(邪馬台国と大和朝廷を推理する)
  
Ⅱ古暦の巻  章 邪馬台国の年代論 (1920・21・22)
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22 神話の初め(前)

古事記

 高句麗王家と天皇家の家系がつながることになると、日本神話はその書き出しの部分から、すでに歴史との接点を持っていることがわかります。『古事記』の神話は別天つ神(ことあまつかみ)五柱(いつはしら)から始まりますが、この五人の神は、宮(神武天皇)以前の五人の高句麗王に対応します。

 五人の神は、さらに三人の神と二人の神にグループ分けされています。これは、高句麗王の初めの三代が直系相続なのに対して、4代王は兄弟相続で、5代王はオジ・オイ相続であることに対応します。ここには直系相続を尊重する中国思想が表れています。

 ◯別天つ神五柱(古事記)

  独神
(ひとりがみ)三柱 

        ①天御中主
(あめのみなかぬし)
        ②高御産巣日
(たかみむすび)
        ③神産巣日
(かみむすび)

  独神
(ひとりがみ)二柱

          ④宇摩志阿斯訶備比古遅
(うましあしかびひこぢ)
          ⑤天之常立
(あめのとこたち)

 図表35  別天つ神五柱と本来の神世七代Ⅰ(高句麗王の時代)

 (別天つ神五柱)
  1東明──2瑠璃─┬─3大武神──5慕本
  
1東明──2瑠璃─├─4閔中
  
1東明──2瑠璃─└──再思
  
1東明──2瑠璃─└── ├─1神武───2綏靖
 
 1東明──2瑠璃─└──女性

 続く神世七代(かみよななよ)では、まず二柱の独神が登場します。この二人の神は、即位しなかった再思とその妻に対応します。二人は宮の両親です。しかし神話では、夫婦ではなくそれぞれ独立した神とされます。

 続いて五組の夫婦神が登場します。五組目がイザナギとイザナミですから、五組の夫婦神は①神武と后、②綏靖と后、③安寧と后、④懿徳と后、⑤孝昭と后にそれぞれ対応します。ただし、③安寧と④懿徳が夫婦であることは忘れられました。そのために、懿徳を男性と見なしています。

 ◯神世七代(古事記)

 独神二代 a国之常立
(くにのとこたち)
      b豊雲野
(とよくもの)

 夫婦神五代 ①宇比智迩
(うひぢに)
        妹須比智迩
(いもすひぢに)

       ②角杙
(つのぐひ)
        妹活杙
(いもいくぐひ)

       ③意富斗能地
(おおとのぢ)
        妹大斗乃辧
(いもおおとのべ)

       ④於母陀流
(おもだる)
        妹阿夜訶志古泥
(いもあやかしこね)

       ⑤伊邪那岐
(いざなき)
        妹伊邪那美
(いもいざなみ)

 図表36  神世七代

 ◯神世七代

  a再思
   ├────①神武──┬──②綏靖
  b女性
───────―└──────③安寧
  
b女性───────―└────── ├────⑤孝昭
  
b女性───────―└──────④懿徳

 ◯本来の神世七代Ⅱ(小国の時代)

  ③安寧
    ├────⑤孝昭──┬──⑦孝霊
  ④懿徳 
 ├──────└──⑥孝安────⑧開化
 
 ④懿徳  ├──────└──⑥孝安──── ├───
 
 ④懿徳  ├──────└──⑥孝安────⑨孝元

 『古事記』の神話の書き出しは、別天つ神五柱には問題がありません。しかし、神世七代は不自然です。実質四組の夫婦を五組に間違えたことには理解の余地がありますが、王にならなかった二人を二代と数えることには抵抗があります。本来の神世七代は、この七代のことではないと思われます。

 それでは、本来の神世七代はどんなものかというと、答えは二つあります。まず、別天つ神五柱に宮と綏靖を加えた七人の高句麗王が、神世七代Ⅰです。そして、続く安寧天皇から孝元天皇まで小国時代の七人の王が、神世七代Ⅱとなります。別天つ神五柱と神世七代は別の時代区分法であり、見解が違うから両立も連続もしないものと思われます。

日本書紀

 『日本書紀』の書き出しは、まず天地の始まりを述べてから、いきなり神世七代に続きます。別天つ神五柱は登場しません。『日本書紀』の神世七代では,まず第一段に三人の男神が登場し、第二段では四組の夫婦神が登場します。あわせて神世七代とします。

 ◯神世七代(日本書紀)

 第一段・男神 ①国常立尊
(くにのとこたちのみこと)
        ②国狭槌
(くにのさつち)
        ③豊斟渟
(とよくむぬ)

 第二段・夫婦神 ④埿土煮
(うひぢに)
          沙土煮
(すひぢに)

         ⑤大戸之道
(おほとのぢ)
          大苫辺
(おほとまべ)

         ⑥面足
(おもだる)
          惶根
(かしこね)

         ⑦伊奘諾
(いざなぎ)
          伊奘冉
(いざなみ)

 第一段に現れる三神は、『古事記』の別天つ神五柱から後半の二神が脱落したものと思われます。第一段第四の一書(別伝)では、五神が現れたとしています。これが正しい伝承です。ただし、ここでは二神のあとに三神が登場していて、順序を間違えています。

 第一段第四の一書 ①国常立
(くにのとこたち)
          ②国狭槌
(くにのさつち)

            ③天御中主
(あめのみなかぬし)
            ④高皇産霊
(たかみむすび)
            ⑤神皇産霊
(かみむすび)

 第二段では、夫婦神が四組登場します。『古事記』で検討したように、これが正しい姿ではあります。しかし、これでは天皇が五人いたことを確認できません。ここに問題があります。ところが第二段第二の一書では、直系で五代の神が現れたとします。三番目と四番目の神が夫婦であることは忘れられていますが、この五代が神武天皇から孝昭天皇までの五代に対応することは明らかです。これも一面では正しい伝承です。

 第二段第二の一書 ①国常立
(くにのとこたち)
          ②天鏡
(あまのかがみ)
          ③天万
(あめよろず)
          ④沫蕩
(あわなぎ)
          ⑤伊奘諾
(いざなぎ)

 以上のように、『日本書紀』の書き出し部分も、基本的な構成は『古事記』とほぼ同じです。それなりに史実の反映も見られます。しかし、神々の脱落があるため、正しい神世七代とは思えません。


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