日々のエッセイ

 木々の緑が鮮やかな5月です。風も爽やかで、日ごとに初夏らしさを感じますね。
 初夏のイメージカラーは、なんとなくミントブルー。緑と水色の中間色といったところでしょうか。
 そんな色がお店の名前になった本八幡の『ミントブルー』さんで、一日だけの豆本展覧会が行われました。

    

 ハーブティーの専門店ですから、お店の名前の由来は、植物のミントブルーに因んだものでしょう。デルフィニウムというキンポウゲ科の植物で、真っすぐ棒状に白い小花が連なって咲く姿は、千鳥草のようです。

    
  写真では見づらいですが、青い窓の前に、ローズゼラニウムがピンク色の可愛い花を咲かせていて、良い雰囲気でした。このハーブ、いつもならもっと遅くに開花するそうですが、気候が暖かいせいか、展覧会の時に咲いて、まるで歓迎してくれているよう。

    

 オープン前の店内です。オーナーさんはハーブの畑を持っていらして、そこで育ったミモザをスワッグにして飾ってありました。今年のミモザ、まだ黄色が鮮やかな素敵なスワッグです。

    
 
 展示はこんな感じです。青い店内に似合いそうな豆本を選んで、並べてみました。いくつかの豆本は販売されました。
 ご来場くださった皆様、ありがとうございました。また、小さくて可愛い本をたくさん創りたいです。アイディアも材料も、あれこれ楽しみながら集めていますので。

    
 在廊中、頼んだ季節のハーブティーは、5月を想わす爽やかな味。生のハーブを使っているので、香りが濃く感じます。
 一緒に食べたラベンダープリンも、すごく美味しかったです。

 プリン、というキーワードから「ゼリー」を想い、「5月のそよ風をゼリーにして持って来て下さい」と言った詩人のことを思い出しました。ご存知の方も多いと思いますが、それは立原道造さん。
 日本橋生まれで、東大の建築科在籍時には何度も賞をもらい、前途有望な建築家であり詩人でもあった青年。24歳の若さでこの世を去る前、病床に伏した春に友人にそう語ったそうです。
 「5月の風をゼリーにして持ってきてください ひじょうに美しくておいしく 口の中に入れると すっととけてしまう 青い星のようなものが食べたいのです」
 優しい童話のような、叶うことのない切なさを含んだ注文ですね。私が立原道造さんのことを知ったのは、中学生くらいの時で、その頃、愛読していた立原えりかさんのペンネームの由来が、この詩人からきていると聞いたからです。立原えりかさんの童話の原点は、この詩人なのだなと思い、関連本をいくつも読んだものです。

   


 当時、買った立原道造さんの詩集があります。ご本人がデザインした大きな楽譜型の詩集で、とてもお洒落な装丁です。立原さんの詩といえば、ソネット。14行から成るヨーロッパの定型詩の形ですね。

    

  その立原さんの建築物が、浦和にあると聞いて、別所沼まで行ってみました。軽井沢を訪れるのが好きだった立原さんは、日本橋の自宅から、浦和を通って軽井沢へ向かっていたので、旅の中間地点にある別所沼あたりに別荘があればいいなぁと夢見ていたそうです。この辺り、今は賑やかですが、当時(昭和初期)は静かで創作が進みそうな場所だったのでしょう。

     

  直筆のスケッチ。存命中には実現しなかったのですが、立原さんの意思を受け継ぎ、2004年にそのスケッチ通りの家が別所沼のほとりに完成しました。本当に、どこからどこまで、図面通りの五坪ほどの家。

   


  風信子荘(ヒヤシンスハウス)という名前も、立原さんがつけたものです。庭に掲げた旗は、当時、画家の深沢紅子さんに依頼したとおりのデザイン。特に窓枠のブルー(ミントブルーと言えるかもしれません)は、立原さんが大好きで拘りのあった色だそうです。

    

 椅子や窓の十文字も、立原さんのデザイン。67年の時を経て造られたヒヤシンスハウスは、私が訪れた休日には、ひっきりなしに人が出入りしていて、人気が伺われます。熱心に建物を見て回る若いお嬢さんもいて、優しいソネットは5月の風にのって、みんなの耳元に今も響いているようです。

    
 
 5月らしいお菓子を頂きました。色とりどりの鯉のぼり。大空を気持ちよさそうに泳ぐ鯉のぼりが、新しい季節の到来を告げています。元気いっぱいな5月を!

  2024年5月

 トップページへ
 前回のエッセイへ
 次回のエッセイへ