秋の休日、走る美術館と言われている『現美新幹線』に乗ってみました。 越後湯沢と長岡の間、約20分の乗車中に、様々なアートと出会えました。
車体には、長岡の花火を写した写真が、赤や青、オレンジなど、華やかにプリントされています。
車両ごとに、一人のアーティストが展示を担当。ここには、川面に写った草花のようなモビール・アートがユラユラ揺れています。 越後湯沢あたりはトンネルが多く、車内が暗くなりがちだけれど、こういう作品があると、まばゆいですね。
車内の座席は、ゆったりソファタイプ。 休日でも思ったより混んでいなかったので、のんびり座れました。 この車両の壁は、メタリックで、ところどころ、鏡のように乗客や窓の外の風景が映ります。 一秒たりとも変わらない風景、その風景を映し、走るにつれ変わっていく壁絵。新幹線という空間を利用した、見飽きないアートです。
長い電車の旅に退屈した子どもたちは、ここに集合! プラレールで遊べる車両です。床も壁も、プラモデルの街みたいなデザイン。手元のおもちゃの電車をレールの上で走らせれば、ここでもやっぱり窓の外の風景と重なって、本物の電車の運転手気分になれそう。
美味しい珈琲の飲める車両もあります。街の中のカフェにいるみたいな落ち着いた雰囲気。時間が無くて、飲めなかったのが残念ですが。 こんなお菓子も売っていました。珈琲を頼んだら、一緒にお菓子も注文したくなっちゃいますね。
新幹線の中だというのを忘れてしまいそうなギャラリー。絵や写真を眺めているうちに、「あら、もう降りる駅だ」と慌てて荷物を手に取りました。 長岡駅で乗り換え、今度は特急で上越へ向かいます。
高田駅で降り、大きなハスの池や、お城のような三重櫓 が建つ、緑豊かな高田公園を歩き、高田図書館へ。今回の旅で目指していたのは、この図書館の中にある『小川未明文学館』です。 今年は小川未明文学賞25周年ということで、東京でも様々な記念イベントが行われていますね。 新聞などでも、この文学館のことが紹介されていて、是非行ってみたいなと思っていました。 図書館の一階が展示室になっていて、入り口に巨大な本! 和服姿の未明の等身大写真が付いていて、身長表示が「180センチ」となっていて、びっくり! なんとなく、小柄のようなイメージがあったもので(童話の世界に住んでいそうな感じで)。 上の写真は、未明の顔が光っていて残念なのですが、ちょうどスポットが当たっていて、どの角度から撮っても光ってしまうのです。 お顔が知りたい人は、本やパソコンで探してみてくださいね。
未明が70歳の時に移り住んだ、高円寺の家を再現したコーナー。当時の、未明が写っている書斎写真がありますが、この部屋はかなり再現度が高く、今にも未明の姿が見えてきそう・・・。文机や脇息、火鉢などは実際に未明が愛用していた物らしいのですが、きっと未明は物を丁寧に扱う人だったのでしょう、公開のために磨いたり修理した部分もあるのでしょうが、新品のように綺麗です。
未明というと、皆さんがまっ先に思い出すのは、『赤い蝋燭と人魚』でしょうか? 去年、長い入院をした時に、未明の短編集をじっくり読み直したのですが、何度読んでも、切ない余韻が残るお話です。 バッドエンドの多い未明作品、このお話も“こわい”終わり方。だけど、これ以外に考えられない結末になっています。人間の心の弱さを反省させられる作品ですね。
タイトルにもなっている重要アイテムの赤い蝋燭が、こんなふうに飾られていました。絵蝋燭は、館内のお土産コーナーでも売られています。
子どもの頃、好きだったお話『月夜と眼鏡』の展示は、こんな大きな眼鏡で女の子を見る仕掛けになっていました。未明も掛けていた丸眼鏡をのぞいてみると・・・女の子は可愛い蝶に変身します。
未明の作品で一番、印象深いのは、やっぱり子どもの頃に読んだ『金の輪』かな? 小さな男の子の主人公が風邪をひき、やっと治った頃におそるおそる外へ出てみると、金の輪を回す、見慣れない男の子が走ってきて、親しげにニッコリ笑う。「誰だったんだろう?」 そんなことが続いて、最後は、あろうことかな、主人公が死んでしまう。衝撃的な終わり方です。 せっかく治ったばかりだったのに・・・、とか、男の子は死の国の使者だったのか?とか、いろいろ考えてしまう物語で、現代版として出された絵本には、必ず“金髪の男の子”が出てきます。文章には、どこにも金の髪という表現は無いのですが、なぜか異国の子を想像してしまう。 今回、未明の作品を、現在活躍中のイラストレーターさんたちが絵本に仕立てて、展示していますが、『金の輪』は今っぽくアレンジされていても、すごく良かったなぁ。あさいとおるさんの絵が無邪気で可愛い。
未明の世界を満喫した翌日は、新潟市を歩き、版画通りという細い道をたどってみました。通りのあちこちに版画が飾られていて、見て歩くだけで楽しい道。 正統派版画の並ぶ中に、こんな落書きもあって、却って目立っているような。 道の先には『マンガの家』というのが建ち、若い子たちが出入りしていました。
中には、『パタリロ!』がいました。摩夜峰央さんの作品で、私が子どもの頃から有名だったのに(当時は読んだことはありませんでした)、今も連載が続いているなんて、すごいです。読んでみました。パタリロ、可愛いです。摩夜さんは、『翔んで埼玉』という漫画で今年、注目されましたね。ずっと女の人だと思っていたのですが(絵柄から)、男の人だったんですね。 パタリロ人気も再燃して、来月は紀伊国屋ホールで舞台が行われ、パタリロは加藤諒が演じるそう。 観てこようと思っています。
今月、読んだ絵本は、荒井良二さんの新作『きょうはそらにまるいつき』(偕成社)。 色が少なくなる冬の夜空を、この絵本が賑やかにしてくれます。いろんな場所から、いろんな人が見上げる、まん丸い月。どんな思いを抱えて、見上げているのでしょう?
バレエレッスン帰りの女の子のページが好き。 バス通りや高層ビルや、華やいだ夜の公園は、どこの街というわけでもないのでしょうが、実家のある街に似ていて。 窓から外を見下ろすと、ちょうど、この絵本みたいな感じ。この絵本をいいな、と思うのは、原風景みたいでホッと出来るからかなぁ。
実家に近いブックカフェの内装が、この絵本に通じるところがあるような気がして、行ってみたら、創作のアイディアがいろいろ湧きました。新しさと古さがミックスされているような店って、落ち着けます。赤い壁も温かいな。
先月のハロウィーンと、来月のクリスマスに挟まれて、静かな11月。 年賀状も販売されたので、今年は早めに準備しよう!なんて今は考えていますが、どうなるやら。 寒くなってきましたので、風邪などひかないように。
2016年 11月
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