなる。

  • C137を変更するとリリース時間を長くする事ができるが、立ち上がりが鈍くなるので得策ではない。
  • C50の変更もC137の変更と同様な効果となり、更には、FAST、SLOWともリリース時間が長くなり、NG。
  • R88を変更するとSLOWのリリース時間のみ長くする事が出来る。

 R88にパラに抵抗を接続する。抵抗値はカット&トライの結果、220KΩとした。

AGC回路周辺の配線図


 
3.AGCの改善手順

 改造箇所の配置は、右の写真を参照願いたい。概ね次の手順で改造を実施する。
  1. 前面パネルのAGCスイッチの裏側を見ると、R88、C50、C137が接続されているロータリースイッチが見える。これが改造箇所である。
  2. ターゲットとなるR88は680KΩのソリッド抵抗(赤丸の中の抵抗:カラーコード:青灰黄)
  3. ワニ口クリップを用いて、R88にパラに抵抗を接続して、カット&トライで、好みの時定数を選択する。
  4. 用いる抵抗値は、当方が採用した220KΩをスタートとすると良い。また、AGC時定数を比較する受信機と聞き比べながら選択すると良い。
  5. 採用する抵抗値が決まったら、後で取り外しが出来るように、R88に抱かせるようにして半田付けをする。(赤丸の中の抵抗:カラーコード:赤赤黄)

AGC回路周辺の写真


 
4.ダイナミックレンジの改善内容

 75S-Xは、強力な信号により信号のピークで歪みが発生し、受信音がかすれた感じとなる。

 一つの原因として、AFアンプ初段(V9:6AT6)のカソードバイパスコンデンサー(C56:100μF)の劣化が有名だが、次の根本的な問題がある。

 75S-Xは強力な信号によりプロダクトディテクター(V8A:6EA8)で歪を発生する。KWM-2のプロダクトディテクターも75S-Xと同様な回路を使っているが、受信音に歪を感じない。これは、KWM-2と75S-Xのプロダクトディテクターのカソード回路に相違がある為である。KWM-2は820Ωでカソードがグランドに落ちているのに対して、75S-XはL16:100μHが使われている。L16を820Ωに交換するとカソード電圧が+51V⇒+71Vとなり、この結果、動作点が変化してダイナミックレンジが増大する。これにより、ゲインが若干下がるが、問題とならない程度と考えられる。

 本改造は、L16:100μHを取り外し、820Ωに交換する。

改造箇所の配線図


 
5.ダイナミックレンジの改善手順

 改造箇所の配置は、右の写真を参照願いたい。概ね次の手順で改造を実施する。
  1. V8の裏を見ると、8番ピンにL16が接続されているのが見える(L16の外形は右の写真参照)
  2. L16を外し、用意しておいた820Ωの抵抗を取り付ける。

以上で改造は完了する。

改造箇所の写真


 
6.改善効果
  1. AGCの改善
    改造前と比べ受信機音がずいぶんと落ち着いた感じとなる。簡単な改造の割には効果が大きいのに驚く。KWM-2も同じように、時定数の変更をすると同様な効果が得られることがわかっている。
  2. ダイナミックレンジの改善
    夜の3.5メガや7メガ等、強力な信号がひしめき合うバンドで、改造前後の75S-Xを鳴き合わせすると、信号のピークで刺々しかった音が柔らかになり、はっきりと改善効果が確認できる。

外したL16


 
【参考資料】

Collins instruction book
Collins 75S-3B and 75S-3C Receivers
Rockwell International
523-0756533-007311
7th Edition, 15 November 1975