オルセー美術館は、もとオルセー駅の駅舎だった建物を、1986年に美術館として改造したのだそうです。

その絵画は教科書でおなじみのが多く、西洋近代美術史を復習しているみたいでした。

入り口から降りていくと、中央ホールにたくさんの彫刻が並んでいました。

広いスペースに彫刻はゆったり配置されているのですが、鑑賞者で混んでいました。

右手２番目の黒いブロンズは、アントナン・メルシエ「ダヴィデ」の像です。
少年ダヴィデが巨人兵ゴリアテを川で拾った石を放って打ち倒し、その首をゴリアテの剣ではねた後、鞘におさめようとするところ
　　＜参考＞　　↓ 　

上の写真の左側手前に横たわっているのがこの大理石像です。

ロダン美術館にあるブロンズの横たわる女性像はそれでも荒削りでしたが、こちらは驚くほどリアルでした。

ホールの奥の階上から、入り口の方を振り返ったところ。

美術館の中央ホールはもともと駅の地下ホームでした。奥に写っている大時計はオルセー駅時代のもので、ターミナル駅の面影を残しています。

手前の大きな像は、球形が地球で、それをヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジアの女性たちが持ち上げているのだそうです。

この階上にも、カミーユ・クローデルの「分別盛り」が展示されていました。　　↓

これは中学の美術の時間に、先生から「裸の女性は、清らかな泉の擬人化されたものだから」と教えてもらったのですが、なかなかすぐには理解しにくいものでした。　

いずれ新古典主義の裸婦の傑作です。

アングルはダヴィッド（「ナポレオンの戴冠式」「サビニの女たち」参照）の弟子で、イタリアに留学しラファエロやミケランジェロの影響を受けました。

ルーブル美術館にある「グランド オダリスク」も有名です。　↓

マネはそれまでの西洋絵画の伝統を打ち壊し、絵画を近代に導いた画家と言われるそうです。

この「草上の昼食」は、発表された当時から物議をかもした作品。

それまで西洋の裸婦はヴィーナスのように「女神」として描かれたり、少なくとも裸身には必然性があったのを、この絵では全く不自然なシチュエーションで女性が裸身をさらしているからです。

この絵に隠されたモチーフは何なのか、いまも謎だそうです。

「草上の昼食」以上にスキャンダルとなったのがこの作品。

それは、あきらかに娼婦を描いた作品だからだそうです。

それゆえ不道徳な作品として非難されたのですが、なぜかこれもマネの代表作になっています。

印象派を代表する、「光の画家」と言われたモネの連作。

同じテーマで光線の僅かな違いを表現していきます。

「ルーアン大聖堂」の連作はここでは５ 点展示されていましたが、実際には30点も作成されたそうです。

やはり同じテーマで描かれた作品。

順光と逆光で異なる傘の陰影に、光線のもたらす微妙な違いがよく表現されています。

印象派に与えた浮世絵の影響は大きく、モネが日本美術に傾倒していたことを示す作品もあります。
「 ラ・ジャポネーズ」 ↓

この絵は、ダンスホールの賑わいとともに、木漏れ日が揺らめくように斑点状に表現されていて、印象派時代の傑作と言われます

ルノワールは近くにあったこのダンスホールに通って制作したのですが、絵の左側で踊る一組の男女と、手前のテーブルで談笑する五人の男女は、ルノワールの友人たちがモデルだそうです。

ルノワールは印象派の画風の後に、ラファエロやアングルの影響で独特のタッチの豊満な裸婦像を描くようになります。　　↓

その特徴はレリーフにも現れています。

やはり印象派の画家として有名なドガの晩年の代表作です。

ルネサンスの巨匠たちやアングルに影響を受けたドガは、自分を「現代生活の古典画家」と言っていたたそうですが、好んで踊り子の絵を描きました。

この絵を描いた頃はほとんど目が見えなかったそうです。親指で絵の具を塗っていたとも言われます。

それにもかかわらず、何気ない踊り子のそぶりや、衣装などの微妙な色合いの調和は、さすがです。

株式仲買人だったゴーギャンは、株式相場が大暴落して不安を抱き、35歳で画家に専念します。

南仏アルルでのゴッホとの共同生活が破綻した後、西洋文明に絶望してタヒチに渡ります。

そこで描いた独特の絵は、同時代の画家には評価されなかったものの、亡くなってから有名になります。

その作品群が特別コーナーを設けて展示されていました。

NHK「世界遺産100」シリーズの冒頭画面では、ゴーギャンの大作「われわれはどこから来たのか 〜」＜ボストン美術館所蔵＞が用いられていました。

ミレーはパリの南方約60�qにあるバルビゾンに住み、自然の中で働く農民の姿を写実的に描きました。

「晩鐘」からは、大地とともに生きる農民の、つつましい宗教的感情が伝わってきます。

同じく代表作「落ち穂拾い」　 　　↓

クールベは、法律家にさせようとした父親の意志に反し 、ルーヴル美術館で名作を模写して画家を志します。

実際よりよく描かれるのが絵画だと思われていた当時、ミレーととともに普通の人々を忠実に描く写実主義を推し進めました。

代表作「画家のアトリエ」も写実主義の大作です（縦約3.6m、横約6m）。

クールベは共和主義者で、1870年パリ・コミューンに参加し、投獄され、亡命先スイスで亡くなりました。

ブグローはアングルなど新古典主義の流れをくみ、神話を題材とした耽美的な絵を多く描きました。

生前は名声が高く、19世紀フランスを代表する画家と見なされていたそうですが、20世紀になると印象派やキュビスムなどのモダニスムが台頭し、旧勢力としてのアカデミックな絵画は美術史から消えていきます。

それが20世紀末になって、再び評価され始めたのだそうです。

「プシュケを略奪するキューピッド」　　↓

美術館からモンマルトルの丘が望めます。

この丘で、1534年イグナチオ・デ・ロヨラが、フランシスコ・ザビエルなど６人とともに生涯を神にささげる「モンマルトルの誓い」をたて、イエズス会設立に至ったのでした。

１９世紀後半から画家たちが集まり、ピカソやモディリアニもアトリエを構えました。

白い建物はサクレ・クール寺院。

20世紀最大の画家と言われるピカソは、最も多作で最も作品総額の高い画家だそうです。絵画取り引きでは100億円を軽く超えて最高額を更新したこともありました。

そういうこともあってか、展示品は1973年に死去したピカソの遺族が相続税として物納した作品が中心だそうです。

美術館では、青の時代、バラ色の時代、キュビスム、新古典主義、シュルレアリスムと、次々と変わっていく作風にあわせて年代順に展示されていました。

その変遷を順路に従って見ていくと、ピカソが創り出す新たな作風が、次々と絵画史上衝撃を与え続けてきたことがよくわかります。

「山羊」というおもしろい彫刻もありました。

祖国スペインでは、1936年共和国政府に対してファシストのフランコ将軍がクーデターを起こしました。翌年、小都市ゲルニカがフランコ将軍を支援するナチスドイツに無差別空爆されます。それを聞いたピカソは、その悲惨な状況を縦3.5ｍ横7.8ｍの巨大な絵画に、1ヶ月足らずで描きあげたのでした。　

ピカソは後にパリを占領したドイツ軍の将校から、「『ゲルニカ』を描いたのはあなたですか」と問われると、「いや、あなたたちだ」と答えたと言われます。

1944年ピカソはフランス共産党に入党します。そして「自分の絵は共産主義者の絵だ」と述べたそうです。