チェコの伝説


女王リブシェとプシェミスルの物語

女王リブシェは、男の兄弟がいないために、父王クロクの死後王座についた。聡明な二人の姉、カジ王妃とテタ王妃が妹の相談相手となった。若く美しいリブシェは予言の力をもって民衆の心をとらえ、各部族の上に女王として君臨した。

ある時、女王は二人の貴族の揉め事を調停することになった。ヴィシュフラト城の中庭の菩提樹の下に王女が座り、左右に豪族が立ち並んだ。判決は公正だったが、負けた豪族は怒って女王に向かって言った。
「髪の長い女は気が短い。女は家の中で織物をしていればいいのだ。女が男を裁くなど、けしからんことだ。」

女王への公然の侮辱だったが、誰もその男を抑えようとしなかった。思い悩んだ女王リブシェは、森を逍遥して神のお告げを聞き、部族の長たちを再び城に呼び集めて言い渡した。

「あなたたちは、女性より、鉄の刀を振り回す支配者を心の中で求めているようです。私の夫を男の王として迎えなさい。私の白い馬はあなたたちをスタジツェという土地まで案内します。そこで私の夫で王となる男が、2頭の牛で畑を耕しています。私とあなたたちの願いをその人に伝えなさい。その人の名はプシェミスル。彼の子孫は末長くこの国を治めることでしょう。」

使者はリブシェ女王の命令に従って、白馬の後を追ってスタジツェ家の村に駆けつけ、女王の言った通りに2頭の牛で畑を耕しているプシェミスルを見つけた。使者が女王のことばを伝えると、プシェミスルは言った。

「君たちはここに来るのが少々早すぎた。もしこの畑を最後まで耕すことができたなら、この国ではいつまでも十分すぎるほどのパンが作れただろう。しかし、君たちが私の仕事を邪魔したので、この国はしばしば飢饉に襲われることになるだろう。」

そう言うとプシェミスルは鉄の鋤をひっくり返して、その上に使者を座らせると、チーズとパンをふるまった。使者がなぜ鋤の上で食べるのか問うと、プシェミスルは答えた。「私の一族の支配は、鉄のように強固で厳しいものになるからだ。平和な時にはその鉄で畑を耕し、戦争の時にはそれで身を守ることができるからだ。そういう鉄がある限り、敵を打ち破ることができるだろう。しかし敵に取り上げられたら、ボヘミアの民は自由を亡くすのだ。」

そう言ってプシェミスルは着替えを受け取り、生まれ故郷に別れを告げると、女王の白馬に乗った。自分のたったひとつの財産として、菩提樹の皮で作ったカバンとサンダルを馬の尻に取りつけ、もう一度使者たちに言った。
「この私の持ち物をヴィシュフラド城に運び、永遠に保存しなさい。私の子孫たちが私の卑しい出身を忘れ、ボヘミアの民に傲慢になることがないように。」

プシェミスルは王位につき、リブシェ王女やその姉が世を去った後、ボヘミアに君臨した。

その8代目の子孫が、ボジヴォイである。


女王リブシェの裁判。プラハ国民劇場の装飾画より。




女傑シャールカの物語

リブシェ女王の死後、男たちの支配に肯んじない女性たちは、ヴラスタという首領のもとで、城塞にこもって男たちに戦いを挑んだ。ヴラスタは美しく勇敢な女傑シャールカに、プシェミスルの手強い部下ツチラトを亡き者にするように命じた。そこでシャールカは一計を企んだ。

ある日、仲間と森を散歩していたツチラトは、木に縛りつけられたシャールカを見つけた。それは罠だったが、ツチラトは泣いているシャールカの作り話に騙され、縄をほどいてやり、酒や食物を与えてやった。やがて2人の間には恋が芽生えるが、その時ヴラスタに率いられた女の一軍が襲いかかり、ツチラトたちを殺してしまう。しかしその瞬間、シャールカははげしい後悔の念に襲われた。

部下の死にプシェミスル王は烈火の如く怒り、ヴラスタを欺いてヴィシュフラド城に誘い込んみ、槍で刺し殺した。女たちの軍は全滅し、残ったシャールカは、ツチラトの後を追うために自ら死を選んだ。

ヤナーチェクのオペラ『シャールカ』
初演時(1925年)のスケッチより。


この2話の出典:
イジー・トルンカ『チェコの古代伝説』(人形劇)
ヴラスタ・チハーコヴァー『プラハ幻景』 新宿書房

* これらの伝説は、伝承によって細部の異同があります。初出は12世紀にラテン語で書かれた年代記だそうですが、残念ながら、
 小生はまだ原文を見たことはありません。チハーコヴァーさんの本は大変面白く、御一読をお勧めします。


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