明治31年の品種

 明治31年に「東京有志者 巻柏の種類名寄」が発行されたと、
複数の参考書籍に掲載が有るのですが、残念ながら目にした事が有りません。

また各参考書籍に写真の掲載も無く、どの様な構成なのか解りませんが、
大体において萬延元年の「岩檜葉 種類名寄」の続き版の様だと、一書籍に記述が有ります。

 この「東京有志者 巻柏の種類名寄」においても、掲載品種が特徴別に種類分け
がされており、その掲載品種の全てにおいて、品種の説明文が付記して有るそうです。

昭和7年に誠文堂より発行された「蘭・万年青・巻柏」に、その説明文が掲載されて
おりますので、参考にして頂ければと思い、その全文を引用して転記いたしました。

(昭和44年、加島書店発行「よみがえる古典植物 いわひば」にも、同文の掲載が有ります。)

明治31年、「東京有志者 巻柏の種類名寄」掲載品種説明文

 曙 類
有 明
葉は極荒く中立葉物にして、5、6月ころより、芽先殊に色よく
極陰にては作悪し、中日最上等品
唐 織
貴妃龜綾之類にては極細かき品、四季共に色よく極陰にては
色付悪し平になり、中日を良しとす
楊貴妃
金華山の如く四季共に色よし、極隠にては色付悪し作は中日、
曙のるゐにして最上等なり
唐 花
楊貴妃の如くして中立葉、極荒くして色合同斷、作りは日向又は
中日上等品なり
金花山
立葉物、春の芽出し青く、5月末より白味出黄色光り有、
餘草にすぐれ色物最上なり、作り中日又は極陰にても色でりなり
玉川染
餘草にすぐれ無類細品、白曙四季さへ作は中日を良とす、
極日にては焼を生ず、最佳良の品
花 車
唐花楊貴妃の類にては青き方なり、日向作りは黄色中日にては
白み有、古木は少し赤味を掛る
陸奥山
黄色さえ込斑、下葉に斑の入るものは荒檜葉大出来なり、作は中日
金毛織
日向に置けば黄色にて金毛織、中日に置ば九尾の如く陰の品なり、
又一名金龍と云ふ名あり、作は日向  
錦 木
からひは作り方有明の如くなる品、極日に置ば見事なる品、
白く光有て上々の品なり
花 菱
春芽青く夏芽より黄色を帯ぶ實に見事の品、作は中日を良し
大花菱
花菱の立葉なり能さえれば極見事の品、作は中日又は日向
金 山
極立葉にして草に光あり葉は薄くしてやはらかし、作は中日又日向
金の
金山の如く極荒草より次也作は前に同じ
龜 綾
揚貴妃の如くにて草荒く少し次なり、
作は中日御藥園物の類にて別物なり
玉手箱
玉川染の如き斑あり立葉物、玉川染より少なく荒く四季さへ、
作は中日
玉かづら
玉手箱の如くやゝ荒くして大葉物、作は中日
都 鳥
大花菱の如くなる品地合有、中日の作
花の山
金華山の實生なり、善立金華山の如く陰にては色青く、
日向にては金華山の如し、作りは中日又は日向

 砂子斑之類
古錦欄
砂子斑の中にては斑の良き物也、芽時より色葉の次芽は垂れて、
妙なる事雨後の柳を見るが如し、實に高尚品
紫錦欄
立葉物、古金襴の如き斑にして、冬は紫を掛け實に見事の品、
作は中日なり
都 紅
平葉にて葉を受、爪曙にて中砂子斑の品、中秋の頃より紅を掛る、
作は中日又は日向
白 綾
立葉にて白斑を交へ、かやの雪より葉はこわし、作は中日
虎金砂
(金砂子)古金襴の如くして斑荒く中立葉物なり、作は中日
山本砂子
紫金襴より細かき葉にて、葉もやはらかき品にて紫斑はなし、
作は中日
小雨の錦
葉は細かく斑の細かき品、作りは中日
古郷の錦
紫金襴の斑の無き如く、枝葉打の細かき品、作は中日若くは日向
都 錦
都紅の如くして葉は厚し、作は中日又は日向
 
 萠黄葉之類
寶の山
雄檜葉のるゐ、日陰にては色うすし、日向にて作れば黄色にさへ
見事の物也、萠黄斑類の最上物
黄金獅子
春曙黄色く見事、餘草より葉極薄し
萠黄縮緬
細葉にして葉に縮み有物、作は日向
黄金鶴
寶の山の如くなり、作は日向又は中日
夕日影
日向にては金毛織の如く、陰にては青し、
日向にて作る時は青黄打交ぜ見事に出來る品なり
千代笹
葉細かく、斑は夕日影の如き品なり
立 浪
萠黄にて葉先ちゞれる品なり
羽 衣
陰にては薄黄色、日向にては極黄色なり、最も見事の品とす
天乙女
羽衣のごと如く陰にても黄色也、日向にては焼る事有、
葉先縮みて陰陽共に萌黄色なり

