萬延元年 岩檜葉名寄   

 次の図は、昭和63年に、誠文堂新光社から発刊された、
「原色イワヒバ写真集」日本巻柏連合会編に掲載された、萬延元年の
「岩檜葉名寄」の写真を元に様式を真似て、管理人が模写した物です。


木版墨刷りで作られた、萬延元年の
「 岩檜葉名寄」は縦42cm、横48cm
 の大きさだそうです。

横を中央で二つ折りにし、さらに縦に
四っ折にして携帯していたようです。

巻柏の品種を、特徴別に分類して
掲載しています。


 大きな図で見たい方は図または
ここをクリックすると拡大します
萬延元年「岩檜葉名寄」模写

 分類された種類は次の11項目で、その概要は次のようになっています。

曙 類
 
 晩春から斑を現し始め、夏以降も斑を広げて行き、中斑に成る物や
斑が全葉に、及ぶもの等を言う。 この事を、後冴えとも言います。
春の曙類
 
 春から曙斑を現しますが、夏以降は緑を戻し、斑色が薄くなる品種で、
あまり紅葉も冴えません。 この事を、後眩みとも言います。
白斑曙類
 
 春に葉先から白斑を現し、春から初夏に掛けて、斑を深め全葉を
白に染める物も有ります、夏にはやや緑を戻します。強日管理では、
白斑が黄色を帯び、これを金に例え、金銀斑類とも言います。
白斑類
 
 緑の葉の葉先だけに、純白の本斑(固定斑)を現す品種です、
葉の先に現れるため、葉を手に準えて、爪斑類(白爪)とも言います。
緑の葉に、固定の白の爪斑を持つ品種を指します。
刷毛込斑類
 
 葉の地色とは異なる、白や黄色等の固定斑(本斑)が、ペンキを
刷毛で塗った様に、大きく小さく、又は矢筈形、等に表れ、時には
芯芽全体が斑色に成る事も有ります。(この系統の地色は主に緑色です)
砂子斑類
 
 葉の鱗の先に、強く斑が現れるため、葉全体を見ると、葉に砂を
撒いた様な感じを受ける品種です。(固定斑では無く、斑載りは管理に
よって大きく変るので、広い視野では、曙斑の一種と言えない事は無い)
萌黄葉類
 
 読んで字の如く、葉の地色が萌黄色をした品種の総称です。
黄色の強い品種や、緑勝ちの品種も有りますが、葉の地色が萌黄系
の品種です。 此処に類別された品種でも、多くは曙斑も現します。
青葉替類
 
 緑の地色で斑は現れ無いが、葉形に特徴があり、観賞価値が高い
と評価された品種で、掲載されている9品種の内の、7品種が名を
変え事もなく、現在に引き継がれ、愛培されています。
一本葉類
 
 「岩檜葉」つまり、「岩に自生する檜の葉」が、名称の由来と
思いますが、一本葉で常葉(檜葉形の葉)が全く無い品種か、又は、
常葉の極少ない品種です。 この様な葉を龍葉とも言います。
出物斑入
 
 「出物」の正確な意味は解りませんが、江戸時代から共に伝わる、
朝顔などでは、一代交配種等の突然変化種で、その種を撒いても
同じ品が出現しない物を、「出物」と言ったと聞いた事が有ります。

  此処に掲載された品種は、不遇期と言われ、記録も見当たらない
大正期を生き延び、殆ど現在に引継がれており、出物の意味合いは、
別の所に有る様です。従って、特徴による分類では無いと思います。
出物青葉

「曙斑」とは
季節の移り変わり等により、地色(葉の本来の色とは異なる色彩が、
葉先または葉の中ほど等から現れ、広がる斑を言います。

新芽の時から現れて変化する事の無い、本斑(固定斑)とは異なり、
気温や日照など、その年の気候や、肥料管理等の影響を受け易く、
一度出た斑でも、環境の変化等で消えてしまう事も有ります。


「爪斑」
爪斑の補足説明をすると、この「岩檜葉名寄」の「白斑類」では、緑の地色に白爪を持つ品種
のみを類別していますが、「白斑曙類」に類別された品種にも、曙斑と共に固定の白爪斑を
表す品種が含まれます、「金銀獅子」が其の代表で見事に白爪固定斑を載せる物も有ります。


 この「岩檜葉 名寄」に掲載された品種を、現存種、改名現存種、不現存種の
三通りに類別してみました、興味の有る方は、覗いてみてください。

名寄の掲載品種へ    

 この「岩檜葉名寄」に始まった分類法は、巻柏の特徴を良く捉えて分類されており、
其の後に発行された文献に利用され、現在もこの分類方法は多くの人に利用されています。

 私も大まかな分類には、この方法を利用しておりますが、しかしこの後に出現する、
「墨獅子」や「明宝」等のように、短葉と言うより矮化と言いたいような新しい特徴の品種や、
葉肉の厚い細身の縒れ上がる龍葉で、その先に手葉を付け常葉を交える「猿候獅子」や
「錦昇龍」などと、そこから変化したと思われる「白雲龍」「白王龍」「宮染錦」などのように、
色彩が異なる各種も有り、また「富士之華」や「黄真龍」「浜孔雀」等の様に、葉形と色彩の
複数の特徴を備えた品種も多くなり、未登録の品種を含めると300種を数える現在では、
この類別だけでは何処に入れるのが適切なのか、迷う品種も多くなっています。

 曙斑も後冴えの曙斑類、後眩みの春の曙類では割り切れぬ品種もあり、曙か砂子か
迷う品種も多く、葉形も常葉、一本葉〔龍葉〕では、充分な表現は出来ない現状です。

 この「東都 岩檜葉名寄」が発行されてから、約40年後の明治31年に、東京有志者により
「巻柏種類名寄」が発行されて、この名寄も特徴別の種類分けが、成されているそうです。

 この名寄には各品種に、説明文が付いているそうで、その各文章が所持する
参考書籍に掲載されています、説明文は簡潔ですが、その短い文章から
特徴の全容迄は読み取る事は出来ません。しかし、この説明文のおかげで、
江戸時代の品種の一部まで、その特徴を知る事が出来る、貴重な記録です。

明治31年の品種へ


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