 一本葉之類
龍 登
萠黄色立葉物なり
臥 龍
極細かくして平む
群 龍
臥龍より少しく幅を引きて少しく光りある品
青 龍
外品より鱗荒く、凡て荒々しき品なり、此種にて一等荒々し
龍 尾
群龍の如くして少し巻揚る品なり
雨 龍
葉の形群龍の如くにて萠黄色也
燕 尾
葉の形燕の尾の如く葉先割れたる品なり

 白斑の類
天鵞絨
 白爪斑草に光り有細葉なり、作は日向又は中日上等品なり
雪月花
白爪斑天鵞絨よりすこしあらく、中立葉物也、作は中日又は陰にても良
松の雪
天鵞絨の如く光り有て斑はまばら也、中日
高 砂
白爪斑天鵞絨より少し荒く中立葉物なり、作は中日
槍葉
白爪斑にて葉先細かくまばらの斑なり

 刷毛班之類
一天四海
黄の刷毛込斑六つ葉物、殊に斑の強き葉を交へ、
中立にて最高装尚の品なれ共、斑廻り至て六つ可敷、作は中日
友白髪
白地の如く少し草荒くして、斑廻り良品出来れば見事、作は中日又は陰
榧の雪
立葉にして白刷毛込斑なり、最も見事成品、作は中日又は陰
白地の錦
斑廻り六つ可敷無班の物多、斑廻り能き品は小節にて見事、
作は中日をよしとす
蜀の錦
一天四海の類にて黄斑の品、斑の六つ可敷品、上斑は見事、
作は中日又は日向
唐更砂
友白髪に似て極荒檜葉、斑廻り六つ可敷良きは見事、作は日向を良

 白斑曙類 
旭の瀧
白曙に白爪斑入、春夏は雪の如く秋より冬は並の金銀の如く見え、
實に美なり、一名勇蔵金銀とも云ふ
富士の旭
爪曙は白爪斑入、作は中日、一名御藥園金銀と云ふ
東 鏡
雲井鶴の如くして爪斑少し多き品なり
金銀獅子
曙に白斑入、作は中日又は日向、一名八兵衛檜葉と云ふ
丹 頂
まなつるの地班なき品黄色秋より冬は紅葉、餘草にすぐれて見事、
作は中日、旭の瀧のるゐなり
雲井鶴
旭の類金銀の荒ひはなり
(管理人の一言) この系統には白曙斑と共に、白爪の固定斑を持つ品種があります。

 青之葉變 
古今獨歩
四角の立葉にて一本葉の如く光あり、作はいづれにてもよし
黒牡丹
さながら牡丹の花しべの如く葉を受け、玉獅子より少しくあらく光あり
玉獅子
黒牡丹の如くして葉の細かき品なり、作は中日
八重麒麟
色合極深くして葉先割れ八重に成る品也
猿 猴
名の如く元一本にて長くは先手を開きし如し
折 鶴
葉荒く葉先少しく折るゝ物なり
青 柳
青々として葉のこ節物なり
黒 龍
受葉荒くして光りある立葉物なり
雲 鶴
黒龍の如く少し次なり
飛 龍
猿猴の如き葉合は一本葉を交へる品なり
玉孔雀
八重キリンの如く葉薄く八重キリンより柔かきものなり
玉麒麟
八重キリンの如くにて葉つまりなり
  
 春之曙類 
四季の曙
四季毎に白くさへ細かきひばなりさへ方見事也 
八重爪
四月より六月まで葉先白くさへ秋は青し、作は日陰物なり
飛奈鶴
春芽よし夏芽青く秋芽青く秋芽赤味あり、作は中日
羅砂爪
八重爪の如くにて曙薄く、葉つまりて行儀よし、
秋より冬は紅葉宜敷見事なる品、作は日向又中日
高尾錦
夏中白く秋は青し、作は日陰なり
白 妙
金華山の青き時節白くなる
富士の雪
春芽青し夏は少しの間白く曙斑出る、草につやあり、作りは中日
雪 笹
中立受葉にして白爪をかける品、作りは中日又は日向

 雜種類
花 染
中立葉して古葉に紅からけ見事の品也、作は中日又は日向
金欄織
古錦欄の如くして葉先すこぶる白はぜ也
御所錦
金銀生にて少々受葉土用より紅を掛る
京更砂 
中立細葉にて黄色更紗斑なり
青 嵐
玉孔雀の如く品也
眞奈鶴
雲井鶴の如きもの
雲 龍
黒龍の如く色薄き物
織 殿
花菱の花班四季さへなる品にて見事なり

 出物一品之類
御幡之錦
(田戸氏出) 葉形は黒牡丹の如く、斑は揚貴妃の如く見事也
紫雲綾
(小野澤氏出) 立葉にて花染より数培こき紫をかけ、じつに見事の品
黒牡丹白斑 (大橋氏出) 黒牡丹に極雪白斑を交し品にて極めづらしき品な

以上です
 其の後に発行された銘鑑は、格付け方式になり、
類別の見地からでは、天保年代に逆戻りの感があります。



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